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アルカディア学報

No.373

認証評価機関とメンバーシップ制度 ―第40回公開研究会の議論から―

主幹 瀧澤 博三(帝京科学大学顧問)

 今年3月、日本高等教育評価機構では、文部科学省の調査委託を受けて、米国と韓国を対象とし、大学評価の最近の変化の動向と特に評価後のアフターフォローのあり方に焦点を置いて調査を行なった。これには私学高等教育研究所も協力することになり、5名の研究員、客員研究員の方々が調査団に参加した。先月23日に行なわれた研究所主宰の第40回公開研究会では、いま中教審を中心として検討が進んでいる認証評価制度の見直しの参考に供するべく、この調査結果の報告を主題とし、講師には、米国については日本大学の羽田積男教授と大学評価・学位授与機構の森 利枝准教授に、韓国については桜美林大学の馬越 徹教授にお願いした。
 【米国の機関アクレディテーションの動向】
 米国のアクレディテーションは既に100年の歴史があるとはいえ、お二人の講師の説明からは、大学の変化や社会の動きに対応するとともに、連邦及び州政府の要求などもあって、評価システムはかなり変化しつつあるようである。変化の方向として顕著なのは、大学の目的・教育目標の重視、学生の学習への焦点化などであり、評価基準自体は項目を統合し、大括りにする傾向がある。このあたりの考え方には、我が国の認証評価システムの見直しにも参考にすべき点が多々ありそうに思われる。
 今回の調査の一つの焦点であったフォローアップに関しては、この問題の根底には評価機関と大学との関係に関して、第三者評価のあり方としての非常に根本的な問題が伏在していることを改めて認識させられた。米国では、どのアクレディテーション団体でも、決められた定期評価以外に、年次レポート、「大幅な変更」その他特別な問題があった時の期外評価などが行なわれ、その他にフォローアップ・サービスとして年次大会、各種ワークショップなどが行なわれている。近年は、定期評価自体も何段階かに分けて長期に亘って実施する団体もあるようであり、評価とフォローアップを別の事柄として見るより、団体と大学との継続的な関係の一環と考えた方が理解しやすいように思われる。
 周知のように、米国では全国を六つの地区に分け、地区ごとに一つの機関アクレディテーション団体が置かれて地区内の大学等の評価を担当している。また、地区内の大学等はその地区の機関アクレディテーション団体のメンバーとして団体の運営に参画している。質保証のために、前述のような支援・協力・協働の密接な関係が保たれるのは、アクレディテーション団体と大学との関係が、わが国の認証評価のように評価の時だけの一時的関係ではなく、メンバーシップ制による恒常的関係を持ち、アクレディテーションを地区内の大学の共同責任による自主的な事業とする意識が定着していることによると考えられる。
 我が国の認証評価制度は米国のアクレディテーション制度をモデルとしてきたと言われているが、評価システムの考え方はこのように全く異質である。第三者評価のシステムとしてどちらが優れているかは論をまたないように思うが、次に若干の論点整理をしてみたい。
 なお、韓国については、あたかも第三者評価制度の大改革が進行中であり、馬越先生からのご報告はこれからの評価の在り方を考える上で実に興味深く、これについては次回のこの欄で馬越先生に御執筆をお願いする。
 【評価機関と大学との関係について】
 日本と欧米諸国の第三者評価制度の大きな違いは、欧米では評価機関の配置が全国的・統一的に整えられ、評価機関と大学との関係は固定的・継続的であるのに対し、日本の認証評価制度では、個別の沿革を持って無原則的に配置された評価機関を大学が自由に選ぶという市場型の制度であって、両者の関係は流動的なことである。
 市場型の制度にはいくつかの問題がある。第一に、評価機関の配置に原理がないから、個々の評価機関の役割、性格が定まらず、明確な特徴も形成されてこないことである。現在ある大学評価の三機関は、評価基準を見ても、受審大学の色分けを見ても、各機関の特色を明確に説明することは難しい。中教審答申(14・8・5)では、「様々な第三者評価機関がそれぞれの特質を生かして評価を実施することにより、大学がその活動に応じて多元的に評価を受けられるようにすることが重要」と言っているが、「個性輝く大学作りを推進する」といえるような多元的評価のイメージは、今の体制からはなかなか浮かんでこない。
 第二に、第三者評価事業を、評価対象大学をメンバーとする団体が行うという米国型の制度は、教育研究の自主性を本質とする大学の第三者評価の在り方として、また、高い倫理性と専門性と膨大な人的資源を要する事業を維持する体制として、メリットの大きい優れた制度であるが、日本の認証評価制度には、これに匹敵するメリットを期待する根拠がどこかにあるだろうか。認証評価制度を強力に推進した総合規制改革会議の第一次答申(13・12・11)では、「評価認証機関については、互いに質の高い評価認証サービスを提供することを競い合う環境を整えるため、株式会社も含め設立することができることとし、特定の機関の独占としない」としている。ここにあるのは、自由と競争が評価の質を高めるという市場主義の原理への過信だけであって、大学の本質に基づいた大学評価の在り方ついての深い洞察はおよそ感じられない。
 認証評価制度は、大学コミュニティーの協働による自主的・主体的な事業として設計すべきか、「評価サービス」の市場として自由と競争にゆだねるのか。認証評価は、業者によるランキング評価等の市場の評価とは一線を画し、大学が自主的に社会に対する説明責任を果たすものだとするなら、この答えは既に議論を待つまでもないことだと思う。
 【認証評価システムの将来図をどう描くか】
 我が国の第三者評価制度は、戦後、米国型のアクレディテーションをモデルにした大学基準協会の大学評価で始まった。しかしその後大学設置基準が作られ設置審査によるチャータリング方式が整備されるにしたがって、このアクレディテーション方式は停滞を続けた。いま「事前規制から事後チェックへ」と「官から民へ」による規制改革の流れに乗った認証評価制度によって、アクレディテーションヘの動きが復活するようでもあるが、一方で事前規制である設置認可の成り行きが定まらす、また「官から民へ」を逆流して、官の評価機関―大学評価・学位授与機構が新しく生まれたりして、評価システムの全体像が混乱し、方向性が見えてこない。
 また、大学基準協会の大学評価が認証評価に衣替えした結果として、従来のメンバーシップ制が認められなくなったということも、今後の評価システムの発展に一つの障害になるのではないかと思う。質保証システムを見直し明確な将来像を描くためには、規制改革の呪縛を一度取り払って考える必要があろう。