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アルカディア学報

No.263

認証評価の現在とこれから インタビュー調査を通じて

私学高等教育研究所研究員 羽田 貴史(広島大学高等教育研究開発センター教授)

 1、はじまった認証評価制度
 認証評価制度が発足して早や2年を過ぎ、大学評価・学位授与機構(NIAD)、(財)大学基準協会(JUAA)、(財)日本高等教育評価機構(JIHEE)と三つの評価機関が発足した。昨年には、それぞれの評価機関から評価結果が公表され、認証評価制度がうたい文句どおり、大学の改善と質保証に役に立つのかどうかを評価する(メタ評価)材料が出はじめている。私は、広島大学高等教育研究開発センターの21世紀COEプログラムのプロジェクトのひとつ、組織変容と管理運営問題のグループのリーダーとして、新しいガバナンスとしての認証評価の実情について、昨秋から今春にかけて三つの認証評価機関と17の国公私立大学を5人のメンバーで手分けして、インタビュー調査を実施した。
 また、法科大学院認証評価や日本技術者教育認定機構(JABEE)に関しても2機関7大学を訪問した。北は北海道大学から南は熊本大学まで、タフではあったが実りの多い調査であった。その後、全大学を対象にした学長・部局長・学科長調査でも評価への意見を聞いたので、総括的な結論はこれからだが、中間的な結論をひとことでいえば、「認証評価は有意義なものである。ただし、改善が必要だ」ということだ。

 2、設置形態別の認証評価機関とは?
 調査に入る前の疑念のひとつは、なぜ設置形態別に認証評価機関が要るのか、ということであった。いうまでもなく各国のアクレディテーション機関は単一とは限らない。地域別と専門分野別の団体があるアメリカ、複数の分野と単一の分野で分かれるドイツなどの事例はあっても、設置形態別など聞いたことがない。しかし、基準を比較してみると、それぞれの持ち味が違い、これはこれで意味がある。全般的な印象では、NIAD及びJIHEEの基準は、大学設置基準の各項目に沿って最低基準をチェックする意味合いが強い。項目・観点も100に満たず、比較的シンプルである。JUAAは教育課程・内容・方法・学生支援の項目などにボリュームがあり、235項目に達する。NIADの基準で特筆すべきは、評価への学生参加など、学生を教育や支援の対象としてのみ受動的に位置づけていないことだ。日本の大学は、学生を庇護の対象として扱い、教師の「知的」権威に従属させるか、せいぜい消費者としての役割しか与えず、知的創造の主体、市民社会の担い手に成長させることを教育の目標に位置づけてこなかった。アメリカの大学が、伝統的な親代わり機能を克服して学生を自立的な学習主体として位置づけたのと対照的である。
 しかし、NIADの基準には「大人としての学生像」への脱却が見える。また、JIHEE、NIADの基準に国際交流・社会貢献など社会的連携が重視されていること、JIHEEの社会的責務に関する項目は、大学のあり方を考える点でも重要である。
 ただし、このように各機関の基準に特質があるにもかかわらず、国立大学の認証機関選択は意識的でなく、比較して検討することはおろか、評議会など正規の機関決定すらなくNIADの受審作業に入っているケースが少なからず見られた。NIADは国立大学法人の中期目標評価における教育研究の質の向上に関する評価を行うことになっており、国立大学にとって手間を省くメリットがあると考えた結果だろうが、認証評価と法人としての業務実績評価は異なるものであり、盲目的に認証評価機関を選択することは望ましくない。かえって性格の違う評価が類似し、評価の趣旨を歪めてしまうおそれがある。
 また、議論の余地はあるものの、JUAAは会員校としての加盟判定審査及び相互評価を認証評価としており、その評価を受けなければ会員資格を失うことになる。公共性に貫かれるべき国立大学が、国公私立大学全体を代表する団体の強化を念頭におかないとすれば、情けないことである。

 3、多様な受審大学のスタンスと効果
 受審大学は、NIADが2005年度まで4(06年度は10)、JUAAが59(同47)、JIHEEが4(同16)である。比較的歴史の浅い大学では、認証評価をきっかけに自己点検評価制度を立ち上げ、認証評価を動力として改善のサイクルを作ろうとしていた。認証評価は各大学にPDCAサイクルを導入し、評価活動の定着に寄与しているのである。
 一方、従来から点検評価活動を進めてきた大学は、認証評価を戦略的な大学運営に位置づけ、その結果を受けてカリキュラムや組織改革に着手するなど、認証評価を使いこなそうという姿勢が見られる。特に、長岡技術科学大学、豊橋技術科学大学のように、JABEE認定を受けた大学は、エビデンスベースに基づく評価を経験したことで評価手法の向上が見られる。90年代の自己点検評価と比べ、洗練されて水準が一段と高くなったことが実感できる。JABEE受審大学では、受審の結果、学科によって温度差はあるが、「風通しがよくなった」「教育活動が組織的であるという意識がはっきりした」と口をそろえ、効果は抜群である。全国調査でも、各種の第三者評価のうちで、JABEEが「教育活動の改善にとても効果的だった」とするのは、部局長では81%に達し、NIADの試行的評価を12%が効果的であるとした回答と対比して圧倒的である。機関別認証評価はプログラム評価と結びついて有効なものとなる。両者の関係を生かすためには、学会や専門団体などが積極的にプログラム評価制度を作る必要があるのではないか。
 また、今回の訪問でも、認証評価の過程で大学設置基準に定められた教員配置を充足した大学があり、認証評価は、各種基準に基づく大学教育の質を維持する上で実際に効果を発揮しているといえる。認証評価の効果は重層的な日本の高等教育構造に対応し、それぞれの大学群によって多様である。
 これからは、財源の豊かな国立の総合研究大学と、定員割れなど経営困難校を含めた私立大学が受審することになる。また、公立大学は、首長の政治主導の下で、もっともラジカルな組織改革を遂行中で、こうした大学にとって認証評価がどのように機能するか注目したい。

 4、評価から改善への道筋と課題
 評価をどう改善に結び付けるかは、まだ確たる方法論がなく、大学執行部のリーダーシップに依存する部分が大きい。改善を重視しているのはJUAAであり、項目ごとに「長所として特記すべき事項」「助言」「勧告」を記述する。丁寧で評価する側の意欲は伝わってくるが、細かすぎるきらいがないでもない。問題は、評価作業を開始してから最終結果が出るまでの期間の長さであり、およそ1年半かかる。評価結果をもとに改善案を議論し出せば、さらに1年はかかるだろう。期間を短縮するとともに、認証評価まちではなく改善のサイクルを各大学が持つことが必要だろう。
 基準の改善も含めて評価する側の能力の向上には課題が大きい。たとえば、今回のNIADの評価では、「経常的収入の確保」(基準10―1―2)の評価に科学研究費などの外部資金の獲得金額を根拠とし、学内競争的資金による重点的配分、学長裁量経費、教育研究活性化経費をもって「適切な資源配分」(基準10―2―3)という評価がなされていたが、これらは研究経費であったり目的指定であったりして適切な評価理由ではない。評価者自体が評価されなければ、評価の質は向上しないだろう。
 特に、来年からの4年間に総計576の大学が認証評価を受けねばならない。また、短期大学も400あまり残っている。評価の質を維持するのは不可能ではないだろうか。訪問先すべての関係者の一致した不安である。評価の質を維持し向上するためには、評価方法の研究・改善、評価者の訓練・養成とともに、最低2年程度の期間延長が緊急避難的に必要ではないだろうか。