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特集・連載

大学改革

<上>大学職員のキャリアパスを考える

日本福祉大学 常務理事・学長補佐・執行役員・事務局長
 大学行政管理学会会長 福島一政

 大学職員のキャリアパスの在り方について、議論が行われ始めている。大学の冬の時代にあって、職員は自ら能力を高めなければならないし、これまでのように、様々な部課署を経るジェネラリストではなく、特定の分野に特化したスペシャリストとしてのキャリアパス等も考えられる。このたびは、職員のキャリアパスについて、大学行政管理学会の福島一政会長に寄稿して頂いた。

 一、はじめに

 大学職員という職業は、昔はあまり知られていなかった。しかしながら一部では、それなりに正確な実務さえこなしていれば世間並み以上の給与が保障される上に、大学という知的で自由な雰囲気の中で働くことの満足感のある「楽な」仕事だと知られていたようだ。
 ところが、一八歳人口が急激に減少し、「大学冬の時代」になって様相は一変した。二〇〇六年度の新入生は四割の大学で定員割れをしていることに示されるように、多くの大学で学費収入は目減りし、かといって学費値上げもままならず、受験生の減少で入学検定料収入も減り、補助金も資産運用収入も増える見通しは立たたない。一方で、よい教育成果を上げようと思えば、教員人件費は増やさざるを得ず、教育研究経費の増加や施設設備への投資は避けられない。そうなるとターゲットにされるのは職員である。新しく開発しなければならない仕事もそれに伴う実務量も飛躍的に増えているにもかかわらず、人員は削減され、実務的な仕事はアウトソーシングされる。しかも給与は上がらず適切な人材養成システムや人事評価制度もなかなか整備されない。加えて、財務や人事、広報や企画といった分野には経験豊富な企業人の採用が多発する事態である。このままでは、国公私立を合わせて約七万人いる大学職員の、現在の大学にふさわしい力量形成が不十分になるばかりか、彼らのモチベーションの低下にもつながってしまうだろう。そうなれば、日本の高等教育機関の危機は一層深まるばかりとなろう。
 しかしながら、心ある大学経営者は、職員の能力を開発し、大学経営の一翼を担ってもらうようにしなければならないと強調される。一〇年前に設立された大学行政管理学会は、全国の大学職員が自ら、自分たちの能力開発をしようと「決起」したものでもある。これらの動向の中で、意欲ある大学職員たちは、同学会などでの実践的な研究活動のほかにも、仕事を続けながら大学院で学んだり、様々なセミナーなどに参加して自らのキャリア形成に涙ぐましい努力を続けている。その多くは「手弁当」とも聞いている。
 それぞれの大学は、これらの大学職員の意欲に応え、経営・行政・教学の全ての領域で責任を果たすことができるよう、そして大多数の大学職員が自律的な意欲が持てるよう大学としてのキャリアパスを検討することが必要だと考える。

 二、大学職員にとって必要な資質

 今の時代の高等教育を取り巻く情勢を変革の視点で見てみると、単に一八歳人口が減少するから「改革」をするわけではない。
 第一に、いわゆる大学の「大衆化」である。大学・短大進学率が五〇%を超えるとどのような事態になるか。「大学生の学力の低下」などというレベルではなく、低学力の学生が一定程度存在することになる。さらには、学習意欲に乏しい学生も相当程度存在するということである。特に、学習意欲に乏しい学生には、教員だけではとても対応しきれない。学びの体系としての正規のカリキュラムのプランニングはもとより、その体系を実際に学生たちが効果的に学ぶことを支援するための、「ヒドゥン(隠れた)カリキュラム」たる入学前教育・初年次教育・全学共通教育・教養教育体系・キャリア開発体系・正課外活動・学習支援体系・環境整備等のプランニングも教員と協働できるようになる必要があろう。それらを実効あるものとしてプランニングするためには、学生の学習到達度や満足度を測る手法の力量も求められよう。一方では、意欲も学力もある学生たちの力量をさらにつけさせるプログラムのプランニングもできるようにならなければならない。いわば、職員の「教育マネジメント」能力が求められるようになる。
 第二に、多様な社会連携の展開である。大学間連携、学・産・官連携、地域連携、国際連携などである。「大学コンソーシアム京都」に代表される大学間連携の取組は、全国各地で行われている。「競争」ばかりを強調するのではなく、自立した大学同士の「強み」を生かした「連携」によって、日本の高等教育を発展させるべきであろう。節度を持った新産業の開発や技術開発のために産業界との連携も必要である。まちやむらづくり、地域経済の発展のために自治体や企業との連携も必要であろう。COEなどを契機とした世界レベルでの研究や人材育成では、国外の大学との新しい共同も必要となっている。これらの事業もまた教員だけではできない。連携プログラムのプランニングからコーディネート、日常的なコミュニケーションなど職員がやらなければならないことはいくらでもある。
 第三に、本格的な生涯学習社会への対応である。これからの時代、昔のような高度経済成長は望めない。人々の「幸福度」が経済的な指標だけで得られないとすれば、より満足のいく人生を送るために多様な学習意欲が湧き上がってくるのは自然であろう。大学は、それらに応えるために、「いつでも、どこでも、学びたいときに学ぶことができる」プログラムを準備する責任があると考える。この事業も教員だけではできない。需要のある分野を正確に判断することができたり、新しい分野のニーズを掘り起こすことのできるマーケティングの手法も必要となる。「いつでも、どこでも、学びたいときに」に応えることのできる条件を常に改善・開発していくことも求められるだろう。
 以上の三点だけを見ても、大学は変わらなければならないのだと考えている。決して一八歳人口が減るから、その対策として「改革」しなければならないわけではない。
 この三点以外にも職員は、経営の基盤たる財務や人事、企画、環境整備などといった分野での専門的な力量が必要となっている。それを支えるのが、幅広い教養とそれに裏打ちされた科学的な世界観や教育観、コミュニケーション力、戦略的思考、リサーチ力、正確な実務力などといった資質であろうと考えている。これらの資質を身に着けるためにはどのようにしたらよいのであろうか。

 三、必要な資質をどのように身に着けるか

 大まかにいって三段階に分けられるであろう。
 その第一は、基本的には個人としての自律的な努力で身に着けるべきことである。先述した、幅広い教養とそれに裏打ちされた科学的な世界観や教育観、コミュニケーション力、戦略的思考、リサーチ力、正確な実務力などである。幅広い教養などは、大学で仕事をする以上至極当たりまえのことである。単に知識が豊富であるということではなく、現代社会を生きるうえで必要な歴史観、宗教観、文化観、倫理観などを身に着けていなければならないし、人権を尊重する姿勢が確固たるものでなくてはならない。人間の自主性を損なうような教育観を持っているようでは論外である。これらは、日頃の自己研鑽によって身に着けることが基本だろう。多くの学生と接し、教職員と協働して教育活動を行い、社会連携事業や生涯学習事業を展開しようとすれば、コミュニケーション能力(単に外国語を話すことができることにとどまらない)がそれなりに高くなければ思うような仕事はできない。また、大学職員の仕事は、問題を解釈することよりは、問題を解決することに重心があると思うが、そうであれば、簿記の手法、情報通信手段を的確に扱える力、論理的思考など正確な実務力が無くては話にならない。これからの大学職員が実務家としてだけでなく、さらにプロフェッショナルな存在を目指そうとすれば、戦略的思考やリサーチ力はその基礎となる資質である。これらは最初から十分な力を持つことは無理であろうが、少なくとも基本的な力は身に着けておきたいものである。実際の業務を通してあるいは研修の機会をつくってブラッシュアップしていくことになろう。
(つづく)