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アルカディア学報

No.100

私学評価システム素案
私高研・研究プロジェクトが公表(上)

私学高等教育研究所主幹  喜多村 和之

 私学高等教育研究所は、創立された当初の2000年7月に、日本私立大学協会より「私学の特性に配慮した評価システムのあり方」についての研究委託を受けた。同研究所では大学評価研究プロジェクトチームを結成し、2年余りにわたる調査と検討の結果、その基本的考え方の骨子をまとめ、このほど同協会に報告し、さらに同研究所の公開研究会で一般に発表した。本案はあくまでも今後同協会によって形成される私学評価システムに対しての基本的な考え方を提示したもので、実行にうつされる協会案ではないが、ここにその素案を公開する。なお、本素案では高等教育機関の組織全体を対象とする「機関評価」のみを扱っており、「専門分野別評価」をどうするかについては、別途に検討される予定で、本素案骨子の元となる本文は、近く発表する予定である。

 私学評価システムに関する基本的な考え方の要旨(素案)
1 評価の観念の転換―受身的な評定から建設的な自己研究・自己診断へ
 大学の質の維持・向上は、第一義的に大学自身の責任である。大学評価とは組織や機能の価値の評定や格付けを一方的に受けるべきものではない。本来の設置目的を達成するために自律的・自主的な自己研究・診断を通じて、質の向上・改善を実現するための自律的で建設的な手段である。同時に大学はその質の信用を公正な第三者機関によって保証されることを通じて、社会的責任に応える重要な責務がある。評価は目的ではなく手段であり、受身的な評定から、建設的かつ自己開発的な営みへと、従来の評価の観念を転換する必要がある。
2 私学の特性に適合した固有の評価システムの必要性
 規模および機能において日本の高等教育の圧倒的な部分を占める私学部門の質的向上のために、私学固有の特性に適合した評価システムを形成する必要がある。一元的な評価システムや国公私共通の評価基準となっている既存の評価機関の基準および方法等では、極度に多様化した多彩な私学の実態には必ずしも適合しない。私学の全体的な質の底上げがはかられることなくしては、日本の高等教育全体の質の向上はあり得ず、私学高等教育の質の充実・改善を実施すべき第一義的な責任は、外部社会の支持のもとで、まず私学高等教育機関の主体的努力なくして達成することは不可能である。そのためには私学の特性に適合した固有の評価システムが不可欠である。
3 大学による「自己研究・診断」+新設の第三者機関による評価との組み合わせ
 まず、大学の自発的・自律的な「自己研究・診断」を基本とし、学校の個性、特色、重点方針、ユニークな目的、建学の精神等、私学の自由を可能なかぎり生かした自己研究・診断を実施する。その結果にもとづいて第三者機関が実地訪問調査のうえ、共通の項目に対して、独自の基準にもとづいて、第三者機関としての評価をおこない、社会にその質の水準を保証する。このように、大学による自律的自己診断と第三者機関による社会的評価との組み合わせによって、大学と社会の双方の信頼性を獲得することを目指す。
4 可能なかぎり定性的評価を重視する
 私学の個性や特色を評価の対象とする以上、可能な限り質的な側面の評価を判定でき、しかも内外から信頼されるに足る評価体制の充実が不可欠である。評価者には質の評価を適切に行える能力が要求される。それゆえ評価者はたんに教育・研究・経営に通じた大学関係者のみならず、評価の経験者、評価の専門家や実務者等の専門的判断を必要とし、そのためには大学関係者の有志をはじめ多彩な人材を養成する必要がある。また評価にかかわる者(自己研究・診断に従事する大学関係者や第三者評価に関与する者もふくむ)は、予め評価の専門知識や実務に関する研修を受ける必要がある。
5 中央規制型基準から自己開発型基準へ
 万人のための高等教育システムへと移行しつつある21世紀の極度に多様化したユニバーサル型高等教育の時代には、評価基準は全国一律に規定されている法令や既存の諸基準等の規範に求めるよりは、私学の自由に基づく学校の個性、特色、建学の精神等内のミッションや教育目的に求めるべきである。そのための評価項目や基準、ガイドラインは、可能なかぎり大学の自由な発想や革新を奨励するために、大学の自由な発想を妨げないよう、簡素かつ大綱的なものにとどめる必要がある。ただし、自己研究・診断のための評価項目は第三者評価機関の定める評価項目をカバーするものでなければならない。
6 各大学が重視する機能に応じたモデルを通じて評価する
 大学は教育(知の伝達)、研究(知の創造・発見)、社会サービス(知の応用)等の基本的機能を営む複合的な組織体である。そのすべての機能を同時かつ一律に統合的な評価をする場合もあり得るが、大学の個性や特徴に、各大学が重視しあるいは希望する機能ごとに固有の項目や基準にもとづいて評価する方法も考えられる。たとえば教育評価と研究評価とは分離しておこなうことができるようにする方が、大学の個性や重点方針を評価するには適当な場合がある。本評価システムでは、各大学がいずれかの機能を重点とした評価を希望するかによって異なる評価基準や方法を選んだり、両者を組み合わせたりすることができる。たとえば以下のような選択肢が考えられる。
 (a)統合機能型評価モデル
  ―教育、研究、サービスの統合的機関としての大学
 (b)教育機能型評価モデル
  ―教育機関としての大学
 (c)研究機能型評価モデル
  ―研究機関としての大学
 (d)社会サービス型評価モデル
  ―社会との連携・応用・サービス機関としての大学
(つづく)