特集・連載
地方私大からの政策提言
「私学の実践に応える施策の充実強化を」
本学園は前橋キャンパスとして、群馬医療福祉大学短期大学部及び社会福祉学部並びに大学院、前橋市内に群馬社会福祉専門学校。合わせて元気21キャンパスとしてリハビリテーション学部。さらに、藤岡キャンパスとして看護学部を高崎市に隣接する藤岡市内に開部し今日に至っている。
地勢的には、赤城山、浅間山、榛名山、妙義山など全国的にも著名な山々を遠望した盆地にあり、自然環境豊かな地でもある。地域的には北関東に位置し、北方には長野県や新潟県、南方には栃木県や茨城県があり、首都圏域とも重なり政治的経済的にも注目されている地域でもある。これらの環境の中にあって、教育的視点から見れば、周知のことであるが、少子社会を背景に如何に高齢社会を支える人材並びにその他必要とされる人材を育成するかが課題である。
その際、看過してならない重要なことは、「豊かな人間性」の持主であることが前提でなければならないことである。
その昔、生活問題は貧困問題であったのが、社会の変遷とともにその時代を反映し広がりを見せ、今日では少子高齢社会を背景に生活問題も多様化し、例えば、高齢者・障害者への良質なサービスと支援、非行・虐待の増大に対応した施策の充実・強化、これらを支援するための権利擁護システムの構築と実践などなどである。これらに対応する方法論が医療や祉会福祉の理論と技術である。
21世紀は、「福祉の時代」「精神回帰の時代」とも言われ、確かな医療と社会福祉の方法論(理論と技術)を習得し、さらに、情操豊かな専門家がより必要とされる時代を迎えている。
過日の「敬老の日」に国が公表した我が国の対高齢化に関して「1人の老人を4人で支える時代が到来した」という。かつて予測で語られていたものが、現実の社会事象となったわけである。それだけに医療・福祉教育は一層その量と質が問われるわけである。
これらを背景に政策的視点から述べれば、医療・福祉系大学は、学内に止まらず地域と連携した教育システムを確立し実践することである。合わせて国はこれを支持・支援しその内容の充実・強化に対応することである。
これらに関連して本学園の実際を紹介することにしよう。本学園は、室町時代(1449年)上州白井の長尾景仲の居城に学問所を開設し、京都から儒者を招聘し儒教教育を施したことを源流とし、私で17代目である。私が厳父(泰三)より受けた庭訓は、「質実剛健、敬愛、至誠を怠ることなかれ」の三則で、私は厳父のこの慈教に「忠怒」 を加え四則とし、我が学園の教育方針とした。
即ち、「質実剛健」は飾り気がなく真面白で心が強くしっかりしており、質朴誠実であること、「敬愛」はうやまい・いつくしむ、「至誠」はこの上もない真心、「忠恕」は真心から発した思いやりである。
以上を前提に「知行合一」(美しい心を行いで示す)を「教育理念」とし、知識だけでなく人間性豊かで実践力を兼ね備えた人材を育成することに力点を置いている。大学は3学部3学科4専攻5コース、短大部は1学科2コース3フィールドで構成され、それぞれ医療福祉分野の専門家を養成している。育成する人材の専門性は学部ごとに異なるが、教育理念は共通しており、きめ細かな教育プログラムが必要となる。具体的には、常に学生の日常的な動向を確認し指導・助言ができるよう「クラスアドバイザー制」とし、これをベースに次の3点を学生たちは毎日実践している。
第1は「ボランティアの学習と実践」である。短期大学部と各学部の1・2年生は必修としている。ボランティアは、『「自主性・自発性」が前提で必修とするのは如何なものか』とかつて問われたこともあったが、ボランティアと言えば「実践」と短絡的に捉えられがちだが、看過してならないのは、「学習」も大切なことである。そのため、カリキュラムにボランティアの学習も入れ、「実践」は、公(行政機関・小・中・高・特別支援学校等)私(福祉施設・病院等)での必要な場面に対応して行っている。これらを通して学習と実践を両立させて初めて人間としての社会的資任を自覚できる機会となると考えている。
第2は「環境美化活動」である。全学生が10名前後でグループをつくり、教職員も参加し、教室から廊下、階段からトイレまで校内くまなく担当を決め毎日清掃して帰校することにしている。常に清潔な「学び舎」で清掃という物理的な行事を通じて、環境の美化だけでなく自身の人間性を美化することが環境美化であろうことを学生たちが日々体得する機会としている。
第3は「挨拶の励行」である。朝・昼・夕方、私をはじめ、全学生、全教職員が挨拶を励行することで「親近感」、「思いやり」、「連帯感」が無意識のうちに会得できることを意図して実践している。
私は、以上を「三位一体」 の実践と言っているが、最終的にはこれらを通して「豊かな人間性」を涵養し、将来有為な「医療」「教育」「福祉」の人材として巣立って欲しいと願って実践しているものである。
また、少子高齢社会を背景に社会経済が急激に変化しており、これらに対応していくために幅広い年齢の人々の学習意欲が高まってきており、すでに一般化されていることだが「生涯学習」の機会をさらに充実・強化して、学習者に資格を取得させ再度社会で役立たせることが地域社会における大学の目的である。
以上、本学の教育実践の一端を紹介したが、要は家庭教育、学校教育、社会教育を三位一体として捉え、具体的な施策を遂行していくことが今日最も求められていると思う。
周知のことだが、「児童虐待の防止に関する法律」(平成12年)、「高齢者虐待の防止、高齢者の擁護者に対する支援等に関する法律」(平成17年)、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成23年)がそれぞれの時代を背景に制定・施行されている。「法で守る」のは悲しいことだが、現実である。これらを払拭し、基本的にはノーマライゼーション(共生・共存)を具現化するための人材養成が緊急の課題であると考える。そのためには私学の実践に呼応した国の教育施策の充実・強化を心から期待したい。
鈴木利定氏の略歴
二松学舎大大学院文学研究科博士課程修了。
〈現職〉(学)昌賢学園理事長・学園長、群馬医療福祉大学長、同大大学院学長・教授、同大短大部学長、群馬社会福祉専門学校理事長、同大附属鈴蘭幼稚園学園長。
〈所属団体〉(社)日本介護福祉士養成施設協会理事・副会長(社)全国保育士養成協議会理事、群馬県私立大学協会副会長など。