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アルカディア学報

No.122

経営環境の変化にどう対処―大学経営とアドミニストレータ養成

筑波大学大学研究センター長  山本 眞一

〈経営問題に関する研究会中間報告〉
 今年5月1日に、私が研究代表をつとめる「私立大学経営に関する研究会」の研究途中経過を、環境変化の中で今後存続が困難になる大学が増加することが予想される中で、問題の緊急性を考え、公表した。私は、かねてよりこの問題が重要かつ緊急の問題であると考えてきたが、昨年9月に弁護士、公認会計士、大学経営関係者などの専門家の協力を得て、研究会を立ち上げ、私立大学の経営悪化を防止する方策や、やむを得ず閉鎖に至る場合の円滑な移行措置について研究を続けてきた。研究途上で経過報告をしたのは、とかくセンセーショナルに受け取られがちなこの種の問題に、興味本位ではなく、正面から取り組む重要性を訴えたかったからである。
 放漫経営や理事者間の内紛などこれまでにもあった大学の経営危機の原因とは異なり、今後は18歳人口の減少その他の構造的な要因によって経営危機に陥る大学が増加するであろう。その18歳人口は、2009年に120万人にまで減るとされているが、その先も引き続き減少を続け、2050年には約80万人になると見込まれている。このことは、これまでのように若者だけを顧客とするような大学教育システムでは、今後大学経営が成り立たないことを意味する。大学経営についての徹底的な構造改革が必要であり、また努力の甲斐なく大学閉鎖に至る場合は、学生の利益を損なわず、かつ社会的な混乱を避けるための方策を考えておく必要がある。

〈決断力で適時適切な措置を〉
 大学が経営危機に直面した場合に、設置者変更、合併、民事再生、破産など様々な手法がこれまでに考えられているが、今後問題になってくるのは、これらの手法を進めるに当たっての実際上の問題点の把握とそれをどのように解決していくかという具体策、さらには政策支援の在り方である。例えば学生の転学には現実に様々な困難があり、それをスムーズに実行するにはどのような方策があるのかの検討が必要である。
 また、学生や教職員を多数抱える大学の閉鎖は、退職金の支払いを含めて、一時的に多額の資金を要することから、資金繰りができる時期に、将来を見通して大学閉鎖を決断しなければ、教育活動の実態がないにも係わらず大学としての存続を図らざるを得ない(つまり実態のない大学)という悪循環に陥る危険性がある。これは、大学の社会的使命や信用性の上からも大きな問題になる。大学の存続か閉鎖かを判断し、適時適切な措置をとる決断力が大学の経営者や政策担当者に求められる時代がすぐそこに来ている。

〈学生の権利保護は重要〉
 研究を通じて出てきた当面必要とされる方策には、関係者の意識改革、大学の経営体質の改善、学生の転学等の円滑化、教職員の雇用確保および転職の円滑化、インフラとしての大学施設・設備、他用途への転換がある。これらを進めるに当たっては、第1に、大学の経営実態を把握し、関係者全員が危機を共有することで、問題を冷静にかつ客観的に認識し、問題の先送りをしないことである。第2に、経営破綻の防止のため、あらゆる努力を傾けるべきである。第3に、経営危機に対処するために、学生の権利保護、教職員の雇用確保、施設・設備の活用方策などを含めて「危機管理」の手順やノウハウの研究開発とその公表が必要である。第4に、関係者の責任追及だけでなく、経営困難に至る理由やメカニズムの解明が必要である。
 公表後、早速一部のマスコミがこのことを取り上げ(日本経済新聞5月3日付)、また関係者からの問い合わせが数多く寄せられている。私としては、一人でも多くの方々がこの問題を冷静かつ客観的に捉えるとともに、21世紀知識社会の中で、我が国にとって重要な高等教育システムというものが、一体どのようなものであるか、中長期的視野に立った政策論議が必要ではないかと考えている。なお、報告書の全文は、 筑波大学大学研究センターのホームページ(http://130.158.176.12/j_index.html)に掲載してあるので、参照いただきたい。

〈アドミニストレータ養成の必要性強まる〉
 さて、このような時代であるからこそ、大学経営を支えるアドミニストレータの養成はますます重要性、必要性を増していると考える。私は、今年2月に全国の大学・短大の職員約5000人を対象としたアンケート調査を実施したが、先月神戸で開催された日本高等教育学会の年次大会でその結果概要を発表し、事務職員のあり方について議論をしてきた。このアンケート調査には、調査対象者の6割にあたる約3000人が回答をしてくれた。
 職員の特性に関しては、2年前に私が行った調査と同様の傾向を示している。すなわち、国立大学では管理職、公立大学・短大では全職員について、同一大学での勤務年数がきわめて短いという結果を得た。その理由は、国立大学では幹部職員と一般職員との養成方法が異なること、公立大学ではそもそも大学職員として長期的に勤務する職員がいないことによる。それに比べると、私立大学では、同一大学に長く勤務する傾向がある。また、卒業大学・短大と同一校に勤務する職員は、国立・公立に比べ、私立大学でははるかに多いことも分かった。また、大卒者の割合が高いのも、私立大学職員の特徴である。概して、私立大学職員の方が、国立・公立に比べてその大学の事情を熟知しうる立場にあり、経営人材として育てるには都合のよい条件が揃っている。

〈具体的・実務的なカリキュラムで訓練を〉
 私は、今後アドミニストレータを本格的に養成・訓練していくためには、従来からの研修に加えて、大学院プログラムを複数の大学において立ち上げる必要があると考えている。このことに関し、職員の能力開発のための大学院の設置について、大学院設置が有効か既存の研修プログラムが有効かを聞いたところ、国立では七割、私立大学では六割を超える者から大学院が有効との回答を得た。誠に心強いことである。
 その大学院プログラムが開設された場合に置かれる授業科目を想定して、基礎的なものから応用的・実践的なものまで25の科目名を挙げて、それへの関心度を聞いてみた。その結果、上位には、「大学の危機管理」、「広報・情報公開」、「入試・学生募集」、「学生・就職サービス」、「大学の運営・経営概論」などがあり、具体的・実務的なものに人気が集まる傾向が分かった。半面、従来からのいわゆる高等教育研究の領域の枠内で考えられる授業科目だけでは、十分ではないということも明らかになった。今後設立されるべき大学院あるいは既存の研修プログラムにおいて、ビジネスや経済、法律など幅広い領域から提供される教育内容により、実務に役立つカリキュラムを作らなければならないのではないかと考えているところである。