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高めよ 深めよ 大学広報力
〈80〉高めよ 深めよ 大学広報力 こうやって変革した 76
学部増設で新機軸出す
3つの柱掲げる「福祉の大学」の志は貫く
淑徳大学
福祉の単科大学としてスタートしたが、福祉系学部を設ける大学が増え、看護や行政・ビジネスを学ぶ学部の新設に踏み切った。淑徳大学(長谷川匡俊学長、千葉市中央区)は時代の要請に応えながら改革を続ける。福祉分野に力を入れている点は変わりない。ボランティアを教育の一環ととらえ、大学でも推奨。ボランティアサークルから誕生した学生らでつくる消防隊は、市消防局から正式な消防隊として任命された。地域貢献にも力を入れ、孤独死防止に取り組む松戸市の常盤平団地自治会と提携、家庭訪問や見回り、イベントの手伝いなどキャンパスでは学べない実践授業を行う。このように新機軸を打ち出しながら、「就職に強い」、「資格取得に有利」、「インターンシップ・実習が充実」、の三つの柱を掲げ、「人を思いやる気持ちの大切さと、その気持ちを社会に役立てていく“実学”が身につく大学」を訴える。これまでとこれからの改革などを副学長に聞いた。
(文中敬称略)
消防隊を結成 活発なボランティア
淑徳大学は、1965年、千葉市に社会福祉学部社会福祉学科の単学部単学科の大学として開学。社会福祉学部は91年に社会学部に、社会学部は05年に総合福祉学部に名称変更。95年、国際コミュニケーション学部、06年、看護学部、10年、コミュニティ政策学部をそれぞれ開設した。
キャンパスは3つ。千葉キャンパスに総合福祉学部とコミュニティ政策学部、千葉第2キャンパスに看護学部、みずほ台キャンパス(埼玉三芳町)に国際コミュニケーション学部。四学部に約2700人の学生が学ぶ。
千葉キャンパスは、創立者である長谷川良信が浄土宗龍澤山大巌寺の住職をしていた関係で大巌寺の敷地を利用。開学当初、北海道や沖縄など地方から来て学んだ卒業生は大巌寺の本堂で学んだことを懐かしがる。
副学長の足立 叡が大学を語る。「大乗仏教の理念を建学の精神としています。『together with him』の実践を通じ理想社会の建設と真実な人間の育成をめざしています。開学以来、社会福祉の実践を通じ『ひとりひとりの自立と社会の連帯』の実現に貢献しうる人材の育成に務めています」
社会福祉に力を入れるのは開学以来の伝統。「『福祉』とは人びとが『幸福であること』、社会福祉とは社会的な手段や方法による『福祉』の実現という意味」(足立)だという。卒業生は、千葉県内の社会福祉関係の行政部門や施設に多い。
同大の姉妹施設、特別養護老人ホーム「淑徳共生苑」では、利用者と向き合いながら高齢者福祉の知識や技術を学んでいる。平成21年度の社会福祉士国家試験の合格者数では県内で1位、全国で4位だった。
これまでの淑徳大の改革を足立に聞いた。05年に社会福祉学部を総合福祉学部に改称した。環境問題の深刻化、孤独死の問題や、今までにない非行、犯罪など社会病理の蔓延の状況が顕著だ。「社会全体が福祉共生社会の構築を必要とし、あらゆる面で福祉とのかかわりを構造的に持たざるを得ない時代となった状況を鑑みて(学部名を)変えました」
九六年に国際コミュニケーション学部を開設。「新しい時代の付託に答えるため共生の理念に立ったグローバル・コミュニケーターの育成を主目的とする学部です。建学の精神である共生の理念の地球的規模での展開を担います」
07年に看護学部を開設。高齢化社会の到来は、医療分野に新たな課題を生んだ。「看護現場では人が不足し、すぐれた看護の人材養成が喫緊の課題。福祉を究めてゆく大学として、看護領域へのアプローチは当然の帰結でした」。キャンパスは提携する国立病院機構千葉東病院の敷地内にある。
10年、コミュニティ政策学部を開設。「地域の問題発見・解決を主導的に担う人材を育成することが目的。行政・企業と連携した参加型・双方向型・体験型授業など、今までにない教育を実践したい」。消防隊は、この学部の学生が中心になることが期待されている。
広報・地域支援室室長の長谷川俊哉が取材に同席。長谷川の肩書きが気になった。「今年四月に新設しました。それまでは、入試広報だけでした。広報はパブリックリレーション、つまり周辺地域の人たちとのリレーションが大事で、地域と一体となった広報をめざす、ということから広報・地域支援室にしました」
地域貢献のひとつに孤独死防止に取り組む松戸市の常盤平団地自治会と提携がある。伏線があった。07年に「淑徳大学孤独死研究会」を立ち上げ、都市部の団地でみられる孤独死により浮かび上がる社会的福祉的課題を研究してきた。
一方で、地元自治体や企業ともさまざまな協定を結び、「地域とともにある大学」の存在感を示す。千葉市とは、10年、地域の福祉、健康等の増進及び人材の育成に貢献することを目的として相互連携協定を締結。
09年、千葉ロッテマリーンズと、10年、ジェフユナイテッドとそれぞれパートナーシップ包括協定などを締結した。「学生はジェフ千葉のゲーム運営に関わるボランティア活動をするなど実学を学んでいます」(長谷川)
ボランティアサークルが多い。「こどもや老人を対象としたり、点字、手話など、100人いるサークルもある。全学生の半数は何らかの形でボランティアに関わっています」と長谷川。職員と学生で運営する「地域支援ボランティアセンター」がボランティア先の紹介などを機能的に行っている。
10月から千葉で開かれる「第10回全国障害者スポーツ大会」には、同大の学生ボランティア400人以上が参加。千葉県国体局からの要請に大学として応えた。
「“福祉の淑徳”として存在意義が問われると心配しました。しかし、純粋なボランティアとして400人以上が集まり、学生を信じてはいましたが、改めて見直しました。この期間中は全学休講にしました」。足立は顔をほころばせた。
来年4月には、総合福祉学部に教育福祉学科を設置する予定。「“福祉の淑徳”が培ってきた経験と実績を活かし“教育”という柱を立て、子どもの健やかな成長を支えるプロフェッショナルを育てたい」(足立)。大学のこれからを足立が語る。
「福祉の大学という存在感は失いません。福祉のあり方は時代で変わっていきます。本学の大きな幹は福祉で、これをより太くしていくため、枝をきちんとつけていくことが大事。福祉・健康と関連する栄養学などを取り入れることも検討しています」
福祉の大学である淑徳大は、大学の幹である福祉を太くするため、それに関連する新たな学部学科という枝を伸ばしながら、巨木をめざす。