アルカディア学報
アメリカ大学基準協会報告
―短期大学評価の視点から―
本年1月24日から3日間にわたって、アリゾナ州フェニックスで開催された、全米大学基準協会(CHEA)の総会に参加した。この総会は、全米の大学関係者およびアクレディテーション協会の評価担当者のみが参加できるもので、日本からは我々短期大学基準協会のメンバーだけが特別に招待を受けることが出来たものだ。主催者はワシントンDCにあるCHEA本部で、会長のジュディス・イートンが総会の司会も務めている。
アメリカには5千校を超える大学、コミュニティ・カレッジがあるが、この基準協会に認証された大学、コミュニティ・カレッジは3千校余りで、その歴史はニューイングランド基準協会(NEASC)の誕生の1885年にさかのぼる。
日本と違い、アメリカは国家が大学の設置認可権限をもたず、高等教育制度は私立大学を中心に発展してきた。大学が自発的に集まって基準協会を作り、仲間(Peer)が相互に評価しあい、互いに水準の維持向上をめざす仕組みが生まれた。それはボランタリズムの精神に根ざした自立的(self‐regulatory)な性格が背景にある。
地域アクレディテーション団体はそれぞれのアクレディテーションの基準を持っており、評価はその基準に基づいて行われる。その手続きは全米の6つの団体に共通していて、原則として5年ごとに繰り返され、特に問題なしとされた学校は10年ごとに行われる。
今年は全米の基準が改訂された年で、以前の10の大項目が5つの項目に減らされ簡素化された。また、特に学生の学習効果(SLO)について、その記載を詳しくセルフレポートに反映させることが強調されていた。パーティで会ったメンバーはマスコミュニケーション専門分野の基準協会の会員で、このような専門分野の団体も65を数えるという。
2泊3日で1時間15分のセッションが9回、さらに昼食をはさんだスピーチが2回行われた。セッションの内容は「学長のアクレディテーションにおける役割」「学生の学習効果」「専門分野別領域の基準」「アクレディテーションで差別化が出来るか」など、興味深いものが並べられており、発表者と紹介者が2人、さらにコーディネータが1人いて3人1組の構成になっている。
発表者は大学学長はじめ評価担当連絡者(ALO)、教学担当副学長や学部長などで、参加者もALO、大学関係者や地域アクレディテーション協会スタッフ達だった。
このようにアクレディテーションのプロセスは公開が原則となっており、改訂された基準などはホームページに公開され、3ヶ月間改訂案としてメールや電話による意見を受け付けるなどボランティアの精神に基づいた性格を反映している。
《コミュニティ・カレッジ現地訪問》
さらに春休みの卒業式が終わってまもない3月21日、サンフランシスコから東へ300マイルほど行ったメルシド市にあるメルシド・コミュニティ・カレッジのカリフォルニア短期大学基準協会による現地訪問に立ち会う経験を得た。
スペイン系の移民が多いこの地区に、1963年に設立された9千人の学生を有する典型的なコミュニティ・カレッジだ。学生の47%がスペイン系、43%が白人系という割合がそれを物語っている。
モデストという小さな町の空港からタクシーを呼んで指定されたランダインに到着した日の夜、10人の調査員と食事をして自己紹介もそこそこに早速8時から10時過ぎまで、翌日からの仕事の打合せが始まった。5つのスタンダードに則って、10人のメンバーを割り振り、資料の分析を述べて全員で問題を分析する。それにしてもアメリカ人は、いきなり会って知らない者同士が議論を始めるのには驚ろかされた。
翌朝早くから他のメンバーは打合わせをしていたが、私は時差もあり、あまり気分がすぐれない。9時前に委員が手配したバンに乗り合わせてキャンパスに到着。すでにコンピュータラボには、多くの学生がパソコンに向って自習をしていた。調査団の委員長のトリードウェー先生と一緒にダーラン学長に挨拶。学長は私と同じ南カリフォルニア大学の出身と分かり、うちとけることが出来た。早速パソコンに向って1時間目から自習している学生の話をすると、週2回の語学の授業の間に1回必ず宿題が出て、それを学校のパソコン上で解答しないと次に進めないシステムになっているとのことだった。
メンバーが2~4人のグループに分かれて、教育・学生・管理部門・将来計画などについて、それぞれインタビューを始める。そして終わるとすぐに夜の打合せ用に持参したパソコンに向ってレポートを黙々とまとめている。控室にはパソコンもそなえられていて、大学の内部資料が我々委員にも公開されていて参考になる。委員の1人は学生1人当たりの単位数の計算方法を教えてくれた。こちらの大学では授業料はすべて単位ごとに課せられるので、一旦登録したら必ず修了するという意識が強い。また1人の委員は学生評議会の議長役の学生にもインタビューして意見を聞き出していた。これで大学も学生の意見を無視できなくなる。
インタビューが終わり、夕食をはさんでの大学関係者との打合せをすませてホテルに戻ったら9時過ぎだった。2日目もほぼ同じスケジュールだったが、私は第2キャンパスの見学チームに加わり、新しく看護学部を設置する計画を聞かされた。
3日目の午後にはいよいよ講評が行われる。オーデトリウムを借りて行う委員長講評のスピーチ原稿は、前日夜中までかかって委員10人の意見の調整がなされ、何度も何度も確認作業を繰り返した上で草案が完成した。その原稿を一字一句たがわず、アドリブなしで講評した委員長の真摯な態度は、それまでのアメリカ人のイメージを覆すものだった。
学生の学習効果についての改善案が求められた一方で、学長の卓越したリーダーシップと地域コミュニティとの良好な連帯感についての講評が述べられたのだ。
さて、日本では短期大学基準協会が今後400校近い短期大学を7年間かけて調査する訳だが、1校当り5人の調査員として延べ人数でも2千人という膨大な数の評価者が必要となる計算だ。
アメリカでは全米6地区に6ヶ所の基準協会があり、頻繁に評価員のセミナーやALOセミナー、また現地訪問を受ける大学への事前出張セミナーなども行われていることを聞かされた。そしてこの加盟校同士の継続的な地道な努力が、今日のコミュニティ・カレッジの繁栄をもたらしている。
今回の調査メンバーも10人のうち8人は過去の現地訪問経験者だったし、なかでも委員長は5校目の現地調査体験者だった。
今後の日本の大学評価がスムーズに運営されていくためには、このような評価者の養成が急務であるとともに、評価業務に関わる経験をそれぞれの大学において教員の業績として認めることも検討していくことが望まれる。