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特集・連載

地方私大からの政策提言

「小規模大の保護・支援策を」

平安女学院大学理事長・学長  山岡景一郎

生き残れるのはマンモス大学だけなのか?
 弱肉強食といった「強欲資本主義」の流れが私立大学の経営にまで及んできている。マンモス大学が巨額の入学検定料や学費収入を使って展開する過大な宣伝広告によって、さらに学生をかき集め、それがさらなる入学検定料や学費の増大につながるといった好循環を生み出す。その上、収容定員充足率が高く資金が豊富にある大学ほど文部科学省の補助金が手厚くなっているのだ。その一方で、規模の小さな大学は全く逆のパターンに陥り、学生数の減少→収入減→宣伝できないことによる認知度低下→学生数減少(定員割れ)→傾斜配分による大幅な補助金削減といった悪循環に陥っている。このような理由だけでも小規模大学に不利な「傾斜配分(削減)率」は見直すべきだと思う。少子化による学生数の減少というマクロ的な問題を抱えている中で、学生の奪い合いが起こり、資金力のある大学が新学部の増設、施設の改良や宣伝面も含めた様々な戦略に取り組み、少ないパイを奪っていく流れは仕方ない面もある。しかし、「経営努力が足りない」といって、定員割れを起こしている私学がまとめて淘汰されていくのも「時代の流れ」と、見過ごしてよいのであろうか。あまりにも今は、都会にあるマンモス大学の「強者」だけしか生き残れない流れが加速し過ぎているように思える。経営努力をして特色ある教育も実施していながら、規模が小さく地方にあるというだけで、その存続が危ぶまれかねない私学が出始めている。大学は、教育と経営の両方が分かる専門性の高い人材が運営していく社会的共通資本であり、市場の論理だけで淘汰されてよいものでは断じてない。罪の無い学生のことを考えると、淘汰される前に何らかの手が打てるはずだ。

破綻しかけた大学もこのようにして生き残れた
 私が2002年に、招聘を受けた平安女学院大学は、高額な給与と退職金を支払い、無謀な経営をしていて100億円に近い負債を抱え事実上破綻していた。私は、あらゆる方策を駆使し、改革に協力してくれる教職員と協働して再生することができた。2002年に改革委員長に就任すると同時に、大半の諸規程を凍結、給与の3割カット、退職金支払いと再雇用、年俸制の実施、交渉による債務の解消を行い積年の赤字を解消した。2003年に理事長に就任し、キリスト教の建学の精神を盛り込んだ「ミッション宣言」を発表すると共に、人事権を教授会から理事会に移した。理事数も20名から順次減員し現在は五名としている。2005年に学長を兼任し、カリキュラム改革と学部再編と共に3か所のキャンパスを2か所に統合した。また、華道・茶道家、造園家、囲碁棋士、京料理名人、科学者、病院長、実業家、元外務省儀典長、元閣僚等20名を超える優秀な方々に客員教授を委嘱した。また、教員と職員との壁を無くし職員と教員を兼務させる制度も発足させた。「国際儀礼士」や「ホスピタリティ・マナー」検定等を行うと同時に、教員のクラス担任制や、上級生が後輩の個別相談にのるチューター制を敷いている。また京都ならではの「おもてなし」を学習させるなど、きめ細かい指導により2年続けて就職率100%を達成することができた。
 誰もが東大や京大のように学力(受験力)偏差値の高い大学に行けるわけではない。私共の大学に来てくれた以上、立派な社会人になれるような素養を身に付ける教育を徹底しようと考えている。大企業に就職するだけではなく、立派な成人になれる素養を持った人間が、立派な社会人だと私は思っている。"貴品女性"という造語を発案し、上品で、明るくて気配りができて、思いやりがあり、我慢強く、献身的な努力ができるような学生を育成している。平安女学院大学と短期大学部は、2011年に日本高等教育評価機構と短期大学基準協会から適格認定証を頂くことができた。

小規模大学の保護・支援政策を考えて欲しい
 一応再生に成功した平安女学院もご多分に漏れず、弱小私学であり、マンモス大学の狭間で学生数の獲得に苦しんでいるのが現状である。私学経営は、経営陣と教職員が一体となって自助努力をして安定化を図ることが最も重要であるという考えを持っている。しかし最近の流れを見ていると、資金力が豊富で数万人という学生を抱えているマンモス大学だけを残そうという政策に傾いていると思う。率直に言って、学生数の少ない小規模大学は潰れても良いという感じだ。これは経営努力の範疇を超える課題であり、果たして日本の大学教育の在り方はこれでいいのか?このような問題意識を持っているのは、私だけではないであろう。個性のある小売店が無くなり、巨大スーパーマーケットだけが生き残るという産業界の構図と同じになってしまう。文部科学省の各種審議会などのメンバーには、こうしたマンモス大学の教員や理事が就くので、小規模大学の実情が教育行政に伝わりにくくなっている。また、補助金政策も変わり、大学の教育などの特色を判断して交付される特別補助金が大きく減額され、その代わりに教員数・職員数・学生数に応じて配分される一般補助金が増えている。これだとマンモス大学がさらに有利になり、特色ある教育をしている小規模大学は完全に不利である。産業界では中小企業庁などが設置され、「大店法」や「中小企業分野調整法」等があり、中小零細企業に対し保護・支援政策的な措置が取られているが、大学にはそのような措置が取られてはいない。マンモス大学による学部増設や定員増員の制限、広告宣伝費の規制等について、小規模大学側の要望も聞いて欲しいものだ。経営努力をしながら特色ある教育をしている大学は、定員割れでも補助金を継続してもらうことも訴えていきたい。
「特徴ある小規模大学特区」の創設を要望
 また、多くの逸材を輩出した「適塾」や「松下村塾」のような"コンパクト・グッドネス大学"に変身するような「特徴ある小規模大学特区」を創設して貰いたい。受験力偏差値が高い大学ではなく社会適応力偏差値の高い大学、IQよりもEQが高い大学の共存を認めて欲しい。
 特徴ある教育を受けたいなら専門学校があるではないかという人がいる。いずれはドイツのようにマイスター養成機関として高く評価される日も来ると思うが、まだ日本では大学志向が強い。日本の大学進学率は国際比較で51%と世界の14位(2012年調)で、先進諸国に比して決して高い水準とはいえない。さらに魅力的かつ味のある大学を増やして進学率を高めれば多くの大学は生き残ることができる。独自の素晴らしいカリキュラムをつくって生き残れるような施策を進めてくれるよう各方面に要請したい。
 日本私立大学協会の「私立大学基本問題研究委員会」の中に、本年11月から「地方創生小委員会(仮称)」を設けて頂けることになり、本稿の主張が少しでも反映することによって、小規模大学が元気に生き残れる一縷の希望が見えたことは喜ばしいことである。

やまおか けいいちろう

 京都府出身
 昭和5年生まれ、立命館大学経済学部卒業。
 昭和23年国家公務員(国家地方警察事務官)、32年経営コンサルタント、54年(株)白川書院代表取締役、平成7年カ怏v富地学会館理事長・館長、15年(学)平安女学院理事長・学院長、(財)京都府生活衛生営業指導センター理事長、17年平安女学院大学学長・同短期大学部学長