アルカディア学報
韓国大学のアジアでの位置
朝鮮日報社の大学ランキング
【韓国からの発信】
タイムズ紙の世界大学ランキングにおいてアジアの大学が躍進していることを本紙「アルカディア学報270」(07年1月24日付)に紹介したのは約4年前である。その後もアジアの大学の躍進は続いているが、09年度からアジアの大学のみを対象にした大学ランキングが登場した。これは、韓国の新聞界を代表する朝鮮日報社がイギリスのQS社(クアクアレリ・シモンズ)と組んで、09年度から共同実施しているものである。本稿では10年5月末に発表された第2回目の結果について、その概略を紹介したい。
なぜ韓国の新聞社(朝鮮日報)がアジアの大学ランキング作成に乗り出したかについては、次のような背景が考えられる。もともと韓国人は大学の序列意識に敏感であり、同業の中央日報社が94年以来実施してきた国内大学のランキングは『全国大学順位』として刊行され、一大ベストセラーとなり好評を博してきた。また最近では韓国のみならずアジアの各国とも「世界水準(ワールドクラス)」を基本戦略とする大学改革を進めているため、大学人は世界の大学ランキングを意識せざるを得なくなってきている。さらに韓国では大学ランキング作りを自国が主導することにより、韓国をアジアの学術大国に押し上げ、ひいてはワールドクラスの大学を創出しようとする大学関係者の熱意があったと聞く。また中国の上海交通大学(高等教育研究所)がタイムズ紙の向こうをはって「世界大学ランキング」作りに参入して成果をあげていることも、韓国の高等教育関係者を刺激してきた。そこで朝鮮日報社は数年前から「アジアの大学」をターゲットにしたランキング作りの戦略を練ってきた。タイムズ紙や上海交通大学のような世界の大学ランキングを狙うのではなく、アジアの大学に特化したランキングを開発することを通じて、大学ランキングのリージョナル・ハブを目指すことに狙いを定めたのである。
【タイムズ方式を踏襲】
当初、ランキング作成チームは、アメリカのUSニュース&ワールド・レポートやタイムズの大学ランキングを参考に、アジアの大学を評価するに相応しい方法の開発に努力したようである。しかし結局はQS社と組んで調査を実施することになったため、タイムズ方式に近い指標を使うことになった。指標は4領域(①研究力=60%、②教育力=20%、③就職力=10%、④国際化力=10%)から成り、①の半分(30%)はアジアの大学の研究に詳しい世界の同僚研究者(4546人)によるピアレビュー評価、残り半分(30%)は教員一人当たりの論文数とその論文の被引用数、②は教員一人当たりの学生数、③はアジアの大学卒業生を採用した企業人(1738人)による卒業生の評判、④は外国人教員数(2.5%)と留学生数(送り出しを含む:7.5%)、を内容とするものであった。このような調査指標はタイムズ方式とほぼ同じであるが、細かく見るとピアレビュー評価比率(①の30%分)と外国人教員比率(④の2.5%分)は、朝鮮日報―QS調査の方がタイムズ調査の比率よりやや低く設定されている。
この調査に参加したのはアジア11カ国・地域(韓国、中国〈香港含む〉、日本、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、台湾、タイ、ベトナム)で、アジアの主要国を網羅している。参加した大学は448校、そのうち韓国からの参加大学は80校であった。調査結果は様々な角度から分析され、上位200校までウェブサイト(http://www.topuniversities.com/university-rankings/asian-university-rankings)にも公開されているが、主要な評価結果は、(1)総合順位、(2)研究者によるピアレビュー順位、(3)学問分野別五領域の順位(人文科学、生命・医科学、自然科学、社会科学、IT・工学)の3点に集約できる。
【総合順位にみるランキング上位校】
まず総合順位のトップ10大学についてみると、総点(100~94.2)は接近しているが、香港大学(1位)、香港科学技術大学(2位)、国立シンガポール大学(3位)、中文大学(4位)、東京大学(5位)、ソウル大学(6位)、大阪大学(7位)、京都大学(8位)、東北大学(9位)、名古屋大学(10位)の順になっており、香港とシンガポールの大学が上位を独占し、それに日本(東京大学)と韓国(ソウル大学)の大学が続いている。ただし、研究者のピアレビューによるランキングでは、東京大学が1位を占め、総合順位でトップ10に参入できなかった北京大学(3位)、清華大学(6位)、台湾大学(8位)がトップ10入りを果たしていることを付言しておく。
総合順位による実力校の範囲をトップ30大学(100~79.2点)まで広げれば、最も多いのは日本(11校)で、韓国(5校)、中国(5校)、香港(5校)が続き、日本、中国、韓国の東アジア3国の大学で26校(約87%)を占めている。これらに続くのはシンガポール(2校)、タイ(1校)、台湾(1校)である。なお、シンガポール、タイを除く南アジアと東南アジアの大学は現状では下位に甘んじているが、トップ50大学まで範囲を広げれば、インド(3校)、インドネシア(1校)、マレーシア(1校)等の大学が顔を出している。
【韓国大学のアジアでの位置】
「アジアの大学ランキング」を企画した当の韓国では、第2回目のランキングをどのように見ているのであろうか。李明博政権下において「世界水準の研究中心大学の育成(ワールドクラス大学育成事業:WCU)」を標榜している韓国では、特に今回の調査を主導したメディアは、第1回(09年)調査に比べて多くの大学が総合順位を上げており、これを「ランキング効果」として評価をしているようである。国内トップのソウル大学が総合順位で昨年より2ランクアップして8位から6位となり、専門分野別評価においても、人文科学6位、生命・医科学四位、自然科学5位、社会科学4位、IT・工学6位の順位を確保していることに一定の評価を与えている。しかしながら本調査に参加した韓国のトップ10大学のうち、アジアのトップ30大学に名を連ねた大学が5校に留まったことには必ずしも満足していないようである。特に、表にみられる韓国のトップ10大学のうち、国家が特別な財政措置を講じてきたソウル大学および韓国科学技術院(KAIST)以外はすべて私立大学(浦項工科大学以外はすべてソウルの私大)であり、地方(道)の基幹大学である国立大学が軒並み韓国のトップ10大学入りを果たせないでいることに対しては批判的である。ちなみに韓国の地方国立大学のうち、アジアのトップ100大学入りを果たしたのは釜山大学(71位)、慶北大学(84位)、全北大学(92位)、忠南大学(99位)の4大学にすぎない。韓国政府は現在、国立大学法人化やWCU事業を通じて国立大学の強化策に乗り出しており、昨年から始まった朝鮮日報社のアジアの大学ランキング事業を契機に、韓国大学のさらなる飛躍を期しているようである。