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高めよ 深めよ 大学広報力

〈61〉高めよ 深めよ 大学広報力  こうやって変革した57
 時代の風を読み進化
 4月から2学部新設 実学主義で人材育成 
 東京工科大学

 これほど間断なく改革を行ってきた大学は珍しいのではないか。1986年、工学部の単科大学として開学、99年、メディア学部を設置、その4年後の03年には工学部を発展させてバイオとコンピュータ系の新学部を設けて三学部の工学系総合大学に。さらに、今年度、新たにデザインと医療保健の新学部開設の許可を得て五学部を擁する総合大学に発展した。それは、東京工科大学(東京都八王子市、軽部征夫学長)。時代の要請に応え、大学生き残り策の一環として、学部開設などの改革を次々に行ってきた。ダイナミックな改革の歩みと成果、そして「これからも、改革は続ける」という今後について、学長の軽部に聞いた。
(文中敬称略)

工学部単科から総合大学へ

 東京工科大学の設置法人である片柳学園は1947年に設立された絵画科と洋裁科の創美学園が前身。テレビの本放送開始を機に53年、テレビの技術教育分野に進出。76年に併設校の日本工学院専門学校が開校、86年に四年制の東京工科大学を創設した。
 八王子キャンパスにはメディア学部、応用生物学部、コンピュータサイエンス学部の三学部に約6200人、4月から新たにできる蒲田キャンパスにはデザイン学部と医療保健学部の二学部に約2000人(予定)の学生が学ぶ。
 軽部が大学を語る。「本学の基本理念は、生活の質の向上と文化の発展に貢献できる人材の育成、実学主義の実践です。実社会の第一線で活躍できる知識と技術を身につける実学教育を行い、技術者やエキスパートを育成しています」
 軽部は、この理念を具体化するために定めた四つのミッションを説明した。第一のミッションは、学生の個性を重視した教育。希望する出口(就職)に向かって、専門性を少しずつ身につけられるようにコース制をとる。14コースあり、三学部を一学部一学科にして、二年次か三年次で希望するコースを選択できる。
 第二は、実社会に役立つ人材の育成。一年次から基礎専門科目を学び始め、二年次から専門科目を順次学ぶ。第三は、ICT(情報通信技術)に精通した人材の育成。コンピュータサイエンス学部を中心にLinuxのスペシャリストを幅広く育成。第四は、国際的人材育成のため外国語(特に英語)の実践教育だという。
 こう補足した。「『Only One,Best Care』を掲げています。どこにもないユニークな教育を実現することと、学生が卒業するまで満足のいく研究活動やキャンパスライフを送れるよう教職員が教育活動する、ことです」
 これまで実施してきた改革だが、その歩みを時系列に示すとこうなる。
 1986 開学。工学部(電子工学、情報工学、機械制御工学の三学科)
 1999 メディア学部を開設。
 2003 工学部を発展させバイオニクス学部、コンピュータサイエンス学部を設置。
 2007 全学部にコース制を新設、三学部三学科一一コースになる。
 2008 バイオニクス学部を応用生物学部に名称変更。
 2010 蒲田キャンパスに、デザイン学部、医療保健学部を開設。
 大学の歩みに沿って、改革が供走してきたのが一目瞭然だ。まず、99年と03年の改革について、軽部に聞いた。
 社会が求める人材
 「マルチメディア時代に対応して開設したメディア学部は約11倍の競争率になるほどの人気でした。工学部を発展させバイオニクス学部、コンピュータサイエンス学部を開設したのは、社会や企業がどういう人材を求めているか、それに対応しました。08年にバイオの専門教育に特化するため応用生物学部に名称変更したのです」
 10年度の大きな改革ついて、続けた。「少子化で受験生が減っています。技術系の学部だけで生き残るのは厳しい、ということからデザイン学部と医療保健学部を新設しました。医療保健は時代の要請であり、デザインは他の芸大や美大とは違うCG技術などを駆使した本学ならではの特長を打ち出しました」
 そこで、「これだけ次々に改革を行うと、開学時の建学の精神が揺らぐのではないですか?」と、ちょっと意地悪な質問をすると―。
 「本学は、実社会の第一線で活躍できる知識と技術を身につけた技術者やエキスパートの育成、実学教育が背骨になっています。新しく設置した学部は、いずれも大学の理念に沿ったもの。開学以来、時代の風を読んで進化してきました」
 軽部の話は日本の大学に及んだ。「これまで、多くの大学が“ミニ東大”を目指してきた。国立大も私立大も個性が足りない。大学のタイプによって役割は異なるが、『うちの大学は、こういう学生を育てる』という理念をもっと打ち出すべきではないか」
 個性ない日本の大学
 さて、大学の改革は口で唱えるのは簡単だが現実に実施するのには容易ではない。当然ながら、人(教職員)も金(校舎・教育施設)もいるし、改革を伝え、納得させて受験生が集まらなければ改革は絵に描いた餅になる。そのあたりを聞いた。
 「学部ひとつを新設するには、巨額な予算が伴います。幸い、本学は同じ法人の経営する併設校の専門学校の経営が堅調だし、新設した学部の受験生の応募も順調。卒業生の就職も好調というように、うまく回転しています」(軽部)
 教員は、メーカーや研究機関といった民間企業の経験者が多い。これまでの象牙の塔といわれてきた伝統的な大学の教員の制度やあり方を一新。研究教育面で優れたものはどんどん取り入れ、新しい方策を追求する風土ができつつある。
 就職面では、専門学校時代から先輩が放送通信業界に築いてきた職場などがあって、就職率はほぼ100%で推移してきたが、今年度は厳しいという。社会が求める人材を育成する新学部の就職実績はこれからだ。
 学部の特徴出す広報
 大学広報について、軽部は「大学は出口、就職に直結する。うちの大学に来れば、出口がみえる、という点を訴求してきたし、これからもそうしたい。出口までBest Careするということです。これからは実学主義をかみ締めて、外に向けて学部ごとに特徴を打ち出した広報をしたい」と話す。
 最後に、軽部は、今後について語った。「4年後に、学生数は8000人を超えます。その前に、コンピュータサイエンス学部の改組を考えています。2年前から研究しているオープンソフトを使った『クラウド教育』を中核に据えた新学部設立などを検討しています」。軽部は「時代に沿って改革しないと生き残れない」と強く言った。東京工科大学の改革は、まだまだ続く。