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高校進路指導室の扉―新しい高大連携・接続に向けて―

多様化への対応~総合学科高校での取組み~(下)
全国高等学校進路指導協議会 事務局長
元 東京都立晴海総合高等学校 主幹教諭  千葉吉裕

私は16年間都立晴海総合高校に勤務していた。創設されて20年以上経つ総合学科高校だが、まだまだ理解されていない現状にある。学校名に「総合」とつけば、総合学科だというわけではない。普通科で総合選択制の学校があり、それらの学校名には「総合」という文字が学校名に記されている。逆に、総合学科を設置しているが「総合」と付かない学校もあり、名称だけでは判断することができない。
 では、総合学科とは、どのような学科だろうか。学習指導要領をみると、「産業社会と人間」及び、専門教科・科目を合わせて25単位以上の教育課程を備えていることが総合学科の条件となっている。普通科・専門学科の枠にとらわれない幅広い科目を開講し、生徒が主体的に選択履修できる学校だ。一言で、主体的な選択と言っても、簡単ではない。そのためには、「システム」と、「人」と、「施設」が必要になる。
 そのシステムの一つが、「産業社会と人間」という科目だ。「産業社会と人間」は、原則、入学年次に2~4単位履修することになっており、自己の在り方生き方を考えたり、科目選択する態度を身に付けたりすることとなっている。この科目は教科書がなく、学校や地域、生徒の実態を踏まえて、学校ごとに授業内容を工夫することになっている。晴海総合高校では、開校当初は、全国高等学校進路指導協議会編集の「高校生のための進路ノート」を活用していた。その後、私が大幅に改訂し晴海総合高校独自の教材となっている。
 科目選択時、生徒は大いに迷う。その迷いをサポートする教職員として、キャリアカウンセラーを東京都は全日制総合学科に1名ずつ配置した。都はキャリアカウンセラーを、選択に関わる相談からあらゆる相談活動にフルタイムで対応できるガイダンス・カウンセラーとし、相談活動のみならず、校内のガイダンスの機能の充実を図ることを使命とした。
 東京都で初の全日制総合学科高校である晴海総合高校には、一般の高校で「進路指導室」と呼ぶ施設を「ガイダンスセンター」と名付けて、1クラス入室できる広さを確保し、学校の中心的な場所に設置した。その部屋で、生徒は、調べ、相談し、話し合い、自己啓発のための活動を考え、意欲を高め、熟慮に熟慮を重ねながら、科目選択に臨むことになる。
 このように、科目選択できるような教育課程を備えるだけでなく、システム、人、モノをマネジメントしなければ、その目的を達成することはできない。全国に全日制総合学科は約350あるが、様々な課題が指摘されている。その課題の多くはこれらマネジメントに起因していることが多い。
 私は、2代目のキャリアカウンセラーとして、創立6年目の晴海総合高校に赴任した。当初、授業を持たず、ガイダンスとキャリアカウンセリングに専念できるよう配慮されていた。都の方針が変更され、授業時数軽減で、授業を持ちながらその任にあたることとなった。
 高校におけるキャリアについての指導では、「差異心理学」が非常に役立つ。しかし、大学の教職課程や、研修会では学ぶ機会も少なく、これらの知識を備えている教師に出会うことは希である。特に、ジョン・ホランドが提唱する「職業選択理論」は、教員は知っておくとよいと感じている。この理論は、生徒の興味の志向性を判断することができるため、科目選択、進路選択に役立てることができる。それだけでなく、生徒のパーソナリティ分析もできるので、生徒理解を深められ、生徒との人間関係を構築するのにも大変有効である。多くの総合学科で、科目選択指導に苦慮しているのは、これらの知識と、それを使いこなすスキルが不足しているためではないかと私は考えている。心理学や自己分析に興味を持つ高校生は多く、この理論で占いのように生徒の特徴を言い当てると、大喜びする。生徒との信頼関係構築にもたいへん役立てることができる。
 その理論で作成されたツールが、キャリアマトリックスの中にあった興味診断テストである。行政刷新会議の事業仕分けで2011年にキャリアマトリックスは廃止され、今は活用できなくなってしまったが、とても優れたツールだった。短時間で結果が判定されプリンターで出力できるので、科目選択で相談が集中する時期には大いに活用させていただいた。廃止以降は、その興味診断テストの基である職業レディネステストを利用している。その自己分析をもとに、興味にありそうな学部や学科、学問分野、職業、図書館の書籍、大学等の公開講座などを紹介することで、生徒の探索活動を後押しする。今、パッシブラーナーからの脱却が求められており、生徒の内的動機付けは高校の重要な課題になっている。そこで、生徒一人ひとりの興味の志向性を判断し、各々の興味に沿った情報を提供、その時の反応から感触を探り、さらに合った情報を提示するという相談を繰り返すことでおぼろげだった進路がはっきりしてくる。この手法は大学や短大などの学生募集にも利用することができる。大学や短大などに招かれての講演で、この話は大変好評である。詳細に記せないが、科目選択、学部・学科選びの活用の具体例を『職業研究』(雇用問題研究会)2016年No.1(http://www.koyoerc.or.jp/occupational_research/backnumber/414.html)に記したので、興味のある方は読んでいただけたら幸いである。
 総合学科創設当初の原則履修科目として「課題研究」がある。その後、高等学校の教育課程に「総合的な学習の時間」が設けられたことによって、原則履修科目から外されることとなるが、多くの総合学科では、今も「課題研究」をおこなっている。次期学習指導要領では「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に改められ、総合学科で行われてきた「課題研究」はすべての高等学校へと広がる予定だ。
 「研究」というと、仮説検証のような研究を思い浮かべると思うが、高校で行う課題研究は、企画立案や作品制作、他の研究の追試、提案発表など、様々な形態がある。生徒が主体的に設定する課題について、高校において仮説検証の研究という手法ですべて学習することができるわけではない。それは、卒業研究がすべての大学の学部で行われていないのと同じことである。このような現状を踏まえれば、課題の発見や、他者に納得するように研究を説明する活動が重要だと気づいてもらえると思う。この学習を通し、自己の興味関心にそって課題を発見し、それをさらに探究したいという思いをもって、「入りたい学校選び」をするようになる。だから、進学にあたり、入学試験は、その思いを伝える機会のあるAO入試や推薦入試が多くなるのは必然である。目的意識を高めた上で入学しているので、入学後も目覚ましい活躍をする卒業生も多い。
 このように教育改革の流れに応じたマネジメントができるかが、今次の改革でも成功の可否を握っているのではないかと思う。(おわり)