特集・連載
大学改革
-2-強い経営を目指して中期計画の実質化
"強み"が未来を切り拓く戦略の要諦を押さえる
戦略の定義
「戦略」とは何か。
波頭 亮氏の定義によれば、「競合優位性を活用して、定められた目的を継続的に達成しうる整合的な施策群のまとまり」である。これには戦略の内容に関わる重要なキーワードが含まれている。
まずは「競合」。そもそも戦略とは競争する相手がいて、その関係で市場や社会から優れていると評価を得るためのものである。大学はこの認識に甘さがあったが、全入時代は競争相手をはっきり意識した政策が求められる。
「優位性」も大切で、戦略が自らの強みを最大限に生かしたものであれば、競争相手に対する有効性は高まる。他大学に真似出来ない何らかの要素が差別化の源泉になっていれば、市場でイニシアティブを確保することが出来る。
「目的」は、何を達成するための戦略かが、定性的、定量的にはっきり明示されていることが前提だ。目標の設定如何によって採用すべき戦略は当然異なる。
「整合性」は、戦略の中身をなす具体的施策が、一貫した狙いやポリシーによって束ねられ、一つのベクトルに向かって整合的に機能すること。ボトムアップ重視といっても、各部署からの提案の寄せ集めでは総花的となり、個性を際立たせられないばかりか、資源の集中も困難だ。
「施策群」とは、戦略の実践に関わる組織や人員の実際の行動や資金計画に結びつく具体的施策としてブレイクダウンされ、どの部署の誰が、いつまでに、何をやるかを明確にすることである。
最後に「継続性」で、持続した改革を進めうるかどうかが大学のパワーを表す。
戦略経営のサイクル
戦略の策定に続いて重要なのがその実際の遂行、マネジメントである。この基本は、PDCAサイクルで表される。プラン(Plan)で戦略や計画の立案を行い、ドゥ(Do)がその実施、実行、チェック(Check)がその到達度の評価、問題点の分析であり、アクション(Action)が改善行動となる。このサイクルを如何に学内運営に実体化するかが肝心だ。この、プランを基軸とする運営は、別の言い方をすれば「目標管理」(Management By Objectives)である。この手法が大学全体の政策遂行、部門や課室の運営、また構成員個人の業務遂行にも貫かれることが、目標実現に全員が自覚的に立ち向かう戦略経営の実現となる。
内外環境のSWOT分析
自大学を巡る環境を「強み・弱み・機会・脅威」に四分類して分析することで課題を明らかにし、最適な戦略を選択・実行するのがSWOT分析である。
強み(Strengths)では、自大学の優位性、伝統的強みや新規に開発した斬新な企画を鮮明にし、いっそうの強化策を考える。合わせて弱み(Weaknesses)を明らかにし、その補強策、代替策を練る。
自らの強みと弱みを客観的に把握する所から全てが出発する。その上で事業発展の機会(Opportunities)や可能性、ニーズはどこにあるのかを探り、その展開の方策を策定する。逆に脅威(Threats)は何か、発展を阻害する壁や障害、強い競合相手はどこかを明確にし、その対応策、脅威を最小に抑える方策を検討しなければならない。
自大学にとって有利な環境と不利に働く要因を、将来予測を行いながら見通す。もちろん絶対的尺度はないので、あくまで競合校との比較や市場でのポジションを踏まえて検討する。具体的な事実を優先度の高い順に絞って列挙する必要がある。機会と脅威は外部環境に当たり、強みと弱みは内部環境に当たるが、この分析こそが戦略形成の重要な基礎作業となる。
選択と集中
こうした分析作業は、勢い短所や問題点に目が行きがちだが、大学の発展の基軸を考える時、強み、それも「中核となる強み(コアコンピタンス)」を明確にすることが特に重要だ。他大学が真似しようとしても難しい固有の教育研究、経営あるいは社会連携事業の特色やスキルに着目し、育て強める施策が求められる。これこそが差別化戦略の根幹であり、問題点を改善する施策以上に、大学の未来を切り拓く力になる。
投資できる資源には限りがある。大学の中核事業の発展を考えると、コアコンピタンスの形成と強化に連動する事業を選別し、そこに特化することが必要となる。これが経営に「選択と集中」が求められる所以だ。選択と集中とは、目的に対し事業の必要・不必要を明確にしていく手法で、重点事業への資源の集中の一方で、不要不急の事業の縮小や廃止が不可避となる。
生き残りのためには、他大学に優位に立つための教学・経営資源は何か、逆に不必要なものは何かを明確に判断し、リストラクチュアリングを遂行することが強く求められる。これこそが経営の本務である。
先進に学ぶベンチマーク
戦略の形成過程に斬新な手法を導入し、劇的な改善を実現する手法がベンチマーキングである。同業や他業種で一流の成果を上げている所を探し、その成功要因や手法を学び活用する取り組みである。どんな問題でも即座に解決策を考え、実行出来る人材はそう多くいるものではない。知恵を絞っても解決策が見つからない場合、他人の知恵や経験に学ぶベンチマークは極めて有効だ。現行とは異なる、全く気付かなかった新しいやり方を学び、取り入れることも出来る。
また、ベンチマークには失敗というリスクが少ない。すでに実践で検証済みの方法だからである。ただし結果の模倣だけでは良い成果は得られない。自大学の現状とベストの間には当然ギャップがある。この原因、その実践方法や組織体制の違いなどPDCAの全ての過程にわたって学習し、それらをトータルに活かすべきである。
マーケティング・マインド
戦略の具体化の調査や成果を上げる手法にマーケティングがある。マーケティングは四つのPの頭文字で表されるが、大学に即して考えれば、製品(Product)は教育内容やキャリア形成、資格・就職支援、充実した学生生活、価格(Price)は学費や諸経費、奨学金など生活支援、立地(Place)はキャンパス、施設設備、学習環境や交通の便なども含まれ、宣伝・広告(Promotion)は広報、学生募集、さらには大学の対外活動や社会連携も含まれると思われる。
その際、顧客ニーズを掴むマーケットリサーチが重要である。常に市場の需要を調査・分析、それに基づいた教育や環境の改善、適正な価格の設定と、その中身の積極的な広報により、最終的に学生募集に結実させる。この一連の流れは別の言い方をすればCS経営(Customer Satisfaction)、顧客満足を第一とする経営の実現とも言える。顧客である学生を獲得する募集活動・大学広報や学生進路支援、また学生満足度を高めるための教育改善や生活充実の取組みにも活用すべき手法である。マーケティング・マインドを大学の全分野の事業企画や実践に貫くことが求められる。