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アルカディア学報

No.431

大学支援機関の役割と課題
国立大学財務・経営センター国際シンポジウム

研究員 丸山 文裕(国立大学財務・経営センター教授)


 昨年11月2、3日の両日、政府と大学の中間に位置する組織・機関の役割と課題についての国際シンポジウムが、国立大学財務・経営センター主催で、学術総合センターで開催された。中間組織または第三者機関は、どのように大学を支援し、大学の活力を育てているのか、またそれらの今後の課題は何か。シンポでは、外国と日本の大学支援機関関係者が、それらについて討議を行った。
政府、大学、第三者機関
 高等教育における政府の役割は、全体計画の策定、財政支援、設置認可と評価、機関目標、計画の割り当て、経営、業績についての情報収集と公開である。これらはすべて社会に対するアカウンタビリティ向上にかかわっている。しかし高等教育の規模が拡大した現代に、すべての役割を政府が果たすことは、大きな負担となる。特に小さな政府を目指す先進諸国では、これまで政府が行っていた業務を大学自体に任し、または業務の一部を外部にアウトソーシングし、ダウンサイジングする。そこで業務委託先として、第三者機関が存在することになる。
 大学は、中世ヨーロッパ以来、自律性を中心的価値としてきた。外部権力の介入をなるべく避けて、その使命である教育、研究、社会貢献の達成を目指す組織である。最近では大学に自律性を持たせた方が、より効率的に機能するという考え方も大学の独立性に拍車をかけている。しかし、一つの大学が閉じた世界の中で、使命達成を行うことには限界もある。そこには複数大学の連合体や、大学支援を行う第三者機関が必要となる。つまり政府と大学の双方から、何らかの支援機関が必要となる。
 政府と大学の間にある第三者機関には、さまざまなものがあり、その役割も多様である。特に最近では、高等教育の効率化、高水準化を達成しようと、政府は大学に対して経営の自由度を拡大すると同時に、アカウンタビリティの向上のため、大学への監視を強めるという複雑な状況になっている。よってアカウンタビリティと自律性をどうバランスさせるかが、各国とも重要な課題となっている。そこでは第三者機関の性格も多様化せざるを得なくなる。
 今回のシンポでは、第三者機関を機能の違いによって、資金配分機関、大学評価・適格認定機関、大学任意・民間団体の三つに分けて、それらの役割と課題について議論した。資金配分機関および大学評価・適格認定機関は、法律によって設立され、政府の役割を補完する機能を有する場合が多い。それに対して任意・民間団体は、利益団体であり、大学をサポートする機能を有すると考えられる(もちろん他には、大学入試センターのような他の機能を果たす政府系機関もある。また資産管理、経営コンサルタントなどの営利企業も支援機関に含まれようが、今回は除外した)。
 日本におけるこれらの機関の位置づけと役割については、文部科学省の小松親次郎審議官がまとめ、今後の方向性を示唆した。またファブリス・エナール氏は高等教育発展のためOECD/IMHEが果たしている国際的な役割を説明した。
資金配分
 日本における高等教育への主な公的資金は、運営費交付金、私学助成金、研究費補助金、奨学金である。運営費交付金を除く公的資金は、第三者機関が配分している。日本私立学校振興・共済事業団は、一九七五年から私学振興助成法に基づいて、私学助成金を配分している。シンポでは、河田悌一理事長が、事業団の歴史と業務の現状を報告した。日本学術振興会は、科学研究費補助金の配分業務の一部を担っている。そして奨学金は、日本学生支援機構がその貸付業務を行っている。その他には国立大学への施設費交付貸し付けを行う国立大学財務・経営センターがある。
 日本におけるこれらの機関の位置づけは政府のエージェンシーに近いものである。しかしイギリスの資金配分機関は、政府からの自立度が大きい。シンポでは、国立大学財務・経営センターの水田健輔教授が、資金配分の世界的動向をまとめた。続いてイングランド高等教育財政カウンシル(HEFCE)のクリフ・ハンコック氏が、政府から独立して大学へ資金配分しているカウンシルが、イングランドの大学の効率性と自律性を高めている、という利点を指摘した。
 日本の高等教育への公的資金投入が、欧米諸国に比べ少ないことは、再三指摘されてきた。これらの機関の努力で、その増額がなされるわけではない。しかし、これらの機関がより効率的、効果的な資金配分するための方法が、継続的に検討される必要があろう。
大学評価・適格認定
 欧米諸国は、大学の教育研究活動を活性化させるため、1980年から大学評価業務遂行を積極的に推進してきた。しかし日本では高等教育の質の保証は、長らく文部科学省の設置認可行政によって担われてきた。それによって大学評価については、欧米に比べその導入が大きく遅れ、実際の活動はようやく緒についてところである。
 大学評価機関は、評価結果と資源配分が結び付けられると、そのあり方を巡ってより一層議論がなされる。アメリカのテネシー州で行われている「パーフォーマンス・ファンディング」は、評価結果を予算に反映させるより直接的な方法である。他方、フランスや日本の国立大学法人制度では、政府と大学とが「契約を、取り交わし」、交付金配分はその達成度に影響を受けるが、いずれの方法も、政府と大学の両者に満足を与えていない。
 シンポでは、フランスのピエール・グロリュー氏が、大学評価を行い始めて三年となる研究・高等教育評価機構の概要について報告した。また韓国の大学評価と情報公開については、韓国教育開発研究所のイム・フナム氏が説明した。そして日本の評価システムは、他国の例を見ないほど包括的である。それについて、大学評価・学位授与機構の河野通方氏が同機構の役割を中心に日本の評価制度を解説した。
大学団体
 大学が任意に設立する団体は、各国とも大学数が増加するに従って多くなる。それらは団体として活動し、その役割は、主に参加大学の発展と大学利益の確保である。日本では、財政状況の悪化により、国立大学の運営費交付金は減額されている。また私立大学の経常費補助金は、このところ伸び悩んでいる。私立大学の学生数は増加しているので、学生一人当たりの補助金は、減額されていることになる。このような状況に対して、大学諸団体は公財政支出の増額、少なくとも現在額の確保を求め続けている。今後の役割はますます大きくなり、その重要性は増すであろう。
 これまで大学団体は、さまざまな方法によって、学長、理事、上級中堅職員、新任教職員ら対して研修を行ってきた。これらは、大規模大学では独自で可能であるが、小規模大学では不経済となり、大学団体に対する期待は大きい。そして日本では財政的に潤沢でない私立大学は、大学経営人材の育成に熱心であり、団体を通じてこのような人事養成を積極的に行ってきた。
 シンポでは、国立大学協会の野上智行専務理事と日本私立大学協会の小出秀文事務局長が、日本の大学団体の役割と課題について報告した。またアメリカの事情については、ゴードン・デービス・ケンタッキー中等後教育会議元理事長が紹介した。
 すべての報告が終了した後、国立大学財務・経営センターの金子元久研究部長が総括を行った。第三者機関の役割はそれぞれ変化しており、コアの役割のほかに、今後はさらに大学経営のモニタリング、経営相談および大学経営人材育成などの機能を果たすことが必要となろうと結論付けた。
 最後に主催者の一員として、この場を借りて、外国と日本の報告者の方々、および参加していただいた大学関係者の方々にお礼を申し上げたい。