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アルカディア学報

No.11

米国の大学事情
増加する18歳人口への対応(上)

研究員 羽田積男

カリフォルニアの大学はいま

 この夏、2回のアメリカ旅行の機会にめぐまれた。最初は東部へ、2回目はカリフォルニアへの旅であった。
 旅先の大学で、多くの大学首脳にインタビュ-をし、さまざまなことを伺った。なかでも印象に残っているのはジョンズ・ホプキンズ大学の経営学・教育学大学院の初代学部長が語った、メリ-ランド州をはじめとする多くの州において学校教員が著しく不足しており、新学期が心配であるという切実な話。カリフォルニア州の中等後教育委員会(CPEC)では、同州の高等教育の明るい展望を幹部から聞いた。18歳人口の増大や、経済の繁栄を基盤にした高等教育の確実な展望である。あるいは、公立学校のクラス定員を20人以下にするという州の決断を聞き、日本の現状を憂いつつ、他方でカリフォルニア大学の10番目のキャンパス創造など、それこそ感動をもって多くを聞いたのである。
 旅の間に、ふと眼にした9月1日の読売新聞は、「加州の白人比率五割切る」という囲み記事を掲載していた。1860年に調査を開始してからはじめて白人の人口比率が50%を割ったというのである。記事の出所は、8月30日発表のアメリカ人口統計局の調査結果であるという。
 カリフォルニア州に関する調査結果では、白人49.85%、黒人7.5%、ヒスパニック31.55%、アジア系12.18%という比率であったという。ヒスパニックとアジア系の伸び率が高いが、両者ともベトナム戦争後の移民によるところが多く、ヒスパニックでは多産の傾向もあるという分析が南カリフォルニア大学の教授によってなされたともいう。
 もともとメキシコなどからの移民の多いカリフォルニア州では、このような人口比率になることは時間の問題とされてきた。今後、半世紀の内に、アメリカではヒスパニックをはじめとするマイノリティが多数派になるものと推計されているのである。このような人種・エスニシイティ別の人口比率の変化は、人口の増大によってもたらされた変化である。当然のこと、人口の増加は18歳人口の増加をもたらし、大学入学希望者の増加をもたらし、また成人学生の増大をも意味しよう。
 専門紙「高等教育クロニクル」の年鑑号によると、カリフォルニアでは2000年から2010年の10年間に、高卒者が22%増加するだろうと推算している。加えて、高校の中退率は約10%で、年々減少の傾向にある。1988年の中退者率は34%にも達していたことを思えば、まさに隔世の感がある。


コミュニティー・カレッジ

 こうした人口の推移は、カリフォルニアでの大学の学生収容能力を大幅に不足し、州の高等教育マスタープランが反故(ほご)同然になってしまう危機が迫ってきたのである。
 カリフォルニアの高等教育の幅広い基盤ともいえるコミュニティー・カレッジ(CC)は、ながく107校体制が続いているが、詳細に個々のカレッジを見れば、やはりセンターを設立し、やがて分校に格上げして学生の受入れに努力を重ねてきた。これらの分校やセンターは現在45ヵ所にも達し、そのなかのいくつかはやがて独立し、新しいコミュニティー・カレッジとして立ち上がるに違いない。州内で最も古いジュニア・カレッジのひとつ、サンタ・ローザ・ジュニア・カレッジは、同市の南、ペタルマ市にセンターを設立し、いまや7,000名の学生を抱えるほどになっている。州内で最大級のサンフランシスコ・シティ・カレッジは、チャイナタウンなど9ヵ所に、サイトと呼ばれる施設を使って実に9万4,000人の正規学生・パートタイム学生を教えているという。州当局が、コミュニティー・カレッジに力を入れているのは、その予算処置でも明白であろう。


州立大学群

 カリフォルニアにおける4年制大学の中核は、州立大学(CSU)である。1995年には、はやくもカリフォルニア州立大学のひとつサンディエゴ州立大学の分校を、サンマルコス校として分離独立させ、さらに同じ州立大学のひとつとして、モントレー湾の入口に位置する地に新しいキャンパスを開校した。新しいデタントの時代の到来で不要になったフォート・オードの旧軍事基地の一部を譲り受け、サンノゼ州立大学のセンターをモントレー・ベイ校として立ち上げたのである。まだ軍事基地特有のバラックが立ち並ぶキャンパスは、理想のキャンパスにはほど遠い。あと5年でキャンパスは一変すると財政担当の副学長は語っていた。
 また、ロスアンジェルス市の北西の郊外、ヴェンチュラ郡のチャネル・アイランドにノースリッジ州立大学の分校がある。いまこの分校を新しい大学、チャネル・アイランド州立大学として新設することになった。こちらは巨大な州立病院の跡地と施設を引き継いで生まれる24番目の州立大学である。
 マリタイム・アカデミーを新たに組み込み、点在する州立大学のセンターを本格的に独立した大学に昇格させることで、カリフォルニア州立大学は、ここ5年間に4大学を新たに設けたことになる。大学院博士課程をもてないなど個々の州立大学に不満はあるが、少なくとも州民に対する大学教育の機会は拡大し、増える高等教育の需要に応じようとしているのである。


カリフォルニア大学

 州の高等教育の頂点に立つ、カリフォルニア大学(UC)の門戸の拡大は、州民の切なる願いであった。しかし、ながいこと州の財政難などでその具体的な検討はなされず、州民の願いは先のばしされてきた。ところが、州の財政は経済的な好況のなかで大幅に改善し、また連邦政府の財政も好転した。つまり、新しいカリフォルニア大学の建設が大いに可能となり、ついに実現できる見通しとなったのである。
 カリフォルニア大学は、周知のように本校と呼ばれるバークレー校の他にUCLAなど8ヵ所のキャンパスを擁するアメリカでも最大級の大学であり、しかも博士課程までを擁する世界でもトップクラスの研究大学である。その10番目のキャンパスは、有名な国立公園ヨセミテへの主要な交通路のあるマーセッド市の郊外へ設立されることが決まったのである。カリフォルニアの主要産業、農業地帯の中心地であるサン・ホアキン・ヴァレーへの本格的な研究大学の進出となった。(つづく)
  (今号と次号の2回にわたり、米国の大学事情に精通されている羽田氏に原稿をご執筆いただきました。)