特集・連載
地方私大からの政策提言
準公共財としての位置づけを
冒頭から笑い話のような例えで恐縮だが、昔から「新幹線の駅がある私立大学はつぶれない」などと言われていたのが、最近では「(新幹線の)のぞみの停まる駅がある大学は...」とハードルが高くなったそうである。
新キャンパスの建設
西日本工業大学は一昨年開学50周年を迎えた。本学は、平成18年に小倉キャンパス(北九州市小倉北区)を新設しデザイン学部(建築学科・情報デザイン学科)を設置する迄は、北九州市の南に隣接する苅田(かんだ)町に工学部のみを有する単科大学であった。
日豊本線の小波瀬(おばせ)西工大前駅から、新幹線のそれものぞみが停まる小倉への進出は長年の全学教職員の悲願でもあった。実際は小倉駅の隣駅になる西小倉駅前に11階建ての校舎を建てたのだが、小倉駅からでも徒歩十数分で、市役所や小倉城に隣接する大型複合施設(商業施設、放送局、新聞社、美術館、劇場等)の再開発事業に参画したのだから、地方の小規模大学としては大変な決断であった。幸い国の第1種市街地再開発事業として認定され、国・県・市からも多額の補助金が交付されて自己資金で建築費や土地代を賄えたのは大変な幸運であった。
PFI事業への参画
2年後の平成20年には、小倉キャンパスの近接地に7階建ての大学院・地域連携センターを建設した。きっかけは北九州市が小倉キャンパス近くの老朽化した市立中学校の建て替えに当たり、民間のノウハウと資金を活用するPFI(Private Finance Initiative)方式を採用したことだった。中学校用地のみならず隣接の市有地の利活用も含めた提案コンペであったため、本学は民間企業4社とJV(共同企業体)を組んで応募、5グループの中から専門家による審査の結果、本学を含むSPC(特定目的会社)が事業体に選定された。
中学校校舎や体育館の他、大学施設の隣には室内温水プールが整備され、中学校の授業利用だけでなく一般市民や本学学生も有料で利用することができる。ちなみに、本学園への市有地の賃貸期間は40年となっており、毎年の固定資産税の評価基準に応じて賃借料を市に支払っている。
大学施設の活用
大学の両キャンパスの立地がJR駅前ということもあり、学外者の本学施設の利用は平成29年度実績で93団体、延べ1万1813人に上った。各種講演会や研修会、市役所の職員採用試験やTOEICの試験会場、ボランティア団体や地元自治会の総会や懇親会場として等々利用者は多岐にわたっている。施設使用料は、近隣の公共施設の使用料金を参考にして徴収しているが、大学の広報に役立つ利用や地域貢献の度合い等に応じて使用料を減免もしくは免除している。地元の私立高校5校の入試会場としても活用頂いている。
大学施設が大学本来の講義や実習で使われるのは前後期各15週であり、行事等を入れても大学施設の年間の稼働日数は200日程度にすぎない。夜間の利用も民間のビルに比べればほとんど無きに等しい。いくら土地や建物の固定資産税が非課税だとしても、減価償却費に見合う資産活用が成されているかは財務上の要検証対象であろう。
準公共財としての役割
近年、生き残りをかけた地方私立大学の存続の道として、地方自治体との連携強化を唱える主張や論考を目にするが、具体的な施策の提案に欠け単なる精神論や掛け声に終わってしまう例が多い。他方、私学からも、私学の独自性を強調するあまり国や自治体の関与に過度に警戒や反発を示すような主張が見受けられるのも事実である。
実際、本学のように大学のみを設置する学校法人においては、地元の県や市との関係は、せいぜい結核予防の県補助金や市内私立大学間の研修費補助として数百万円が交付されるにすぎない。また国立大学と私立大学の補助金の格差をいくら大声で唱えたところで、1000兆円を超える借金を抱えた国にこれ以上の大幅な補助金の増額を要求するというのは、土台無理な話であろう。
ここは国立や公立や私立だと言わずに、大学施設を国や地方自治体の公共施設を補完する準公共財としての役割に位置付け、その制度的な保証や支援を国や自治体に求めて行く方がどれほど現実的かと思えるのだが如何であろうか?
公共施設マネジメント
人口減少社会の到来で、公共施設の維持更新経費の見通しは膨大な額に上ると見られている。北九州市においても、今後40年間で必要な費用は約1兆2000億円と試算されており、毎年の維持補修経費の平均180億円からは大きくかけ離れているのが実態である。市民会館や図書館、スポーツ施設の更新はほぼ不可能であり、市民の理解を得つつ施設の廃止や統合を推進し、民間施設や民間のノウハウの活用を図る公共施設マネジメントの視点での計画の見直しが急務である。
しかしながら現状の各地方自治体の計画には、直接所管する小中学校の統廃合や施設利用の計画はあっても、民間施設たる学校法人所有の資産への関心は皆無で、計画そのものの中にも位置づけられていないのが実状であり、改めて地方自治体における準公共財としての私立大学の位置付けと活用が期待されるところである。
冒頭の新幹線の話は、実は昨年の本学教職員のFD・SD合同研修に講師としてお招きした長野県にある松本大学の柴田事務局長が講演の最初に語られた言葉である。地方私立大学のモデル校として知られる松本大学から本学へは、松本からJRの特急に乗って2時間、名古屋から新幹線に乗って3時間という距離にある。学生募集上の理由に本学の立地を私たちが嘆くのはまことに恥ずかしい限りであった。
しかだ・まき
北九州市八幡東区出身。1976年東京大学教育学部卒、1981年北九州市議会議員就任(3期)、2001年西日本工業大学事務局長就任、常務理事、副理事長を経て、2008年理事長就任。