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アルカディア学報

No.127

新しい認証評価制度の問題点と展望―第19回公開研究会の講演から

国立学校財務センター講師  島 一則

 去る7月7日、私学高等教育研究所主催の第19回公開研究会が催され、同研究所主幹の喜多村和之氏が、「新しい認証評価制度の問題点と展望―大学と第三者評価機関はどう対応したらよいか」と題して報告を行われた。講演会参加者には、文部科学省、大学評価・学位授与機構、(財)大学基準協会、短大基準協会等の認証評価制度の主要な関係者を含め、これまでの公開研究会で最高となる250名を超える参加を得た。このことは、新しい認証評価制度への高等教育関係者および社会の関心の高さを物語っている。
 日本における大学評価の第一人者である同氏は、これまでに様々な視点から評価研究を行ってきた。その成果は本紙当欄「アルカディア学報124」をはじめ、様々な媒体において発表されている。今回の報告は、同研究所主幹としての立場からではなく、一研究者として、新しい認証評価制度がはじまった場合にどのような問題が生じるのかについて、同氏の考えを率直に述べられた非常に刺激的で意義深いものであった。以下に、報告の概要とフロアからの質疑の一部について、紹介したい。
 報告は4部構成(I「認証評価制度の特徴」II「認証評価のプロセス」III「認証評価制度の問題点」IV「展望」)となっている。
 まず、I「認証評価制度の特徴」では、学校教育法の一部改正として生じた認証評価制度の特徴として、同氏は次の11点をあげた。①「事前規制」から「事後チェック」への転換、②認証評価制度の法定と法令違反への是正措置の規定、③全大学・短大の自己点検・評価の実施と結果公表の義務化、④認証評価機関による第三者評価の義務化、⑤評価期間の確定(機関評価七年間/専門職大学院評価5年間)、⑥認証評価機関が定めた基準による評価、⑦文部科学大臣が認証を行う基準の設定、⑧文科大臣による認証評価機関の認証、⑨認証評価結果の通知、報告、公表、⑩不適格な認証評価機関に関する是正措置(認証取消含む)、⑪法令違反大学への是正措置(閉鎖命令含む)
 次に、II「認証評価のプロセス」として、大学と認証評価機関のそれぞれについての整理がなされた。まず、大学では、そのプロセスを次のように簡潔にまとめられた。①認証評価機関の選定、②選定された認証評価機関の評価基準および手順による自己点検・評価作業の実施、③自己点検・評価報告書の作成、④認証評価機関による自己点検・評価の分析、⑤認証評価機関による実地調査と実地評価報告書の作成、⑥認証評価機関による評価結果の通知、⑦異議申し立て手続き、⑧第三者評価結果の決定と公開である。
 認証評価機関については、次の形でまとめられた。①法人の設立、②文科大臣への申請―審議会への諮問―答申―認証、③申請校の受け付け、④申請校の自己点検・評価作業の分析、⑤実地調査団の結成と申請校への訪問、⑥実地調査の実施と実地評価報告書の作成、⑦当該校への実地評価結果の報告、⑧異議申し立て手続き、⑨第三者評価結果の決定と当該校への通知、⑩評価結果の文科大臣への報告と社会への公表である。
 さらに本報告の中心テーマであるIII「認証評価制度の問題点」では、以上のプロセスにおいて生じうる重要な問題点として大きく四点が指摘された。i目的に関する問題点、ii全大学・短大を対象とすることの問題点、iii評価を実施するのに必要な資源に関する問題点、iv時間の制約に関する問題点である。
 iについては、①認証評価制度は教育・研究水準の向上に資することが出来るのかどうか、②評価の有効性や意義を社会に保証できるのかどうか、③国際的な競争力をもつ大学を育成できるのかどうか、④高等教育全体の水準向上や底上げに資する有効な手段となりえるのかどうか、⑤社会の信頼や納得を得られるような公正性と説明責任を果たしえるかどうかが必ずしも自明ではないという具体的な五つの問題点を指摘した。
 iiについては、5~7年間の期限内に大学699校、短大525校、総計1224校の評価をし終えることが出来るのか。
 iiiについては、①人的資源については、評価委員、評価担当スタッフ、評価研修指導者さらには大学の研究・教育に識見を有する者等の確保、養成が果たして現実的に可能なのか、③経済的資源として、法人設立の資金、人件費、評価経費の調達をどうするのかなどがあげられた。
 最後に、ivについては、認証評価制度の第1年度(2004年)から第7年度(2010年)までの流れを次のようにシミュレートしたうえで、以下の問題点を指摘した。
 2004年(認証評価制度の施行、認証評価機関の文科省への申請、文科大臣の審議会への諮問・答申・認証、評価基準等の公表)、2005年(認証評価機関の試行・実験)、2006年(大学の自己点検・評価作業)、2007年(認証評価機関への申請と受け付け・第三者評価の実施)、2008年(専門職大学院の認証評価(第一期期限))、2009年(国立大学法人の中期計画の評価)、2010年(全大学の機関評価終了(第一期期限))。以上のプロセスについて、指摘された主な問題点は以下のとおりである。
 (1)韓国などにおいては一四年にわたる試行期間が取られたが、2005年に予想される認証評価機関の試行・実験期間が、僅かしか取られていないこと、(2)2009年の国立大学の中期計画に係わる評価が実施されること(が予想される)による作業負担の増加等に対する対処についての検討がなされていないこと、(3)2010年に認証評価が間に合わず法令違反となってしまう大学がでるなどの問題はないのかなどがあげられた。
 最後にIV「展望」として、同氏が現在個人的に考えていることについて述べられた点を、筆者がとりまとめ紹介する。①認証評価制度について、極度に楽観的な(やればなんとかなるのではないかというような)認識が多く、その一方で、ごく簡単にシミュレートしてみても上記のように数多くの問題があげられる。②このままの状況で評価を行うと不十分な評価しか出来ず、法令違反がたくさん出るなどというシナリオさえ描きうる。③これまでの評価を流用することや過渡期だから不十分なものでもしょうがないといった考え方もあるが、そのようなことを大学がしては、第三者評価をしても大学はだめだったということになりかねない。④もちろん、評価を避けては高等教育の将来は立ち行かないわけであるが、これだけ多くのエネルギーと労力を用いて評価をするのであれば、何のための評価であったのか分からないような結果であってはならない。⑤本当の意味での国民に信頼・納得されうる、そしてまた、大学にとっても有意義な大学評価システムを作っていかなければならず、そのためには、大学人自らが苦渋の時を真摯に受け止めつつ、一人ひとりが積極的にこの問題に関与していかなければならないと同氏は結んだ。
 またフロアからは、予定時間を超えて多くの質問が集まり、認証評価制度、特に今後の認証評価基準について、大学評価・学位授与機構、(財)大学基準協会、短大基準協会から、認証評価制度の導入にともなう評価基準の変更が検討されていることなどの最新情報が得られた。またこれらの質疑の中で、日本私立大学協会の認証評価機関のあり方に関して、原野幸康氏(同協会常務理事)から、現時点では公表は出来ないまでも、私立大学の特性を十分に考慮した認証評価機関のあり方について、日々検討がなされていることが報告された。
 このように喜多村氏を中心として検討が進められた評価理念をそのバックボーンとして、厳しい現実に真摯に対峙されている関係者の方々のご努力に敬意を表するとともに、日本の評価システムの水準を私学の側からより一層高められることを強く期待するものである。