アルカディア学報
実務と大学の協力機関を―法科大学院に対する第三者評価
1、第三者評価と法曹養成
高等教育機関、そのうち大学に対する評価は、大学評価・学位授与機構や財団法人大学基準協会がこれまで行ってきたと聞いている。今回、「高等教育機関の評価に関する研究」どころか第三者評価自体に無縁の私に法科大学院に対する評価というテーマを頂いたこと自体、専門職大学院とりわけ法科大学院の設立問題が、大学評価に対する考え方を変える大きな契機となっていることを示している。
そこで、法曹実務家としてこの問題にここ数年かかわってきた経験から、まず、何故、法曹の養成を法科大学院で行うかから簡単に述べたいと思う。
これまで、わが国の法曹養成は司法試験によって「法的知識」を確認し、司法修習によって「実務に必要な能力」を養成してきた。しかし、司法試験の合格率は3%程度で、司法試験に合格しさえすればほとんど実務法曹、例外的に研究者への道を歩むことになるから司法試験だけが法曹への「壁」だったといっても過言ではない。
司法制度改革審議会は難しすぎる法曹への壁を低く、すなわち司法試験を簡単にするとともに、法曹の国際化・多様化・専門化を実現するため司法試験では試せない専門能力や、法曹として必要な事実分析能力などを法科大学院という3年(または2年)の期間及び1年の司法修習の期間で養成しようとするものである。
そして、「プロセスでの養成」中、法科大学院こそ専門職(法曹実務家、具体的には裁判官・検察官・弁護士)を養成する中核的機関であり、プロフェッショナル・スクール(専門職養成機関)と位置づけたのである。
しかも、この制度理念を尊重する限り、司法試験という「試験」によって法曹適格性の絞りをかけてはならず、法科大学院の教育の充実によって「あるべき法曹」の養成が実現されなければならないことになる。
日本弁護士連合会は、法科大学院の教育の充実を求める制度として、第三者評価のあり方が最重要課題の一つと認識しており、併せて、第三者評価を行う機関は、単なる「適格評価」のためだけの機関ではなく、新しい司法制度のもと新しい法曹を如何に育成するか、という課題を検討する機関として位置づけられなければならないと考えているのである。
2、大学評価に対する基本的認識
大学評価において大学自身が行う自己評価が最も重要である。とりわけ、自己評価と自己点検こそ大学の「質」の向上をもたらすうえで最も効果的であり、第三者評価制度のもとでも、この点につき変化はない。しかし、自己評価そして外部評価はこれまで必ずしも実績を上げることに成功してはおらず、戦後、広い意味での評価制度が大学の社会的信用を高める制度として認知されることはなかったことも事実である。
とりわけ社会科学関係では学問研究の自由・大学の自治などとの鋭い対立の中、大学に対する社会(とりわけ公権力)の介入を排除する必要性もあり、外部からの評価を危険視する考え方が強かった。そして、この考え方もあながち誤りと断定することはできないというべきであろう。
また、喜多村和之私学高等教育研究所主幹が、つとに、プロフェッション自身が教育にあたり自ら理念と目的を定め自己評価する過程こそ評価の本質であり、「質の向上」のためにはまさにこの過程こそ制度の中核とすべきであるという主張を繰り返して述べておられる。私どもも、まさに、これこそ評価制度の基本理念とすべきで、認定システムという国からの「認可」を得ることが目的ではないという考え方を基本において、法科大学院に対する第三者評価のあり方を検討しなければならないと考えている。
3、第三者評価への実務家の関与
遺憾ながら、法曹養成を巡る状況について、50年以上にも亘る実務と大学(研究)の乖離は相互不信を醸成し、本来、一致して社会的要請に合致した法曹を、そのプロセスにおいて如何に養成すべきかを検討しなければならないのに、一部例外を除いて、互いの「養成部門」を自ら規定し、必ずしも充分な意思の疎通を前提とせず、それぞれがそれぞれの価値観に基づき議論を進めているのが現状である。
これでは、法科大学院で社会が求める法曹実務家を養成することはできないであろう。大学と実務家が相互信頼と良い意味での緊張感をもって第三者評価機関を通じ相互理解を実現することが、とりわけ法科大学院創設時には不可欠と考えている。
もちろん、リーガル・クリニックという実務教育機関の設置など研究者と実務家の協力態勢が築かれつつある分野もあるが、いずれにしても、第三者評価機関を形式的な「評価基準」判定機関としてはならないし、大学間の相互「認定機関」としてもならないのである。
それこそ、実務と大学の協力機関として第三者評価機関を立ち上げることが専門職教育機関に対する第三者評価機関の社会的役割と考えている。
我々、実務法曹としては、まず、第三者評価機関を通じて、法科大学院でどのような後継者を養成すべきなのか、法科大学院に伝える責務がある。そして、そのことを受けて、法科大学院は自らの判断で時代の要請に応じた法曹の育成を検討してもらいたい。
誤解している大学関係者が多いが、決して法曹実務家が自ら規定する「法曹実務家像」を法科大学院に押しつけることはしない。むしろ、大学が自ら法科大学院の質的向上を実現するシステムと「社会的要請」を認識するシステムとして第三者評価機関を設立・運営することこそ、今後の第三者評価のあり方を示す第一歩であると考えている。
4、そのためには何をすべきか
第三者評価の適正な運営のためには、既に述べたが、実務法曹自身が今後の社会展開に応じた法曹のあり方を法科大学院に伝えることが不可欠である。
そのうえで、我々は、第三者評価が、単なる大学設置審議会で定めた基準を満たしているかの「評価」を行う機関ではないことを改めて確認するとともに、実務法曹による「外圧」ではなく、むしろ、法科大学院での法曹養成の主体が大学にあることを当然の前提としながら「協力・支援」する機関として位置づけるべきであると考えている。そして、そのために、まず議論されなければならないのは、法曹養成過程とりわけ法科大学院で何を教え、どのような法曹を養成していくべきかを明らかにすることにある。アメリカの弁護士会(ABA)と、これまでのロー・スクールの発展の歴史を振り返れば、実務と大学の適度な緊張と信頼を前提に、実務界が様々な提言を行ってきた過程を認識できると思う。とりわけ、わが国の法科大学院は来年誕生する、「ホヤホヤ」の教育機関である。この教育機関が健全な法曹養成機関となるよう大学関係者と法曹実務家が見守るとともに、将来的には、それこそ法曹養成に限らず法曹のあり方を考える教育機関として法科大学院が健全に発展するよう協力していきたい。