アルカディア学報
国立大学の財務管理―学内資金配分の実態―
国立大学の法人化(平成16年4月)に伴い、国立学校特別会計制度が廃止され、各国立大学は、その財務管理を独自に行わなければならなくなった。以上の変化には、政府が定めた使途どおりに学内で資金を配分・執行することが求められるラインアイテム方式から、政府による使途指定のない大学の裁量に基づく資金配分・執行が可能なブロックグラント方式への変更が含まれる(ただし一部については依然使途指定が残っている)。結果として、各国立大学は、運営費交付金を含むその収入を、それぞれのやり方で学内配分し、執行することを求められるようになった。
このような状況を踏まえ、国立大学財務・経営センター研究部では、法人化後の国立大学の学内資金配分に関する調査を年度内に実施する予定である。ここでは、当該調査と対応する、法人化前に実施した調査において明らかになった、法人化に向けた「助走期間」における国立大学の学内資金配分の実態について紹介し、関係者の参考に供したい。
まず、法人化前の国立大学の学内資金配分の概略について説明する。法人化以前(特に平成11年まで)は、前述したように、政府による使途指定がなされた形で国立大学への資金配分が行われ、学内資金配分もそれに従う形で行われていた。例えば、人件費を除く教育研究費のうち、最も重要かつ基盤的な経費である教官当校費・学生当校費は、基本的に各部局の教員・学生定員に基づいて一律的に部局へ配分されていた(ただし、これらの一部は全学共通経費などの不足分を補う形でも使用されていた)。
しかしながら、平成12年に、これまでの教官当校費・学生当校費に替わって、教育研究基盤校費が計上されることにより、大きな変化が生じた。この教育研究基盤校費と教官当校費・学生当校費の総額や、目的そのものに大きな変化はないが、その積算根拠に大きな変化が生じている。すなわち、従来、教官当校費1332億円、学生当校費492億円(以上、平成10年の国立大学全体の数値)であったものが、教育研究基盤校費(大学分)1271億円、教育研究基盤校費(教官分)297億円、教育研究基盤校費(学生分)331億円(以上、平成13年の数値)と変更された。従来の当校費に関しては、大部分は教官に配分されるものであった(と考えられる積算根拠上の形式がとられていた)が、これが大学のものであるという形への変更が生じたのである。この教育研究基盤校費(大学分)は、言うなれば、ラインアイテム方式下での大学(執行部)の裁量度の高いブロックグラントと呼びうるものが一部導入されたものとも考えられる。結果として、教育研究基盤校費の導入後、その一部を従来の一律的配分から、全学的な目的に応じた形での重点的・競争的配分に変更する事例が増えた。具体的には、教育研究基盤校費の一部の配分を留保し、全学的な目的達成に向けて、執行部等の意志決定に基づいて戦略的に配分するケース(戦略的配分経費)、学内で教育・研究に関する一定のテーマに基づいて公募等を行った上で配分先を決定するケース(学内公募経費)、学長や部局長等のリーダーシップ発揮のためにその裁量によって自由に使途を決定できるケース(学長・部局長裁量経費)、一定の配分ルールを定め、傾斜的に資金を配分するケース(傾斜配分経費)などがこれに該当する。次に示すのは、平成14年時点における、各配分方法を用いて学内資金配分を行っている国立大学の比率である。それぞれ40%、58%、21%、39%となっており、最も浸透しているのが学内公募経費である。
以下では、これらの経費の導入を行っている大学の事例を二つほど紹介する。
A大学では、まず教育研究重点経費として教育研究基盤校費の12%(2億1747万円)が確保される。この教育研究重点経費の内訳は、(1)社会貢献重点経費(2392万円)、(2)教育研究環境重点整備費(8916万円)、(3)大学改革等推進経費(3044万円)、(4)教育評価による傾斜配分(3697万円)、(5)研究評価による傾斜配分経費(3697万円)となっている。
次に、(1)と(2)の経費の配分方法の詳細について紹介する。
(1)社会貢献重点経費...地域連携推進室が配分方法の検討→地域連携推進本部が配分方法の決定→各部局に照会・公募を募る→要求・応募の受付→推進室で採択の検討→本部で採択の決定(学内公募経費の事例1)。
(2)教育研究環境重点経費...①施設整備関係:各地区施設整備小委員会において整備方針の検討→施設整備委員会において整備方針の決定→各部局に照会→各部局から要求→小委員会で整備計画の検討→委員会で整備計画の決定(学内公募経費の事例2)。②設備関係:部局長会議が重点的に整備すべき部局の検討・決定を行う(戦略的配分経費の事例1)。
B大学では、教育研究基盤校費(66億4806万円)の各部局への配分に関して3つの方法がとられている。
(1)定員関係...教員の定員・現員との差で留保した額の2分の1を部局長裁量経費として配分している(学長・部局長裁量経費の事例1)。
(2)教育関係...①大学院生の確保状況として、入学定員に対する現員の比率が過去3年間平均で、修士課程は90%以上、博士課程は70%以上となっているかどうかを査定する。基準が満たされていない場合は、教育研究基盤校費(学生分)の修士分、博士分からそれぞれ1%が減額される。②博士号の授与状況として、過去3年間平均の授与率を査定し、70%が満たされていない場合は、教育研究基盤校費(学生分)の1%が減額される。③留学生、社会人の受入状況については、入学定員に占める過去3年間の平均割合がそれぞれの課程で20%を上回っている場合は、教育研究基盤校費(学生分)の1%を加算する(傾斜配分経費傾斜配分の事例1~3)。
(3)研究関係...①科学研究費補助金応募状況に関しては、各部局の応募(申請)率が過去3年間平均で70%以上であることを基準とし、満たさない場合は教育研究基盤校費(教官分)の1%を減額する。②高額な科学研究費(当該年度1件2000万円以上)を獲得した研究者には、校費(100万円)を支援する(傾斜配分経費の事例4~5)。
以上のような形で各国立大学は、法人化前において、既に教育研究費の学内資金配分に関しても従来の一律的配分を見直し、様々な目的に応じた資金配分方法の模索を進めてきている。これらの動きは、国立大学法人が直面する様々な環境変化への対応を図るためのものであり、いくつかはその目的に照らして成功を収めているものと考えられる。しかしながら、同時に、これらの重点・競争的配分経費の過度の導入が基盤的な教育研究費の欠乏をもたらし、教育・研究現場に深刻な影響を与えているケースも一部にはみられる。
前述したように、法人化により学内の資金配分はより大きな裁量性を有するようになったわけであるが、これらの取組がその見直しも含めて更に進められたとき、国立大学が生み出す社会的な価値はより大きなものになっていくであろう。国立大学のこれらの動きのいくつかは、私立大学の参考になるであろうし、私立大学における経営マインドが国立大学の参考となる部分は依然として大きい。それゆえに、設置形態を超えた大学改革の試みを調査研究活動を通じて明らかにしていくことが、今後、強く望まれる。なお、本稿に関わる各種の論文については以下のURL(http://www.zam.go.jp/n00/n0000000.htm)を参照していただきたい。