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大学改革

<下>オープンキャンパス考
「戦略的なプログラムの開発を参加者と在学者の学びの場に」

麻布大学 小島理絵

 前回は、オープンキャンパスの誕生の歴史を報告した。今回は、現在のオープンキャンパスについて考察する。
■アラカルト型とコース型
 オープンキャンパスのプログラムの組み立て方を、大きく分類してみると、「アラカルト型」と「コース型」に二分できる。
 まず、同時に複数のプログラムを開催し、訪問者が自由に選択して参加するもの。これを、レストランの料理提供に例えて「アラカルト型」と呼ぶ。開催時間は10時~16時ないしは17時まで、終日オープンにしており、事前予約不要、入退場自由という形式が多い。
 一方、参加者全員が同じプログラムに参加するという手法を「コース型」とする。10時~ホールでの大学説明会、10時半~模擬講義、11時半~キャンパスツアー、12時~食堂にて昼食、13時~入試個別相談(終了後各自解散)、というような、比較的短時間の開催である。事前予約が必要で、集合時間も定められている形式が多い。
 アラカルト型は学生数や学部・学科数の多い総合大学に多く、コース型は小規模・単科大学、短期大学に多くみられる。しかし、どちらの手法を採るかの判断基準は、学部・学科数や学生数ではなく、当日の参加人数や実施規模によるだろう。
 当日の参加者が100人以内であれば、コース型が良いだろう。時折、参加人数が少ないにも関わらず、アラカルト型の手法をとる大学を見受けるが、閑散とした印象が残ることは否めない。
■小規模でも満足度の高いプログラム
 オープンキャンパスの形として、一回のイベントでの参加人数やプログラムの多彩さを追い求めがちであるが、それだけがオープンキャンパスの目指すべき姿ではない。小規模なプログラムをコンスタントに開催し、かつ在学生を巻き込む形で実施している事例として特筆したいのが、桜美林大学の取り組みである。
 同大学が2003年4月から開始した、「ミニ・オープンキャンパス」は、授業期間中の毎週土曜日に2~3時間、在学生によるキャンパスツアー、アドミッションセンター職員による大学説明と個別相談、というシンプルなプログラム構成で実施するもので、定員30~50人程度の予約制をとっている。
 当時このプログラムを企画・立案した出光直樹氏(現在、横浜市立大学アドミッションズセンター学務准教授)は、その意図を次のように述べる。
 「大規模なオープンキャンパスの参加者の中には、消化不良を起こしたまま帰っている方もいる様子が見て取れました。そこで、小規模で、大学を理解する足がかりとなるプログラムをこまめに実施すること、あわせて、在学生と参加者が自然とコミュニケーションできる仕掛けを作りたいと考えました。桜美林大では、以前から在学生がオープンキャンパス開催時に自発的にキャンパスツアーを行っており、それが効果的であることに気付いたため、これをメインに据えた、半日程度のプログラムを実施すればいいと考えました。
 また、毎週の実施となるので、実施者側も、無理なく運営していけるようにと、職員1人と在学生10人程度の協力を得ることで回していけるよう、実施者の適正規模についても意識しました。」
 結果、30人定員でスタートしたミニ・オープンキャンパスは、開始早々から毎回ほぼ定員の参加者が集まり、夏休み前には2週間先まで予約が埋まるようになった。また、中には2度、3度と繰り返し足を運ぶ参加者もおり、その多くが夏休みに開催する大規模なオープンキャンパスにも参加した。
 また、年間を通じたキャンパスツアーガイドを行う在学生は、回を重ねるごとに成長し、夏の大規模なオープンキャンパスはもちろんのこと、日常の見学者への対応や、学外の進学相談会への同行など、さまざまな場面で活躍しているという。
■大切な視点
 オープンキャンパスは、1980年代には、開催しているというだけで、参加者から喜ばれたイベントであったと考えられる。多くの大学が開催し始めた1990年代には、学園祭のように、有名人の講演などの特別なプログラムを行い、その華やかさで参加者をひきつけるようになった。最近は、無料学食体験やオリジナルグッズの配付などが一般化している。
 オリジナルグッズのペンやファイルを受験勉強に使い、それをお守りとして入試に臨む受験生もいるはずだから、そうした取り組み自体を否定することは言いすぎであろう。しかし、“客寄せ”のためではないかと疑問を持つようなプログラムも、いまだに散見されることを残念に思う。
 たとえば、オープンキャンパスで「ケーキバイキング」を行う大学が、仮にあったとしよう。製菓の学科・コースを持つ大学や短期大学で、教員や在学生が作ったものなら、それは学びの成果を表現しているといえるだろう。神戸の洋菓子や、京都の和菓子など、大学が所在する街の雰囲気を伝えるために、その土地のものを提供したり、普段から在学生を対象にケーキバイキングを実施しているというのならば、学生生活に触れるという意味を持つことになるだろう。
 しかし、そういった関わりを全く持たない特別プログラムの場合、参加者はその場を楽しむことはあったとしても、そこから「志願者」になることはあるのだろうか。
 筆者が以前、見学したある女子大学では、実際に前述のどれにもあてはまらない「ケーキバイキング」を実施していた。食堂の一角に「ご自由にお取りください」と書いてあり、参加者は、それぞれ好きなケーキを選んでいたが、参加者にとって意味のあるプログラムには見えなかった。
 その大学がもし、今後もケーキバイキングを続けるというのであれば、教職員や在学生と語らうティータイムを設け、参加者と教職員、在学生とのコミュニケーションを促進するツールとして活用していくべきであろう。当日だけの特別プログラムに違いはないが、イベントの運営側として、食堂で無料のケーキを食べてもらうことが目的なのか、ケーキを食べながら在学生と楽しく話をし、大学生活や大学の学びについて理解を深めてもらうことが目的なのかを、考えるべきである。
 本来、オープンキャンパスは、参加者に大学の情報を伝え、理解を促す機会である。参加者、そして在学生の学びの場となる、という視点から戦略的にプログラムを見直したとき、よりよい形が見えるのではないか。
                                                           (おわり)