特集・連載
大学改革
<下>ICT活用FDの実践
成果を大学間連携で普及する
【研究会の経緯】
2008年度後期から大阪成蹊大学でi―MASのテスト導入を始めた。これをきっかけに同12月に関西地区FD連絡協議会のサブグループとして、大学、短大あわせて5校でFDメディア研究サブグループ(以下、研究会)を立ち上げた。本学のi―MASを事例とすること、参加各大学の現状や取組を参考にすること、2か月に1回程度会合を行うこと、本学でi―MASの見学会を開催することなどを当面の活動としてスタートさせた。設立から2年足らずで総会報告を2回、企業セミナーでの発表を1回行った。会合も計画通り年間5回のペースで行い、これまで10回開催した。見学会も計4回(8日間)、延51組織、79名の参加を得た。さらに、i―MAS導入を検討している大学と本学、そして既に導入した大学が意見交換をするi―MAS導入個別見学・相談会も開催した。このように積極的に活動させていただいたことが、研究会を拡大させ、大学間連携によるFD効果の普及につながったと思う。その結果、本年8月末現在の研究会の規模は、オブザーバ参加を含めて26校、1学部、2企業まで拡大した。
【研究範囲】
研究会では、本学で使用しているi―MASによる授業評価アンケート、出欠確認の実施方法等のあり方、i―MAS機能拡大によるその他の授業改善につながるICTの利用方法等のあり方、大学規模でのICT導入方法のあり方等を研究している。i―MASの機能を提供しても正しく実施しなければFD効果を引出せないので、実施方法のあり方も研究している。i―MASは、授業評価アンケートや出欠確認は全教員、全授業で使ってこそ最大の効果が引出せる。むしろ、特定の使い方をしてしまうことで、通常の使い方をする大部分の授業で混乱を起こすこともあるので、全教員、全授業、全学生が使う超大規模システムであることを理解し、全員が足並みをそろえて使っていくことが重要である。このような考え方に基づいてICTを実施、利用すること、ICTを大学規模で導入することを「あり方」と考えている。
【FD効果実現が目的】
ICT等のメディアを活用してFD効果を実現することが研究会の主目的である。会員校がFD効果を実現するためには長い年月が必要であるが、その間も継続的に研究会が支援する。i―MASの利用を例にすれば、次の期間と取組みの支援を考えている。
半年間テスト運用を行い、その後本格的に導入する。導入直後は反対派や中立派が多いことを容認し、一年間は有志の教員を中心に利用して反対派を中立派、中立派を賛成派へ変えていくことを目標とする。学生も突然携帯電話に変わるので戸惑いが発生し、理由なき反対者が現れる。彼らに丁寧にi―MASの利用趣旨、効果を説明する。
二年目は全教員、全授業でi―MASを使うことに取り組む。しかし、反対派は積極的に使わないことを容認し、二年目も反対派を中立派、中立派を賛成派へ変えていくことを継続する。全教員、全授業で使うことで学生一人ひとりの全授業のデータが得られるので、それを分析して、多欠席、連続欠席の学生を早期支援するなどこれまで困難だった学生支援を行い、i―MAS本来のFD効果を引出す。期中の授業評価アンケート、授業評価アンケート結果のレビュー、結果の公開などに取り組む。
3年目になると教員も学生もi―MASに慣れてくる。また、4月の第1回目の授業からi―MASをフル活用できるので、2年目に取り組んだ効果を確実に引出すことを目標とする。4年目になれば、1年生から4年生まで全学年が入学時からi―MASを使った学生で構成されるので、授業評価アンケートも出欠確認も携帯電話を使うのが当たり前と考える学生になる。4年目以降は、i―MAS本来の機能を全教員、全授業で発揮することに取り組む。
この例でもテスト導入から五年の期間が必要である。その間、研究会が継続的かつ積極的な支援を行う。i―MAS使用校は、研究会に現状や問題点、課題などを持ち寄り、解決策を見出す。これらを研究会で共有し、次のi―MAS使用校への支援を効果的に行う。ここまでやらなければ、ICTを導入してFD効果を引出すことができないと考えている。
【無料テスト導入】
研究会の最大の特徴は、会員校はi―MASのテスト導入を無料で実施できることである。昨年度6月に実施した第四回会合終了後の情報交換会の場で、「テスト導入を無料にしてi―MASの良いところを知ってもらおう」ということになった。大胆な提案だったが、i―MAS開発企業の協力を得てとんとん拍子で実現した。その結果昨年度は、後期に3校がテスト導入し、その内2校が本年度から正式導入している。残りの1校も来年度正式導入を検討中である。さらに本年度も数校がテスト導入する予定である。
【大学間連携FD】
研究会設立時は、i―MASはいくつもある出欠確認方法の一つという位置付けであった。しかし、研究がi―MASによる授業評価アンケートと出欠確認に集中したため、本年四月に研究範囲や目的を見直し、i―MASを中心とした会として再スタートさせた。会の活動がi―MASという具体的なシステムを想定しているので、会員校は「i―MASを使いたい」、「i―MASは使わないが、参考にしたい」など目的を明確にして研究会に参加している。研究会を通じたFD効果の実現を重視してきたため、参加校は各大学の事情に合わせた現実的なFDを想定して研究会に参加している。i―MASという具体的なシステムが研究会の中心にあるので、短期間で実践的な大学間連携が構築できた。
しかし、これだけでは大学間連携を継続できない。会員校がi―MASを導入する場合は、i―MAS開発企業と個別に契約を結ぶ。契約と同時に守秘義務も発生し、これ以降、研究会が導入大学と企業との間に入って支援することができなくなる。研究会を通じた大学間連携が壊れてしまうのである。そこで、昨年10月にi―MAS開発元の青森共同計算センターと教育関連システム販売大手の内田洋行にオブザーバ企業として研究会に参加してもらい、企業と研究会による産学連携を構築した。これ以降、i―MAS開発企業と研究会、販売企業が協力して、研究段階からテスト導入、本格導入、導入後の運用まで継続的に会員校を支援している。
(おわり)