特集・連載
地方私大からの政策提言
「COC拡充と障害者支援」
現在、高等教育のグローバル化、ユニバーサル化の急激な進展により、国公私立を問わず個々の大学が平成17年中央教育審議会「答申」に示された七つの機能のどの機能に特化していくべきか、その方向性を明確に見定め、そのミッションに沿った「教育の質」の保証・転換がますます強く求められてきている。
もとより、教育機関は一般に教育経費と価格(授業料等)とが相関しない。「教育の質」の保証ないしその転換を図るために生ずる新たなオプションに対しては従来以上の専門性の高い教職員を必要とするが、その経費増を直ちに授業料等に反映することができない構造を持っている。したがって教育改革への取り組みは財政的には人件費比率の高まりを招き、財務体質の悪化につながらざるを得ない。こうした大学を取り巻く厳しい経営環境の荒波は、とりわけ小規模な地方私大の経営に重くのしかかってきている。もちろん本学もその例外ではない。
長野大学は、今から47年前の昭和41(1966)年に、上田市に合併する前の人口わずか1万6000名余の小さな塩田町を母体として設立され、その意味では、日本の「公設民営」型の先駆的な大学として誕生した。その後幾多の変遷を得て、現在、社会福祉学部(定員150名)、環境ツーリズム学部(定員75名)、企業情報学部(定員75名)の3学部体制で運営されているが、大学の機能としては、「生まれながらにして地域に根ざした大学」である。したがって、今日の日本社会ないし地域社会が直面している超少子高齢社会・人口減少社会への急速な進行に伴う福祉・環境・観光・情報等々の分野の直接に住民と向き合う新たな問題群に対して、地域社会の教育研究の中核的存在としてある地方私大がその問題をしっかりと受け止め、地域とともにその解決策を探り、そして地域を支えていく人材の育成を図っていかねばならないという重い社会的責務が課せられている。
ところが、大学全入時代の到来により高等教育機関への進学率が50%を超え、学力も勉学意欲も幅広く、また、留学生、障害のある学生、社会人等々多様な学生が入学する状況にある。その上特に地方私大の前には人口減少に伴う地方都市そのものが疲弊していくという越え難い大きな壁がはだかっている。したがって、地方私大に課せられた社会的責務を全うするためには従来の講義中心の教育からゼミナール中心への切り替え、初年次教育の充実、地域との双方向による問題解決型授業の展開、さらには聴覚・視覚等の障害のある学生への支援強化等々従来の教育方法そのものを根底から変革することを通じて「教育の質」を担保し、「社会人基礎力」を具えた人材育成に努めていかなければならない。
こうした地方私立大学の差し迫った大学改革の立ち位置からして是非とも次の2点について政策提言をしたい。一つは、先般、選定結果が公表された「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」のさらなる充実強化である。この事業は2年間で90拠点の選定ということであるが、本年度の大学部門での51件の採択結果を見ると、国公私立の割合は国立43.1%、公立27.5%に対して私立は29.4%と3割弱を占めているものの、それぞれの採択率を見ると、国立の43.1%(申請数51、採択数22)、公立24.1%(申請数58件、採択数14)に対して、私立は8.3%(申請数180、採択数15)と極端に低い。もとよりこの事業の活用いかんが今後の地方私大の再生・存続そのものを左右しかねない重要な事業内容であるだけに、今後はむしろ地方私大にこそ重点的に配分さるべきであり、来年度以降もさらに期間延長し、量的にも拡大し、地方私大の再生・活性化政策の重要な柱として展開してほしい。
もう一つは、障害者支援に関わる支援の充実である。本学は障害者も健常者もともに学びあうことのできるバリアフリーキャンパスを学生とともに構築していくことが「教養」教育の要諦であるとのミッションの下で、14年前の平成11年9月より、障害者サポート委員会を設置し、さらに平成13年には障害者特別入試制度を導入し、障害のある学生を組織的に受け入れ、支援していく体制を整えてきた。その結果、平成25年度現在では肢体不自由・聴覚障害学生を中心に34名が在籍し、聴覚障害学生には通常の授業はもとより入学式、卒業式等の各種イベントにおいても必ず学生および地域のノートテイカーによる情報保障を行うとともに、肢体不自由学生には施設面での改修を中心とした支援を行ってきている。
ただ、今年6月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が制定され、3年後の平成28年4月1日から法的な拘束力のある形で、障害のある学生への差別解消と合理的配慮提供が国公立機関では義務化され、私立機関では努力義務化されることになった。したがって、これまで以上に各種障害のある学生支援強化が必要とされ、専門性をもった教職員の充実が求められる。支援体制構築のためにはハードとソフトの両面の連携が重要で、その体制整備のために早い段階からの財政的支援をお願いしたい。
地方私大は今後も厳しい経営環境の中で教育改革に取り組み、地域の教育文化の中核的存在として社会的使命を果たしていかなければならないが、しかし地方私大の再生なくして地域社会の再生・活性化はほど遠く、ひいては日本社会の安定的な持続的発展は望めない。地方私大への各種支援の充実を要望したい。
しまだ・りきお
昭和39年早稲田大卒、同41年法政大社会科学研究科修士修了、同47年本州大(現 長野大)経済学部助教授、同57年法政大経済学部講師、平成16年長野大学長、同22年(学)長野学園理事長