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アルカディア学報

No.376

IRを認証評価に生かせ 米国の大学認証評価から学ぶもの

研究員 高橋 宏(東京国際大学副学長)

 はじめに
 わが国の大学認証評価は現在、第一クールの6年目に入り受審大学数がかつてない数に上っている。日本でも大学評価文化が根付いていくための重要な時期にいよいよ入ってきたと考える。同時に、大学評価文化を日本の状況へと更に適合したものにし、大学評価の目的である「各大学の教育研究活動等の改革・改善に役立てる」ために、認証評価のあり方を随時検討していくことも今後ますます重要となっていくことは間違いない。
 本稿では、平成20年度の文部科学省委託事業の一環として「海外の認証評価機関のフォローアップシステム及びその効果の調査研究」に加わった経験を基に、アメリカの大学認証評価から私たちは何を学ぶことができるかについて述べたい。先に要点を言うと、アメリカの機関別認証評価は「継続的な活動」として実施されており、そこではIR(Institutional Research)が重要な役割を果たしているということである。これは日本の大学認証評価を真に実効あらしめるために有益な教訓であると考える。なお、以下に述べることは機関別認証評価についてであり、専門別・分野別の評価についてはここでは立ち入らない。
 一、アメリカの大学認証評価
 私たちの調査の目的は、アメリカでは大学認証評価をいかに効率的に実施し、大学の教育研究改善にどのように効果的に結びつけているか、とくにフォローアップ体制がどのように構築されているかを明らかにすることにあった。この調査で判明したことは、アメリカでの認証評価は特定の年度になされる審査と事前の準備ならびに事後のフォローアップが一体化されており、評価活動が継続的なプロセスとして形作られているということである。つまり、フォローアップは何か問題があった大学に対してのみ課す特別な事後調査として実施するものではなく、全ての受審大学が果たすべき不可欠の認証評価要件の一つとして位置付けられており、これは非常に重要な事実であると私は認識した。
 *認証評価プロセスの流れ:アメリカにおける大学認証評価は原則5年から10年に一度行われるが、10年を一つのサイクルとする場合、次のような一連のプロセスとして実行されている。それは、①加盟申請、②候補審査、③認証評価(初めての場合も、第2回以降の場合もある)、④定期審査報告(PRR:Periodic Review Report)、⑤大規模変更報告、⑥事後調査(Follow-Up Reports and Visits)、⑦年次機関報告(Annual Institutional Profile)などである。このように項目を並べてみると、アメリカでは評価団体への自発的な加盟および恒常的なフォローアップのための仕組みが認証評価の実施体制の中に初めから組み込まれている点が、日本と大きく異なっている。
 *認証評価の仕組みと継続性:ところで、アメリカの大学認証評価では全米が6地域に分けられ、地域ごとに認証評価団体が組織されている。各地域の大学は認証評価団体のメンバーとして任意的に加盟し、加盟大学としての適格性を定期的に審査される。例えば、中部地域高等教育機関協会(MSCHE)では、加盟大学が適格基準を満たし、かつ卓越性を常に求めていくようにするために、全ての加盟機関に関して定期的な評価を要求している。そうした定期的な評価プロセスの重要な要素として、認証評価調査および認証付与後の「事後的な」調査・報告などが組込まれている。
 この中で前述した④PRRは、10年を一サイクルとする認証評価の中で原則として適格審査の5年後になされる事後調査である。また、⑦年次機関報告は、入学者数、財務、新規企画、そしてキャンパス外で実施される教育学修プログラムなどについて各大学が毎年現況報告を行うものである。これらをフォローアップと考えると、全ての加盟大学は事後的な調査・報告の義務を負っている。
 しかし、受審大学側に大規模変更(学部増設など教育機関としての有効性=effectivenessに係わる変更)があった場合、あるいは適格審査の段階で何らかの勧告・改善課題・改善命令などの必要があると判断された場合には、評価団体は事後調査を行うこととなる。とくに、勧告などの問題がある場合にMSCHEでは次の5種類の事後調査を加盟校に指示する。
 ①簡単な助言や参考意見等に関する報告(PRRの中に盛り込む)、②進捗状況報告書(勧告や改善課題等に関する進捗状況の報告)、③補足情報報告書(認証基準項目の説明・報告等が不十分な場合に要求される)、④改善実施報告書(勧告や改善課題・改善命令等が多数に上り、重大な内容をもつ場合の報告)、⑤フォローアップ実地調査(前述の③および④に関して実施する現地調査)、以上である。
 このように、何か課題がある場合のフォローアップが必要なことはもちろんであるが、そうでない場合でも加盟校は常に自己評価と改善のための活動を求められている。また一連の認証評価プロセスにおいて、評価団体と加盟大学との間に密接な連携・協力を保つような努力が払われ、評価団体側では大学別に担当者が配置され、両者間にリエゾン役が置かれ、加盟大学との継続的な係わりを担保している。
 二、認証評価とIRの役割
 アメリカの大学認証評価活動は、以上から明らかなように、各大学において常設の専門担当部署を必要としている。それを行うものが、ほとんどの場合IR(大学の機関調査=Institutional Research)を担当する部署である。
 *IRは何を行うか:IRとは各大学が主体的に実施するものであり、本来の役割として、①各大学の情報収集による実態把握と自己認識(客観的な姿を明らかにする)、②集めた情報の的確な分析(自己の相対化と比較優位の状況を分析する)、そして③戦略的政策の策定(情報分析に基づき教育研究、管理・運営等の大学全体の改善・改革を図る)を重要な課題としている。加えて、こうした役割をもつがゆえに、④認証評価活動を通じて教育研究の質保証・改善(定量的な分析に加え定性的・質的な分析に基づく自己改革・改善等)を実施する働きも役割に入る。
 実際、今回調査したアメリカの大学ではいずれもInstitutional Researchを担当する部署が中心となって認証評価の業務を遂行している。
 *継続的評価とIR活動:アメリカの大学は、加盟する評価団体の認証評価方式に従って認証評価を一連の継続的なプロセスとして捉えており、決して特定の時期に行われる一過性の活動(自己点検評価報告書の作成と評価チームによる実地調査ヘの対応という一回限りの活動)として取り組んでいるものではない。それゆえIRオフィスのように、学内に認証評価を担当する組織を恒常的に設置し、担当責任体制を明確化し、情報の一元化と業務の明確化を図っている。
 また、大学は、機関別認証評価を受けるとともに、プログラム別認証評価も受けているので、学内組織として認証評価を担当する専門の部署・組織を確立し、業務を遂行する体制を整えるべき必要性は不可欠である。このことは、認証評価の真の目的は機関としての大学の質的な向上を継続的に実現していくことであるとの理解から考えると当然のことであり、それゆえにIRの実施すべき課題の一つとして位置付けられていると判断できる。とはいえ、各大学は多様で異なった特徴をもっているために、IRの組織のあり方自体は、それぞれ独自のものを形成し実施に当っていることも判明した。
 おわりに
 日本においても、今後とも大学の評価文化を定着させ、それによって各大学の個性・特色・特性などを活かした教育研究体制を充実し、学生指導の実を挙げ、社会的な役割をますます強化していくためには、大学評価の継続性と専門的な担当部署(組織としての特化と、専門家の育成、そして経営陣への実質的な支援の機能)とを確立することが不可欠であると判断する。