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特集・連載

高校進路指導室の扉―新しい高大連携・接続に向けて―

今こそ真の高大連携を考える

茨城県立藤代紫水高等学校 
進路指導主事  阿久津幸司

教員向けの大学説明会

《大学説明会の歴史》
 今では高校教員向けの大学説明会を開催することが当たり前の時代だが、実はこの会が始まったのはそれほどに古くはない。歴史的には浅くせいぜい20年前ぐらいからでしかない。専門学校ではそれよりずっと早くから行われていた。専門学校はまだ歴史が浅く学生を集めるのに必死だったため、積極的に高校教員を取り込む作戦だったわけである。大学において推薦入試が実施要項に明記されたのは昭和42年、私立大学では一部の進学校に指定校を依頼していた時代だった。その後しばらく、一般入試が主流の時代が続いたが1990年AO入試が慶應大学で初めて行われたのがきっかけで各大学に広まり、一般入試だけを行っていればよかった大学も様々な入試制度への対応がせまられ、必然的に高大連携の中で唯一高校教員と直接接触することができる教員向け大学説明会を行うようになったわけである。このような理由から徐々に説明会を行う大学が増えていった。
 それでは、大学説明会の意義について考えてみたい。我々高校側の人間は大学に行く機会はほとんどない。あったとしても生徒と行くバス見学程度である。つまり多くの教員は大学にもほとんど訪問していないということになる。私の考える高大連携とは、大学側と高校側が互いに自由に行き来し、信頼しあい、共通理解のもとに若者を育て、日本社会に貢献できる人材を輩出していくべきである。しかし、現状では全くといってよいほど本当の意味での高大連携は行われていないと考えている。
 では、高校側から大学に訪問する教員がどうしたら増えるのか考えてみたい。その一つとして各大学で行われているのが研究会である。研究会によっては500人ほど高校教員を集めている場合もある。そしてこの研究会を大学の施設で行うことにより、多くの高校教員が大学に出向くことができる。しかしこの集まりは大学を知るというよりは、本人の興味や関心から出向くだけであるため、大学と交流するというわけではない。
 次に考えられることは生徒と共にオープンキャンパスに参加することである。ただ問題も発生する。まず出張にならず、交通費も自費になり、開催日が土日になるため、代休を取ることができないのである。そのようなリスクを負ってまで大学を知ろうという高校教員はそう多くはない。
 しかし、高校教員を大学に招く方法が一つだけある。その方法が「大学説明会」である。「大学説明会」こそ、真の高大連携といえる。
《本年度の大学説明会に参加して》
 それでは、今の教員向け大学説明会はどのように行われているか。私はそれを調べるため、今年度は約30の大学説明会に参加した。そこで自分なりの感想を述べてみたい。
 〈日時について〉
 3月に実施した大学があるが、新学部の発表と説明を中心にしたものだった。このような大学は稀で、ほとんどの大学は4月下旬から7月上旬に行われる。4月下旬や7月上旬に行う大学は、それほど多くはない。その理由として考えられるのは4月下旬にはまだパンフレットや入試要項ができていないためである。そして7月上旬に行う大学のほとんどがすでに大学説明会を何度か行っていた。
 そのような理由のため大学説明会は5月の連休後から6月の約2か月間に首都圏の大学の80%が行う。さらに集中するのは6月上旬から中旬である。この現象は曜日も同じで、高校側としては月曜日や火曜日は避けたいと考えており、金曜日が好まれる。つまり6月初旬から中旬の金曜日が大学説明会のベストな日程になる。大学自身もこのことを理解しているためこの時期に集中している。
 もう一つ問題になるのは、開催時間である。早くて12時から遅くても4時からという大学もある。12時からという大学は、管理栄養学部や学生食堂が充実している。つまり食事をとってもらい大学の特徴を理解してもらうことを狙いとしているのである。16時からという大学は個別面談だけである。このような大学は少数であった。
 ほとんどの大学では、内容は異なるが、15時ぐらいから始まり、17時30分頃には終了していた。
 〈開催場所について〉
 大学説明会会場や実施する回数も大学によって違った。大学の多くはキャンパスで行われるが、東京国際フォーラムや一流ホテルを会場にした大学もあった。また、キャンパスごとに行う大学や、同じキャンパスで複数回・時期によって行われる大学、いくつかの地方都市でホテルを利用して行う大学もあった。開催場所については大学それぞれの考えがあり、一概にどれがよいとはいえないが、会場によって大学のイメージが変わるのは確かである。
 〈記念品について〉
 数年前の大学説明会では、多くの大学で記念品として大学の名前が印刷されたクオカードや図書カードが使われていた。しかし、ある県の教育委員会からクレームが出たことがきっかけで、ほとんどの大学では記念品として使われなくなった。私自身もそのほうがよいと感じている。その代わり大学独自で工夫された記念品が多くなり、説明会に参加することの一つの楽しみになっている。
《大学説明会で高校側のこれからの大学の評価が決まる》
 今年の大学説明会の目玉は「2021年度入試」のはずだったが、大学の多くはまた検討中ということで、これといった内容はほとんどなかった。しかし、この問題に真摯に取り組んでいる大学もあり、中にはすでに昨年度の入試に取り入れている大学もあった。これらの大学は高校側から信頼を受けている大学で、ここ数年の間に受験者数を伸ばしている高校生に人気の大学だった。この「差」こそが今後の大学の差として出てくることは間違いない。
 大学説明会のその他の内容でも同じことがいえる。その内容が高校側に必要なことであればあるほど大学の評価につながるのである。
《大学説明会で変わる高大連携の未来》
 大学では高大連携について試行錯誤中だと思う。常に高校側にも多くの提案が出される。その中には成功した事例もたくさんあると思う。また一部の高校と高大連携を成功させている大学も少なくないだろう。しかし、全体から見てみると大成功とまでいっていないと思われる。理由は簡単。大学側は大きいことや目立つことばかりを考えているためだ。
 私は教員向け大学説明会を成功させ、その中から高大連携を模索していけばいいのだと思っている。大学側は説明会を一大イベントとして考えるべきである。ほとんどの大学の大学説明会の中身はいまだに「平成」のままで、10年前の大学説明会と全く内容が変わっていないと感じざるをえない。大学側はこのことに気が付かなければいけない。新しい令和の大学説明会こそ、大学側に必要なことだと私は考える。来年度の教員向け大学説明会を楽しみにしている。

1日1大学説明会の取組

《高大連携の現状》
 教育改革の目玉として高大連携、そして新テストが教育業界で騒がれているが実際には良い方向には進んでいない。新テストは文部科学省が中心に行えばよいが、高大連携は大学側、そして高校側との信頼関係から成立するものであるため、お互いが知恵を出し合い、共通理解のもと連携を強めることが大切である。
 それでは現状はどうであろう。大学側は高校側に対して行っていることで代表的なものは「出前授業」である。どの大学も力を入れており、「出前授業」を通して高大連携を強化している。私立や進学校などではさらに連携を強化し、大学の研究室に自ら通う高校生もいるほどである。つまり、有名大学と私立や進学校では高大連携はある程度成功しているといってもよいだろう。
 しかしそれ以外の高校の現状といえば、「とりあえず『出前授業』してもらいました」程度である。つまり本当の意味での高大連携はほとんどできていないのが現状であるといえる。
《大学側からの高校側へのアプローチの一つである「高校訪問」》
 大学側からの高校側へのアプローチの代表といえば、「高校訪問」である。高大連携としてのイメージが浮かんでこないが、教員と親交を深めることは立派な高大連携である。「高校訪問」は、高校側にとっても大学の情報をいち早く知ることができることはもちろんだが、大学側へのパイプづくりといった面からも重視している。ほとんどの大学は4月から6月に1回9月から12月に1回の2回ほど来校される。近隣からがほとんどだが、遠方から来校される大学もある。ただ近年、入試課や広報課の人手不足から年1回になってしまった大学も少なくない。
 このように今、本来は強化するべきところを大学の都合で「高校訪問」を軽視する傾向が強くないる。大学側との交流がなくなることは、高校側としてとても残念なことである。「高校訪問」の"意義"を、大学側にはもう一度考えていただきたいものである。
《すそ野にまで高大連携が浸透しないわけ》
 「高校訪問」以外の高大連携を成功させるためには、大学側が高校側に対して欲している情報を知り、その情報をいち早く伝え、高校側と共有することから始まる。高校生にアプローチをする「出前授業」や「大学での模擬授業」だけが高大連携ではなく、高校教員と連携することこそ本来の高大連携だと思っている。だから、大学と高校が共に独自の高大連携を模索し、それぞれの高校に合わせた高大連携を確立させなければならない。先述したが、一部の有名大学と進学校などではこの関係ができている。しかし、他の大学や高校ではよほど親しい大学と高校とではできていたとしても、多くの場合は全くと言っていいほど確立されていないのが現状である。これではいつまでたっても高大連携は達成できそうもない。
《それぞれの高校で大学側に何を求めているか》
 それでは高校としては大学側に何を求めているのかを考えてみたい。実は高校の種類によって大学側に対する要求は全く違ってくる。つまり大学側はそれぞれの高校によって連携の仕方を変える必要があるのだ。大変でも一つひとつの高校と向き合い、できるだけ要望をかなえることこそが本当の意味での高大連携になるのである。このことを実現させるのには、相当な時間と労力を使うが、今こそ大学側に取り組んでもらいたいことなのである。
 例えば、大学側で関係を重視したい高校の高大連携を強化することから考えてみよう。大規模大学の場合は別だが、普通の大学では重点校は100校程度と考えられる。この高校には年間に相当数来校することが考えられるので1年で20校ほどは高大連携を強化することができるはずである。100校程度であれば、5年もあれば十分に達成されるはずである。さらに入試課や広報課として強化したい高校があれば重点校とし加え、丁寧に付き合うことが重要である。最初は大変かと思うが強化校が実績を上げてくれれば苦労なんて忘れてしまうだろう。
《本校で試みた高大連携の一つである「一日一大学説明会」》
 これまでは、全体像としての高大連携のあり方について述べてきたが、ここで本校が取り入れている高大連携の例を見ていきたい。それは「一日一大学説明会」である。説明会というと思い出されるのが教育業者で行う校内ガイダンスである。この校外ガイダンスは今では当たり前のようにどの高校でも行われている。実際に、本校でも各学年で行っている。このガイダンスの良いところは教育業者が計画から実施に至るまでのすべて行ってくれるため、教員の負担が少なく、生徒たちが大学の情報が得られるため教員や生徒にとっては、ありがたいこととしてとらえている。
 しかし、すべてが良いわけではない。参加する大学が制限されるし、専門学校も参加させなくてはいけない。また説明会に参加できる大学の数も、同一分野で2大学程度、合計10大学前後しか参加してもらうことができない。この数では大学を選ぶには少なすぎるといえる。他の高校では、これをカバーさせるため、生徒を各大学のオープンキャンパスに参加させたりしている。しかし本校では部活動が盛んなため、休日は部活動での試合や練習に充てられ、とても参加できる状態ではないのである。そこで考えたのが「一日一大学説明会」だった。
 「一日一大学説明会」とは、本来であれば高校側から大学に行き、内容を知ることが目的であるが、オープンキャンパスに参加できない本校の生徒のために平日の放課後に一つの大学に来校してもらい説明を受けることができる説明会である。そうすることにより来校した大学の説明会に参加することが可能になるわけである。
 このような説明会の例は、全国でも全くなかった。無謀な挑戦で、果たして本校で実施できるのかとても不安だった。それでもこの説明会を成功させたい一心で大学側に働きかけたが、最初はこちらの趣旨がわからず、どの大学も否定的だった。しかし、最終的に初年度は40校程の大学に参加してもらった。今から6年前のことである。
《入試から見る2021年度からの高大連携とは》
 今年度も大学50校程が参加し、4月中旬から7月上旬にかけて「一日大学説明会」を開催した。この6年間の成果は、生徒の大学進学からもわかる。本校の生徒は、地元の大学への進学がほとんどだったが、首都圏の大学に進学する割合が格段に上がった。さらに地元の大学の名前しかわからなかった本校生徒が、多くの大学名を言えるようになった。また高校の教員側も大学側と密接な関係を持てたことも大きな収穫である。このように新しい試みにより本校に強みを与え、本校独自の高大連携は成功したわけである。
 2021年度から高大連携の仕組みも大きく様変わりをしなくてはならない。正直なところ大学側も高校側も不安だらけだろう。しかし、逆に考えればどちらにも大きく飛躍する最大のチャンスにもなるわけである。私たちは常に新しいことを考え、これからの若者のために役に立つことをしていかなければならない。
 そのためにも全く新しい高大連携を模索していく必要があるのだ。