特集・連載
地方私大からの政策提言
地方活性化のヒントは地方にあり
少子高齢化が急速に進行する日本、とりわけ地方においては18歳人口の減少が特に著しい。本学の所在地である鹿児島県では、高校を卒業すると概ねその3割が就職し、そのうちの約45%が県外に就職する。4年制大学に進学する生徒は約3割で残念ながら全国最下位であるが、そのうちの3分の2は県外大学に進学し、地元4年制大学には18歳人口の僅か1割しか入学しない。
近年の日本を取り巻く経済環境の変化はさらにその様相に複雑さを加えている。景気回復の兆しは大学進学率上昇因子と言われるが、地方においては大都市圏企業の旺盛な求人募集活動により却って高卒就職率上昇を促し、大学進学率を落とす要因の一つにもなっている。増加する海外観光客の恩恵は地方にまで行き届かず、流通・サービス業を志す学生のみならず留学生までも副収入を得やすい首都圏に集中する傾向がある。何もかもが、地方から中央に向けて流れていく。
地方私立大学においては、国公立・私立間格差だけでなく、中央・地方間格差を感じる局面が多い。政令都市圏に存在する大学に比し、地方私立大学は①通学距離圏における18歳人口密度が小さい。②公共交通網が脆弱なため通学可能圏が狭い。③所得水準が低い(概ね年収400万円以上とされる4年制大学進学者の世帯所得の割合が低い)。④大卒の地元就職率が低いうえに、大卒を採用する企業も少ない。⑤地元高校の進学指導が政令都市国公立大学優先である等のハンディキャップを背負っている。
これらによって地方私立大学は①学費水準を抑えなければならない。②学費負担補助者が多く補助率も高い(外部資金だけではなく内部資金の充当率も高い)。③人口減少(学生数減少)が著しく、学納金収入減少に人件費削減が追い付かない。④教員1人当たりの人件費水準は首都圏大規模校を除きほぼ全国的に標準化しており、結果的に人件費比率が高い。⑤同窓会や地元産業界などの寄付基盤が政令都市圏に比べ、圧倒的に脆弱である等々、厳しい経営環境に置かれている。
然しながら、地方において大学は知の集積、知の拠点であり、各地域の個性や特質に焦点を当てて調査・研究を重ね、課題解決を図り、地域利益の創出と地域振興を進め、地域に軸足を置いたリーダーを育成するために不可欠な存在である。
8月20日付日本経済新聞の社説は私立大学の定員割れについて「問題はむしろ学生の選抜機能を失い教育の質の低下が懸念される地方の小規模大学だ」と手厳しい。
確かに質向上に向けての取り組みや新入学生獲得のための戦略など改善しなければならない点が多々あることも事実だが、一方で私立大学の地元就職率の高さや地場産業支援・育成のための取り組み、地元企業や地域社会で活躍する私大出身者数などもっと評価されて良いと思う。
地方私学の定員割れが経営努力に欠けるというのなら、過疎に悩む地方自治体も、後継者不足で風前の灯火である零細農家や伝統工芸職人も、都会に医師も看護師も持っていかれた地方病院も、その医療機関にさえ通おうにも通えない限界集落も全て努力不足というのであろうか。それでは地方創生の議論は進まない。
早稲田大学の教務部長がこれも5月29日付けの日本経済新聞で、地域貢献人材を育成するための「新思考入試」導入に関連して「昨今、地方創生の名のもとに、地方の高校生を地元の大学に進学させ、そのまま地元に就職させようとする動きがみられる。だが、地域のリーダーとなるべき人が、己が地域しか知らなくて、大きな変革がなせるのだろうか。「地域鎖国」とでも呼ぶべき動向は、日本社会を萎縮させるだけである。むしろ、学生が東京などで多様な人々と交わり得た体験・学んだことを生かし、地域に戻って活躍することが必要であり、そうした道筋を整備することが求められているのではないか」と述べられていたが、違和感を覚えざるを得ない。
東京でこそ地方を学べるという発想は、全国の地方自治体の成功モデルを金太郎飴のように作り上げるという旧態依然の考え方だ。そういう短絡的施策によって、日本のまちや村が個性を無くし、全国どこに行っても似たようなものになってしまい、相対的価値判断のもとに人口が都市部に集中するメカニズムを作ってきた。地方活性化の核となるヒントは地方にしか産まれないのであり、「中央から地方へ」という流れの中で、地域の活性化施策は創り得ないのである。グローバル社会の中で地域が生き残るためには、中央で世界を学ぶことも大切だが、絶対価値こそが地方の宝であるとするならば、その宝を徹底的に磨き上げることこそ優先すべきではないだろうか。鍛え上げられた筋肉質の地域が世界を凌駕する。
地方私立大学を取り巻く環境は厳さを増しているが、これまで述べてきたように、地方にとって大学は地域振興の核である。地方自治体の財政状況と、日本における地方の存在意義がリンクしないのと同様、大学においてもそれはリンクしない。地方私立大学の存続のために、当該大学への様々な形の経常費補助傾斜配分を実現して欲しいと願っているが、加えて入学者及びその家庭への直接支援に結びつく高等教育の無償化の議論は専ら教育財政の問題ではなく、内政全般にわたる最重要課題として、省庁の垣根を越えて話し合って貰いたい。
また、国立大学は研究に軸足を置くべきと考えるが、地方国立大学においても同様、地域の特色を活かした研究に力を入れるべきである。地方公立大学の立ち位置は微妙であるが、地域を支える基盤となる人材育成がベースであろうし、地方私立大学は、地域に活力をもたらす個性あふれる人材育成と地域に貢献する研究に主眼を置くべきと考える。
そして地方自治体には、地域における産学官の連携を強めるとともに、様々な学費補助の仕組みづくり、地元就職率向上に資する諸施策展開、地元教育委員会との連携による地域教育の推進、地元行政との連携による人材育成プログラムの策定など、地域に存在する地元大学への支援を強化していただきたいと強く望むところである。
つまがり・さだとし
1956年生。1980年3月 早稲田大学法学部卒業。
1980年4月 東京ガス株式会社入社、1984年1月 日本ガス株式会社入社、2008年6月 日本ガス株式会社代表取締役社長就任、2009年4月 学校法人津曲学園理事長就任、2010年4月 鹿児島県私立中学高等学校協会理事就任、2013年4月 鹿児島国際大学学長就任、日本私立大学協会理事・評議員就任。