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アルカディア学報

No.101

私学評価システム素案
私高研・研究プロジェクトが公表(下)

私学高等教育研究所主幹 喜多村 和之

7 学習者の意見を反映した自己研究・診断
 大学の自己研究・診断を実施するにあたって、大学の目的に応じて、その主たる対象の学習者や関係者からのフィードバックを反映することが必要である。たとえば、教育機能型評価モデルを中心とした大学の機関評価を行う場合には、教育の提供者の自己研究・診断のなかに、その教育を受容ないし活用している学習者やその他の利害関係者の意見や満足度等の評価情報をもりこんだ上でおこなわれる必要がある。教育とは教員と学生との相互作用(教授・学習過程)を通じて形成されるもので、その質を実質的に決めるのは両者だからである。両者の評価結果が統合されてはじめて自己研究・診断の作業は完結する。
8 新設の第三者評価機関の性格の骨子
 以上に述べてきた理由から、各大学の自己研究・診断の結果にもとづいて、その成果や達成度を客観的に評価する第三者機関として、新たな組織を設立する必要がある。設立の是非、内容、方法等については、これを設置しようとする設立母体によって審議・決定されることになるが、現時点での新組織の基本的性格としては以下のような点が挙げられる。
 ①新しい第三者機関は、高等教育の質の向上をはかるための、任意の、自律的で、独立した、非営利の、法人格をもつ組織であることがのぞましい。仮にこれを「高等教育水準向上協会」(向上協)と呼ぶ。第三者機関の自律性と独立性を維持するためには、信頼されるような情報公開と説明責任の履行が不可欠の要件である。
 ②第三者機関としての公正性・実質性を担保するため、この新機関は設立母体とは別個の組織とする。また評価事業の方針や判定にあたる委員会等の構成者には、当該大学の関係者は含まれないことは当然であるが、他大学の関係者に加えて、高等教育界以外からの第三者として、有識者や団体からの参加・協力を得るものとする。
 ③この新設される第三者機関が、国の認証を得る「認証評価機関」として申請するか否かは、その基本的性格を決める重要な点であるので、設立母体の慎重な審議を通じて決定されるものとする。
 ④第三者機関は高等教育の質の向上をはかるために、評価事業を通じて各学校の向上改善の努力を奨励し支援するとともに、申請を受けた学校がその基準に適合していることを社会に保証する責任をもつ。ただしその評価の判定は申請校の質の段階的評定をおこなうのか、基準を満たしているか否かの適否の認定とするのか、あるいは両者を組み合わせた評価にするのか、第三者機関の基本的性格にかかわる重要な問題であり、今後慎重な審議によって決定される必要がある。
 ⑤第三者機関は、その評価の項目、基準、手続き等を決定し、これにしたがって評価を実施する。
 ⑥第三者評価事業は、内外の経験や研究の見地から最短5年、最長10年の間の時期ごとに実施されることが適当と考えられる。
 ⑦第三者評価を受けるための申請は、各学校の自発的な意志による。原則として設置認可を受け、完成年度を経た高等教育機関とするが、学校法人やその他の機関の申請を受けることも可能とすることが望ましい。
 ⑧第三者機関の評価結果は公表するが、どのような形でどこまで発表されるべきかは、今後審議・検討される必要がある。
 ⑨第三者機関の評価結果に対する異議申し立ての機会を設定し、その手続きや扱いについて定めておく必要がある。
 ⑩第三者機関は定期的にその評価システム自体の自己研究・診断をおこなうとともに、適切な他者評価を受け、評価事業およびシステムの改善・改革をおこなうものとする。  ⑪第三者機関は、第三者評価の実施にともなう諸事業をおこなうとともに、評価の調査研究、評価専門職の育成、評価者の研修などを実施する。
 ⑫信頼性の高い評価を実現することはきわめて困難な事業であり、完璧な評価システムは存在しない。しかしよりよい評価を求めて、不断の研究調査と実験による試行錯誤や改善を通じて、拙速を避け、慎重かつ漸進的なシステムの形成に努めることが必要である。国内外の評価の経験や知識は、評価システムの形成には慎重な制度設計と試行錯誤による実験と長期の努力が不可欠であることを教えている。
 なお、本骨子素案は、同研究所ホームページでも公開されている。(おわり)