アルカディア学報
政府税調非営利法人課税の動向―収益事業の業種見直しを―
平成17年6月17日、政府税制調査会において「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」が報告された。
この審議の目的は、平成14年、同15年、同16年各年の12月の閣議決定「今後の行政改革の方針」によって、財団法人、社団法人(中間法人も加える)約2万7000法人を抜本的に見直すにあたり、新たな「非営利法人基本法(仮称)」を平成18年の通常国会に上程することとしたので、これに伴う税制と連動した審議である。
民法第34条の公益法人制度は明治29年に制定、同31年に施行されてから今日まで基本的に変わっていない。ただし、昭和20年の終戦後、各種法令の改革によって同一の事業分野ごとに法制の見直しが行われた。同24年の私立学校法の制定により、財団法人から新たに学校法人制度が誕生した。その後、同26年の宗教法人法、社会福祉事業法の制定以来、医療法、労働組合法、日本赤十字社法、図書館法などが定められ、平成10年に特定非営利法人法、同13年に中間法人法が制定されて今日に至っている。
《公益法人の制度改革と税制》
現行の現行の財団法人、社団法人制度は、事業の分野ごとに分離独立したので、きわめて多様なものが存在している。これらの法人は、主務官庁の裁量による設立の認可、公益性の判断、指導監督がなされており、主務官庁の公益性の判断が若干異なっている点も見られる。今回の抜本改革では、法人格の取得方法と公益性の判断を分離し、登記のみで設立できる準則主義としながら、自立的なガバナンス機能を維持することとしているが、公益性の有無を問わない。このような法人を一般的な非営利法人といい、同窓会なども設立可能である。
このような一般的な非営利法人は、従前から法人化できなかった「みなし社団」などにも設立の道を開く新しい仕組みである。政府税調の報告では、設立した非営利法人に対し、企業と同様に、総収入と総費用の差額、つまり所得に対して法人税を課税するとしている。ただし、いわゆる法人を維持するための組織運営上の会費収入は非課税が適当であるとしている。
一方、一般的な非営利法人のうち、不特定多数の者の利益に貢献する公益的法人には、①内閣に委員会を設け公益性を判断する(都道府県にも同様の体制を整備)、②できるだけ裁量の余地の少ない明確な公益性の判断要件を設ける、③適切なガバナンス、情報開示、適正な監督上の措置を講ずるなどの所要の法令等を定めることとしている。この場合の課税の仕組みは、原則として主たる事業は非課税とする。ただし、法人税法の収益事業に該当する所得から、現行の「みなし寄附金制度」(現行は収益事業の所得から公益事業に組入れた額は、その所得の20%を収益事業の損金と認める。学校法人については所得の50%又は200万円のいずれか多い額)を見直し、また、現行法人税の軽減税率22%を営利企業の税率である原則30%との均衡を図るとしている。
《学校法人、公益法人等の課税問題》
非営利法人の公益性を判断する機関としては、内閣に委員会を設置する方向で検討することとしている。アメリカでは、各州ではなく、連邦所得税として内国歳入庁(IRS)が認定し、内国歳入法501条(c)に該当するかを判断基準として毎年審査する。IRSでは、教育機関を含め、公益性の高い法人として約96万4000法人(2003年)を認定し、法人税の減免、寄附をした法人や個人の税の軽減を図っている。イギリス(イングランド・ウェールズ)では、政府の登録チャリティ委員会が認定を行い、約18万8000法人(同)に対して寄附をした法人は全額損金算入とし、個人はその目的を示して税務当局に納入し、税務当局からチャリティに給付される仕組みとなっている。ドイツ、フランスでも特別な措置を設けている。アメリカでは、認定した団体に寄附をした個人は30%から50%の寄附金(団体のファンド別により異なる)を所得から控除するか、法人では課税所得の10%を損金算入できる。
わが国の寄附金控除は、特定公益増進法人は学校法人も含めて約1万9000法人(同)、指定寄附金は財団法人、学校法人を含め約3000法人程度であるから、きわめて貧弱な制度である。
ちなみに、2002年における寄附金の日米比較では、わが国の寄附金は、個人で2199億円、法人で5092億円、総額で7281億円なのに対し、アメリカの寄附金は、個人で22兆9900億円、法人で1兆5200億円、総額で24兆5000億円という驚くべき金額に達し、日本の税収年額の2分の1となる(財務省)。
以上の実態から見て、今回の政府税調の報告では、個人の寄附金の所得控除30%(改正前25%)は諸外国に比して遜色のない水準であるが、さらに拡充する余地があるかについて検討すべきであるとし、法人からの寄附金も特定公益増進法人の場合、所得の2.5%(資本金は僅少で省略)を検討し、拡充する方向で見直すべきと提言している。
学校法人、公益法人等が行う収益事業課税は、現行33業種に限定しているが、昭和59年以来その対象範囲の見直しが行われていない。時代の変革によって課税範囲を抜本的に見直すべきとしている。例えば、学校法人が併設する病院は原則として非課税であるが、公益法人の病医院は法人税法の医療保健業に該当し、整合性がない。また、技芸教授業として、学校教育法第1条の学校法人、同第38条、同82条、同83条の専修学校等を設置する準学校法人の正規学生から徴収する校納金は非課税であるが、附帯教育や短期の公開講座などで技芸教授業に該当する音楽、美術、デザインなどの教育の校納金は収益事業となり、経営、語学、医療福祉、体育、情報系などの講座料は該当せず非課税というのは、先進国ではきわめて稀な法令である。
私学団体では、毎年寄附金制度の拡充を要望しているが、現行収益事業33業種の見直しの検討を要請すべきである。