アルカディア学報
複数専攻・複数学位の概況―米国における大学の事例から (下)
〈ジョージワシントン大学の概況〉
ジョージワシントン大学は1821年、コロンビア・カレッジとして設立され、1904年に現在の名称に変更された私立大学である。メインキャンパスは、ワシントンD. C. の中心部の商業地区に位置し、ビルディングのキャンパスが点在する都市型の大学である。大学組織の構成は大学、大学院を含め八つのスクールから構成されている。
複数学位はコロンビア・スクールの場合、2つの専攻分野、例えば数学と哲学、歴史と経済の履修要件を共に終わらせた学生は、3つの学位を得て卒業することができる。それらを希望する学生は、履修を希望する両学部のアドバイザーと相談し、専攻申請書を提出することが求められている。複数の専攻を履修する学生は、文学士(BA)と理学士(BS)の学位を取得することも可能となっている。
大学には人文、国際関係、工学、ビジネスの4つの学部があり、少なくとも自分の所属する学部で1つの専攻を履修しなければならない。以前は同一学部内においてのみ複数専攻が認められたが、現在は国際関係学部と人文学部間で複数専攻が可能になっている。学部レベルでは、受講資格を問われず、希望する専攻が履修でき、同様に第2専攻を履修する際に制限はない。複数専攻・複数学位の取得に制限があるのは、大学院の経営学修士(MBA)と文学修士(MA)であり、GPA3.5以上という履修制限を設定している。その理由は、クラスを比較的小規模にし、良質のプログラムを提供するためである。
なお、Ph. Dを含む他の大学院においての学位については、特に履修制限は設けられていない。
〈ジョージワシントン大学における現状〉
ここでは、同大学の国際関係学部を中心に複数専攻・複数学位について見てみたい。
国際関係学部の学生は単位が重複するので政策科学を第2専攻として履修する学生が多い。他には、歴史学、経済学、言語学、文学に人気がある。なかには、興味があるからとの理由で国際関係と音楽を取っている学生も見られる。
複数専攻・複数学位のコース設置に関しては、学部内・スクール内の場合は当該の他の学部、スクールとの間にまたがる場合は諸要件等を交渉し、合意が得られたら相互協定を結ぶことになっている。
複数専攻・複数学位の制度が十分機能するためには両方の学部が相互に一般教養を認めることが不可欠となる。どの学位も2年間の一般教養とそれに続く専門科目と2つの課程に分けられるが、各学部・スクールの一般教養はそれぞれ異なっており、国際関係学部は社会科学関連の科目が多く、人文学部は人文科学関連の科目が多いという特徴がある。複数学位だと必修コースが多くなるため複数専攻で、一般教養を所属学部・スクールで取り、専門科目は互いのスクールで取るということが多い。
採用する企業にとっては、複数専攻を履修した学生、複数学位を持っている学生の方が資質能力に優れているという評価をするために人材として期待される。また、複数専攻を取らなくても、数個の副専攻(マイナー)を取る学生も多い。
〈ジョージタウン大学の概要〉
ジョージタウン大学は1789年に創設されたアメリカ国内で最も古いカソリック系私立大学で、首都ワシントンD. C.の北西地区に位置する。大学組織の構成はジョージタウン大学、ジョージタウン大学院、法学校、経営大学院、医学校、看護衛生学校、夏期・継続教育学校から構成されている。
学部学生は規定された最低限の主専攻における単位を取得しなくてはならないが、最低履修単位以上に単位を取ることも可能であり、大学で開講される全ての専攻、学際的研究、地域研究等を副専攻として履修することができる。そのためには、学生は指導教官と希望する第2学位または副専攻の学部、学科責任者からの許可を得なければならない。それが許可された場合、その学生は両方の学部、学科における全ての卒業要件を満たすことが求められる。副専攻は第3年生の終わりまでにアドバイザーと副専攻を希望する学部の学部長からの許可証を得るとともに手続きを終了し、学部に届出を提出しなくてはならない。
〈ジョージタウン大学における現状〉
まず、複数専攻・複数学位取得プログラムの例を示してみると、前述の学部段階における学士の複数専攻・複数学位プログラムに加えて、学士・修士学位並行取得プログラム、複数修士学位プログラムなどがある。前者は学部4年、修士課程2年の計6年が通常の修了年限であるところを5年の修了年限で学士と修士の学位が取得できるプログラムであり、具体的にはアラビア語・ドイツ語・ロシア語などの語学と言語学、生物学、化学、経営管理学、経済学などの専攻である。後者は3年から4年の修了年限で複数の修士が取得できるプログラムであり、具体的には経営管理学と外国情勢や公共政策、経済学と外国情勢や公共政策、歴史学と外国情勢などの組み合わせの専攻である。
このような複数専攻・複数学位のプログラムを履修する学生は学部段階で10~12%、大学院段階では各専攻で数名程度である。
複数専攻・複数学位が2つの学部にまたがる場合は双方の学部の許可が必要となり、また、GPAの低い学生に中途退学者が多いことが追跡調査の結果明らかになっているため、GPA3.3を許可の最低基準としている。
複数専攻・複数学位を導入することにより多様な教育カリキュラムを学生に提供することが可能となるので、大学の一般的な評価が上がり、他の大学との競争で有利になり、優秀な学生を大学へ引きつけることができる。
学生から見た複数専攻・複数学位のメリットは、アカデミックな興味・関心を満足させるというよりも一種の職業資格として良い仕事を見つけるためのものである。例えば経済学と国際関係学の複数専攻・複数学位を取得した学生が、ビジネスの国際化が進むなかで、それにより適切に対応できる知識、思考力を身に付けることが可能となる。
複数専攻・複数学位のプログラムを計画するにあたっては、今後の社会的、市場的、機構的変化と学生や社会の要望を考慮し、併せて世界的に見ても様々な能力に加えて柔軟性が労働市場では求められることを考慮している。
〈我が国への示唆〉
我が国では、京都大学総合人間学部で「副専攻制」が平成4年度から導入され、また、長岡技術科学大学においては運営諮問会議の答申を受けて「多様な専門教育を生かす複数専攻制の導入」が検討されていると言われており、名城大学においては経営学部の経営学科と国際経営学科の間で複数専攻制度を導入するなどの試みが見られる。
ここでは、3校の複数専攻・複数学位制度の概況を見てきたが、社会や時代の要請に応えるという意味での大学等の学際的・融合的領域に重きを置いたカリキュラムの在り方、比較的優秀な学生の興味・関心等の要求に応えるという意味での多様なカリキュラム・履修形態の在り方、今後の社会の変化に柔軟な対応を可能とする職業人養成のためのカリキュラムの在り方、厳正な成績評価に基づく学生への的確な履修指導の在り方などに関して多くの示唆を得ることができよう。
また、複数専攻・複数学位制度の導入は、特定の専門分野に偏らない柔軟で学際的・融合的な大学等のカリキュラム編成と履修制度構築のための一つの方策に成り得ると考えられるが、当該課程(学部・学科)等において求めるべき人材像を明確にしたうえで合目的的な質の高い複数専攻・複数学位のカリキュラムと厳正な履修制度を創らない限り、その資格と学位は社会的に認知されないものとなってしまうと言っても過言ではないだろう。