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高めよ 深めよ 大学広報力
〈58〉高めよ 深めよ 大学広報力 こうやって変革した54
地域社会と共に学ぶ 「学生が主人公」小さくとも光る大学に
長野大学
昨年、五つの私立大学が今年度からの募集停止を決めた。いずれも定員割れによる経営悪化が要因だった。同じように、かつて募集停止したが、法人と大学名を変えて見事に再生した大学がある。厳しいといわれる地方の小規模な大学ながら頑張る長野大学(嶋田力夫学長、長野県上田市)。新しく生まれ変わったあとも、改革を続け存在感を高めている。現在、「21世紀の地域社会をけん引できる人材の養成」という旗印を掲げて改革を続行中だ。「地域との絆を大事にして、国際的な視野をもった未来を担う人材を育てていきたい」と教職員の士気も高い。長野大学の再生と改革、あるべき大学の将来像などを大学トップに尋ねた。
(文中敬称略)
福祉、環境、観光、情報に力
長野大学は、上田市と合併する前の旧塩田町が中心になって設立した学校法人が1966年に開学した本州大学が前身。同大学は、翌年、短大も併設、日本の公設民営大学の先駆的存在だった。
しかし、本州大学は経営悪化のため全面的な経営・組織の見直しを図り、72年に募集停止。短大を経営分離、法人名を「長野学園」、大学名を「長野大学」にして再出発。現在、社会福祉学部、環境ツーリズム学部、企業情報学部の三学部に1300人の学生が学んでいる。
もともと小さな町が作った大学だ。ちょっと説明がいるかもしれない。同大教授の長島伸一は、かつて、「上田自由大学とその周辺」という講義で、大正期に上田に存在した上田自由大学と長野大学の関係を、こう述べている。
「人口1万6000人余の農業を主体とする小さな町が四年制大学の新設に名乗りをあげたのは単なる偶然ではない。先進的な民衆教育の確立を目指した『上田自由大学』の歴史的伝統がなかったら、大学の設立など発想されなかった」
上田自由大学は、1921年、「地方一般の民衆が産業に従事しつつ、自由に大学教育を受ける機会を得るために」設立。31年に自然消滅したが「本学関係者の共通した心の拠り所のひとつが上田自由大学」(長島)だという。
いささか脱線したが、学長の嶋田が大学と改革を語る。「塩田平の恵まれた環境のもと、約40年余にわたり、建学の理念を受け継ぎながら数多くの社会人を輩出。社会構造も、大学の果たす役割も変化してきた。それに合わせて本学も様々な改革を進めてきました」
06年度、産業社会学部を改組、環境ツーリズム学部と企業情報学部をつくり、社会福祉学部と合わせて三学部体制に。「福祉、環境・観光、情報は、日本社会が直面するもっとも大きな課題。地域に根を張り、各学部での学びを通して、地域に貢献できる人材を育てていきたい」(嶋田)
従来からある社会福祉学部は、30年を超える歴史がある。社会福祉士、精神福祉士を養成、教員のほとんどは福祉臨床の現場経験者で、卒業生は県内外の福祉施設などで活躍している。
環境ツーリズム学部は、環境とツーリズム(観光)がテーマ。観光立県の長野にある大学として、地域の観光や環境の知識を学び、地域社会の発展に役立つ人材の育成をめざす。
企業情報学部は、学生が主体的に学術研究を行っている。特にコンピュータグラフィックス(CG)に関するソフトウェア開発技術は学外からも評価が高い。CG制作などの学内施設は地方の大学では際立っている。
日本学生支援機構が行う優秀学生顕彰事業(学術分野)で、企業情報学部の学生が08年度、09年度と二年連続で「優秀賞」、「奨励賞」を受賞。「地方の大学では快挙。受賞は在学生たちの大きな励みになっています」(嶋田)
就職支援の二つの取組みは、文科省の学生支援プログラムに選ばれた。①厚労省の「YESプログラム講座」を開講。手紙の書き方、数学的な考え方、円滑な会話方法、社会でのマナーを学ぶ②キャリア専門職員を増やし、学生の就職相談などに幅広く対応している。
長野大は、県内に信州大学、松本歯科大と三大学だった時代は全国から志願者が集まったが、県内の大学数が増えるに連れて減少。現在、県内八大学と単位互換を行うなど、受験生が県内に残る取組みを一緒に行う。
「長野大学がめざす大学像」について、嶋田が説明する。ひとつが「主人公である学生の『成長』を多角的に支援する」。「講義やゼミに関する疑問や質問のために全教員の研究室を開放しました。08年度からは、ゼミや実習担当教員によるアドバイザー制や学修全般の相談に応じる学習支援室の設置など、小規模地方大学として、スローガンでもある『学生が主人公』を充実させてきました」
もうひとつが「フィールド学習による体験知と文献知の融合」。平成20年度の文科省「質の高い大学教育推進プログラム」に「森の生態系サービスの活用を学ぶ環境教育~地域社会と共に学ぶ森の恵みクリエイター養成カリキュラムの展開~」の取組みが選定されたことで結実した。
この取組みは、大学敷地内の恵みの森(約6.5ヘクタール)を利用した体験型野外学習や地域社会と学びあう交流を重視しながら展開。学生は森林を再生・管理して地域社会の持続的発展と国土の保全に活用できる知識と技術を身に付ける。森林に対する愛着と情熱を有すると認められた学生には、独自の「森の恵みクリエイター資格」を与える。
改革はさらに続く。08年度、建学の理念を踏まえ、10年後までを見据えた「長野大学憲章」を制定。嶋田が大学憲章の実践を「学生は、本学で学ぶ四年間という時間のなかで、その後の人生の土台となる基礎をつかんでほしい。学びを通して、どんどん変わっていってほしい。そして、その自己成長を楽しんでほしい。教職員は、その成長を全力でサポートしていきます」と語る。
小さな大学の広報はどうか。パンフレットやキャンパスニュースなどは学生の協力で発行、オープンキャンパスも学生主体。女子バスケットボールや同バレーボール部の活躍は、地元マスコミに取り上げられ、知名度アップに貢献している。
広報面で、これから訴えていきたいことを、嶋田が語る。「これからは地方の豊かさに学ぶ時代。地域に根を張って、国際的な視野をもった学生を一人ひとり丁寧に育てていきたい。そして、小さくてもキラッと光る大学にしたい、これらを学内外に広く伝えていきたい」。こうした嶋田の思いは、「森の恵みクリエイター」の養成カリキュラムのように、少しずつ着実に現実のものになっている。