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特集・連載

高校進路指導室の扉―新しい高大連携・接続に向けて―

コロナ禍とwithコロナ
~逆境こそ進歩のチャンスだと捉える~〈上〉

東京家政学院中学校高等学校教諭 王佳晨

 コロナ禍が収まらない中で、2回目の新年度も一か月過ぎようとしている。本校では昨年度は4月から5月まで休校したが、本年度は無事に休校することなく、生徒たちは元気に学校に通っている。しかし、学校内の様々な環境において、コロナ禍前とコロナ禍後で大きく変わった。
 コロナ禍を通して、本校で最も大きく変化したのはICT教育に関する機材の使用スキルの向上だと考えている。教員・生徒全員が一人一台ずつタブレットを所持し、教育の補助として様々なアプリケーションも導入している。一方でICT教育というのは長い教育活動の歴史の中でみれば、比較的新しい取り組みだと思う。黒板や紙媒体と比べ、まだまだ我々教員自身も最新機材、アプリケーションなどの把握ができていない部分も多くあった。事実コロナ禍前まではICT教育を実践する際に、機材環境の整備は十分である一方で、機材を我々自身があまり教材の研究が十分でないがゆえに、効果的に使用できているとは自信を持って言えるか怪しい状態であった。特にタブレット関連のスキルは教員間の個人差が大きく、現在の感覚から見れば体感として1~2割程度しか活用、把握できていなかったように感じている。
 コロナ禍で休講を余儀なくされた中で、本校はこれらの機材を否応なしに使用せざるを得ない状況に追い込まれた。するとどうだろう。各先生方が積極的に機材を使い始め、これまで難しいと仰っていた先生方も目を見張る速度でスキルを身につけていった。本校では従来の教育系のアプリ、ZOOM、TEAMSといった会議用アプリをはじめ、YouTubeや本校ホームページでの動画配信など様々な環境を駆使し、休校中においても一定水準の教育を、オンラインを通して生徒に届けることができた。
 以上のことから今回のコロナ禍で我々本校教員は、ICT教育をしていくうえで必要な水準のスキルを身につけられたと感じている。一方で、コロナ禍で学んだもうひとつの重要なことは、対面による教育の重要さである。黒板を使い、座学ないしはグループワーク、今まで「あたりまえ」として行ってきたことを、休校期間のオンラインではどうしてもできなかった。会社など、一定の環境を満たしていればテレワークは新しい仕事の様式として成立すると思うが、教育において机間指導ができず、生徒の手元やメモが確認できないオンライン授業はその点において対面授業の大切さを我々に再確認させた結果になったと思う。
 ここまで本校のコロナ禍による休校期間中の取り組みについて述べてきたが、進路指導においては多少様子が異なった。高1では生徒自身の自己発見を進路指導の目標のひとつに掲げており、自己発見から自身の特性と関連性のある分野への意識付けを行う予定であった。しかし入学後に行われるはずだった生徒の適性診断は約2か月遅れで実施することになり、例年夏に行われていた大学などの上級学校見学会も実施がままならず、生徒にはオンラインでの見学を各自に任せ、参加レポートをデータにまとめて提出させる、という形を取らざるを得ず、結果休校期間中において学校主体で実施できた進路行事はわずかであった。学内の教員だけで完結できる授業などと違い、学外との関わりの強い進路行事において、休校期間中での取り組みは授業ほど良い成果が出たとは言えない結果であった。
 その中で高3の進路指導の充実はコロナ禍による休校の中でもなんとか達成しなければならない事項であった。受験生の夏を迎える前に実施予定の進路行事、とりわけ進学にまつわるガイダンス等の行事は学校の休校明けすぐに実施しなければならない。この実施において先述の休校期間中での教員のスキルアップは大きな効果をもたらすことになる。
 その例のひとつとして校内で実施している進学説明会を挙げたいと思う。例年本校に外部の方を招き実施していたものが、昨年度はリモートでの実施を余儀なくされた。学校再開後の実施を目指し、4月当初から打ち合わせをしたが、当初は実施方法に戸惑っていた部分もあった。しかし実施の目処が立ち、打ち合わせが進むにつれ、それほど不安の声はほとんど上がらなかった。明らかに先生方がオンラインやリモートに慣れ、スキルが上がったのが要因であった。各大学・短大・専門学校の方も十分に対応していただき、結果としてリモートである点を除いて概ね例年通りの実施ができた。このことは我々教員の中でも大きな経験となり、秋に実施された高1、高2向けの模擬授業などの行事においても、リモートの導入はスムーズにできた。結果一年間を通してみれば、概ね生徒に必要な情報提供及び進路行事の実施ができたものと考える。
 また、教員向けの各大学・短大・専門学校の説明会についても、コロナ禍においてオンラインが役に立ったと評価できる。コロナ禍対応の中、授業時間の確保という観点でも、各学校のオンラインでの説明会は我々教員にとっても非常にありがたいものであった。リモートでの参加は勿論、アーカイブ配信での実施は現場の教員にとって時間を有効かつ効率よく使用して参加できるものだった。アーカイブだと質疑応答、個別での相談ができないという課題はあるものの、コロナ禍の中でもリモート等で進学情報を提供していただいた各学校への感謝を、この場を借りて御礼申し上げる。
 昨年度はコロナ禍で多くの学校の先生方が様々な取り組みをしていることと思う。本校では教員のデジタルスキルアップや意識改革ができたこと、また従来の教育活動の重要性を再確認できたことは大きな収穫だと考える。「百聞は一見に如かず」という諺があるが、この「一見」を全教員が体験できたことは重要な意味を持っている。機材の進歩こそあれ、日本の教育現場での授業形態はまだまだ大きな進歩を遂げていないように感じる。今回各教員がこれだけ新しい試みをしたが、いつかコロナが収束しても今回得たスキルや新しい発想を教育活動の中に活かしていくことが我々教員の今後の課題である。本校では今年度も昨年度得た知識や技法を活かし、今年度でもそれらをうまく活用できるように取り組みをしている最中である。願わくは今回のコロナ禍という逆境を活かし、日本の教育業界の発展に新しい風が吹き込まれることを期待している。
(つづく)