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高めよ 深めよ 大学広報力
〈72〉高めよ 深めよ 大学広報力 こうやって変革した68
6学部を8学部に大再編
「問題はこれから」 受験者数は前年比2割増
愛知淑徳大学
女学校からスタートして戦後、女子大学となり男女共学の総合大学に発展した私立の学園も多い。愛知淑徳大学(小林素文学長、愛知県愛知郡長久手町)も、そうした大学のひとつ。本年度、現行の6学部を大規模に再編、8学部体制にするという大きな改革を敢行。この改革は反響をよび、微増減を繰り返していた受験生数は前年を2割近く上回った。この大改革は、少子化、大学全入という厳しい時代、大学の生き残り策を2年間かけて検討して練り上げたものだという。問題はこれから。「改革1期生をどう指導して、社会に送り出すか、今後が問われている」と本年度の成果に気を引き締める。改革までの経緯、改革の内容、大学のこれからなどについて広報担当者に尋ねた。 (文中敬称略)
違いを共に生きる 95年、男女共学に
愛知淑徳大学は、1905年に設立した愛知淑徳女学校が前身。翌06年に、愛知県下初の私立の高等女学校である愛知淑徳高等女学校に。戦後、愛知淑徳中学校と愛知淑徳高等学校として再出発した。
学長補佐の太田浩司が大学を語る。「学園が誕生した当時、女学校教育は家事・裁縫が主流でしたが、本学は英語や理科を必須科目にしたり、『スポーツの愛知淑徳』といわれました。制服を洋装にし、修学旅行をいちはやく取り入れるなど、時代を先取りした教育を行ってきました」
1961年、愛知淑徳短期大学を開学、14年後の75年に愛知淑徳大学を創立した。文学部のみの1学部(国文学科・英文学科の2学科)でのスタートだった。中学から大学までの女子教育を担うことになった。
現在、長久手キャンパスに、文学部・人間情報学部・心理学部・メディアプロデュース学部・健康医療科学部・福祉貢献学部の6学部、星が丘キャンパス(名古屋市千種区)に交流文化学部・ビジネス学部の2学部の計8学部、約7500人の学生が学ぶ。
愛知淑徳大学には、5つのキーワードがある。「伝統は、たちどまらない」、「違いを共に生きる」、「地域に根ざし、世界に開く」、「役立つものと変わらないものと」、そして「たくましさとやさしさ」である。
「伝統は、たちどまらない」。この精神が改革を促した。文学部100人という小さな大学から、短期大学の募集停止、相次ぐ新学部の設置、95年、男女共学にして現代社会学部を開設した。04年、ビジネス学部、医療福祉学部を開設した。
この間の大きな改革のひとつは、90年に及ぶ女子教育の殻を破った男女共学だ。太田が説明する。「『違いを共に生きる』の精神に男女共学化をこめました。男と女の違いを正しく知り、お互い、同じところにも目を向けながら、生かし生かされ合う存在だと認めて生きる、ということです」
本年度の大幅な改組・再編について、太田が続けた。「創立者は、『教育家が時代の動向を察知せず、その日暮らしの教育をしたらば、人の子をそこなう』と、『10年先、20年先に役立つ人造り』を目指しました。設立者の思いと、時代と社会の要請に応えたいということから改革に踏み切りました。
現行の学部体制はわかりにくい部分もありました。それぞれの学部が明確な教育目標とアイデンティティをもつべく、これまでの6学部から8学部体制にしました」
学部再編は、①心理学科が学部として独立②文学部から図書館学科が独立して人間情報学部に③現代社会学部のメディアプロデュース及び都市環境デザインの両コースが文化創造学部表現文化専攻と合体しメディアプロデュース学部にした。
④現代社会学部のフィールドスタディコースは文化創造学部の多文化専攻とともに交流文化学部に⑤医療福祉学部から福祉学科が独立して福祉貢献学部に⑥言語聴覚専攻、視覚科学専攻にスポーツ健康医科学科が加わり健康医療科学部が誕生した。
「違いを共に生きる、を具現化するうえで、どういう学部が必要か、を念頭において行いました」(太田)
学部再編と同時に、全学必修の基幹科目として『違いを共に生きる』、『ライフデザイン』、『日本語表現』の3つの授業を新設した。
今回の改革も受験生らに伝わらなければ意味がない。入試広報室事務室長の伊藤英樹が説明する。「改革を訴求するため、新聞、駅などへのポスター、地下鉄の中吊りなど、これまでにないくらい広報宣伝に傾注。オープンキャンパスや北海道から沖縄まで実施する大学説明会でも、きめ細かく平易に訴えました」
これが成果につながった。オープンキャンパスには「例年以上に高校生が詰めかけ、3年生だけでなく1、2年生の姿も」(伊藤)。本年度の受験者数は1万4000人を超え、前年より2000人近く上回った。
太田は「問題はこれから。本年度入学してきた1年生をどう指導するか、が重要です。本学は、受験産業が行った『学生の満足度調査』で全国16位にランクされるなど満足度が高い。これを維持するよう学生と教員の距離を短くし、ゼミなど少人数教育の充実など教育力を強めたい」と話す。
教育面では、全学部・学年問わず英語教育に力を入れており、05年度、文科省の「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」に選定された。また、高い資格まで目指せるコンピュータ教育、簿記1級まで目指せる会計教育、ハイレベルな到達目標が目指せる英語・中国語・韓国朝鮮語教育などの充実を図っている。
就職では、高い就職率を実現している。キャリアセンターを中心に学生が適切な職業選択・進路選択ができるよう①1、2年次のキャリアデザイン講座、②女子学生を対象とした総合職対策講座の開講や、③三年次の全学生対象の個人面談の実施などを行っている。
「内定した4年生が後輩に助言するスチューデントアドバイザーは、本学ならではの制度です。また、『インターンシップ概論』の開講など、学生の職業意識の涵養に努めており、それが高い就職率につながっているのではないか」(太田)
地域・社会貢献も活発だ。06年には、長久手キャンパス内に「愛知淑徳大学クリニック」を開設。「学生に対する教育の場だけではなく、地域住民の健康を守る医療機関として患者数も年々増加しています」(伊藤)
太田が今後を語った。「学部の改組再編を生かすのが要諦です。新しい時代に対応できる人材の育成をめざし、既存の学びのシステムをさらに進化させたい。そして、『生き抜く力』を身につけた、次代のリーダーになりうる人材を育成したい」。改革の真価が問われるのは、まさに、これからだ。