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アルカディア学報

No.338

学校法人のガバナンスと監事の役割―適正な法人運営を目指して―

私学高等教育研究所研究員 石渡 朝男(学校法人和洋学園理事・事務局長)

私学経営を取り巻く環境は一段と厳しさを増し、かつては考えられなかった私学の倒産が現実の問題となってきている。閉鎖を余儀なくされた法人の中には、経営者の不適正経営が原因の学校もあり、今後学校法人のガバナンスと監事の役割が重要となり、適正な法人運営ができる体制の構築が求められている。
 改正私立学校法の内容とねらい
 2005年4月の改正私立学校法における監事制度の整備・改善関連については、37条関係で監事の職務として、従前は監査対象の一つであった「理事の業務執行」から「学校法人の業務」に拡大され、また監査報告書の作成と理事会、評議員会への提出が新たに規定された。
 また38条関係で監事の選任条項として、「評議員会の同意を得て理事長が選任する」ことが定められた。さらに外部監事を1名以上選任することが義務付けられている。加えて39条で、監事は理事、教職員のほかに評議員とも兼務することができなくなった。
 今回の監事に係る私学法の改正は、監事の監査機能の充実を図ることであるが、法人の規模や実情等に応じ、監事の常勤化を進めることや監事監査を支援するための事務組織や内部監査機関の整備を行うこと等監査の充実を図るための組織の取り組みを期待している。
 監事監査の重要性
 私学といえども公教育を担っていること、また国からの補助金の交付を受け、さらに税制面での優遇措置を受けていることから、学校法人は極めて公共性が高い事業体としての特性を有している。したがって建学の精神に基づき教育研究を行っていくことは当然のことながら、その活動を通じて社会の要請に応えていく責務を負っている。私学を取り巻くステークホルダーは、学生、父母は当然のことながら、受験生、卒業生、教職員、寄付者、就職先等の企業、地域住民等その範囲は広く、その多くの利害関係人に対し、情報開示(ディスクロージャー)を積極的に行い、説明責任(アカンタビリティー)を果たしていくことが、まさにUSR、大学の社会的責任であると考えられる。学校法人のマネジメントを司る理事会に対するガバナンスと、実効性のある内部統制システムが構築されているか、また適切に機能しているかを見守るのが監事の重要な職務の一つである。その意味では監事監査の重要性は非常に重いと認識しなければならない。
 学校法人のガバナンス
 一般的にガバナンスの定義は、一言でいえば経営者を牽制する制度であるが、学校法人のガバナンスとは、建学の精神に基づく経営理念や事業計画に従った意思決定を行うことを担保する仕組みである。さらに、その意思決定に基づいて経営をしていくことを監督する仕組みでもある。
 学校法人におけるガバナンスで最も重要な目的は、いかに適切な経営者を選ぶかであると考えられる。学校法人の経営組織である理事会を組成する場合の理事選出方法と構成、並びに理事の執行体制の問題がある。
 理事選出方法については、多くの大学がこれまで採ってきた選挙制から任命制への転換、理事構成に関しては今回の私学法の改正趣旨の一つでもある学外理事の増員や比較的理事職に専念しやすい立場にある専門的管理能力を有する職員理事を積極的に増やすこと、さらに理事の執行体制については教員理事の職務専念義務化を図ること等により、学校法人のガバナンス機能を強化することが求められている。
 学校法人の内部統制
 ガバナンスが適切に機能しているかどうかをチェックするためには、内部統制システムの整備状況を見なければならない。内部統制とは、組織において違法行為や不正そしてミスやエラーなどを発生させることなく、組織が健全かつ効率的に運営されるよう各業務に所定の基準や手続きを定め、それに基づいて管理・監視することであると定義することができる。従来の内部統制は、財務会計分野からの視点でのみ語られ、財務報告の適正確保を目的とする活動として捉えられていた。しかし最近では、会計統制以外にコンプライアンスや経営方針、業務ルールの順守、経営および業務の有効性・効率性の向上、並びにリスクマネジメントなど、より広い範囲が対象となり、ガバナンスのための機能、役割という側面を強めてきている傾向にある。
 監事の役割と責任及び資質
 監事の基本的な職務として最初に挙げられるのが「内部統制システムが機能しているかをチェックすること」、「健全な経営と社会の要請に応えること」であり、具体的には「理事会等に出席して意見を述べること」、「不正や損失を未然に防止すること」、「不正等が発生した場合には理事会、評議員会、もしくは主務官庁へ報告すること」等が監事の職務と言える。なお会計監査人は、主に適法性の視点から行われる外部監査に対し、監事監査は適法性のみならず妥当性や合目的性の視点からの業務監査が中心となる。また監事監査は、会計監査人の監査と内部監査人の監査の橋渡しをする立場にあるとも言える。
 このような監事の職務を遂行していくに当たっての心構えとしては、「環境の変化を把握すること」、「内部統制の状況と有効性を把握すること」、「理事会との意思疎通を図ること」、「公正不偏の立場を維持し秘密保護に努めること」、「正確な監査証拠を収集すること」等が挙げられる。
 このような監事の役割・責任を考えると、監査人として求められる資質としては、最も重要なものが「倫理性」であり、偽り、裏表なく、誠実な心を持って業務に当たること、次の資質が「独立性」で、監事の役割の特性から独立していること、いずれにも偏らないといった不偏性を有すること、三つ目が「専門性」で、一般的な会計や業務監査の知識に加え、学校法人の特性や教育研究を担当する部門の業務等に関する知識をも持つこと、などが求められる。
 学校法人芝浦工業大学元理事長の藤田幸男氏は「私立大学の評価と監事の役割」の論文(「私立大学の評価と監事の役割」IDE2000年7・8月号)の結びで、「私立大学の評価を十全に実施するためには、監事の役割を見過ごすことはできない。しかし残念ながら、かつての監査役と同様、私立大学の監事についての社会的認知度は低い。監事は単なるお飾りであってはならない。監事はAuditorなのである」と語っている。
 三様監査システムの構築
 今後、監査を実効性あるものにするためには、内部監査人による監査制度を設ける必要性は、極めて高いといえる。監事、会計監査人、そして内部監査人の三者による監査、いわゆる「三様監査」体制を構築することが望まれる。