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高めよ 深めよ 大学広報力

〈39〉高めよ 深めよ 大学広報力  こうやって変革した(36)
  「教員に強い大学」訴求
  学部再編など次々に改革
  岐阜聖徳学園大学

 少子化、大学全入問題などを抱え、大学のこれからは厳しいものがある。なかでも、地方の小さな大学は、より寒風にさらされている。中教審の大学分科会でも、地域や社会の期待に沿った機能別分化の促進や定員の適正化における小規模大学への配慮、などを検討している。総学生数2600人という小さな大学のひとつ、岐阜聖徳学園大学(口羽益生学長、岐阜市柳津町)は「教員に強い大学」としての存在感を高めながら、学部再編などの大学改革や地域連携を果断なく実行している。地方の小さな大学の生き残りのひとつのありようにも映った。岐阜聖徳学園大学の広報担当者はほかの仕事と兼務するなど大車輪の活躍。そうした小さな大学の多忙な広報担当者に、これまでと、これからの大学、そして広報について尋ねた。(文中敬称略)

地方の小さな大学の矜持

 岐阜聖徳学園大学は1972年、聖徳学園岐阜教育大学として開学。教育学部(初等教育課程、中等教育課程)のみの教育系単科大学だった。90年、外国語学部を開設、98年、岐阜聖徳学園大学に改名、経済情報学部を開設、聖徳学園女子短期大学を短期大学部に。岐阜、羽島の二つのキャンパスがある。
 入試部長の教育学部教授、柏木良明が大学を説明する。「三学部、学生数2600人の小さな大学です。よき次世代を育てる教員志望者の実践力を培う教育学部、国際コミュニケーション力・国際感覚に富む人材育成の外国語学部、経済・情報化社会の可能性開拓に挑戦できる人材を育てる経済情報学部があります」
 最新の教員採用実績(09年4月10日現在)をみると、教育学部では卒業生301人のうち234人(78%)が教員になるなど「教員に強い大学」は健在で、全国区である。同大のホームページには、こんな記述があった。
 〈文部科学省から、教員養成課程を持つ国立大学の平成20年3月卒業者の就職状況(教員就職率)が公表された。全国平均は56.7%で、一位は兵庫教育大学で83.5%、二位は愛知教育大学で72.2%、三位は和歌山大学で72.0%。本学の数字を当てはめてみると、77.0%になり、二位に相当する〉
 入試課長の竹本浩之は「昨年の暮れには岐阜市内のホテルで恒例の就職合宿を行いましたが、その際に、テレビ朝日の『スーパーJチャンネル』の取材を受けました。学生の就職を第一に考え、就職指導に取り組んでいる本学の様子が評価されたものと思っています」
 5年前(03年)は公立小中学校教員の合格者数は65人だった。それが、昨年は182人と約三倍になった。どのような指導を行い、このような成果に結びついたのか、竹本が説明する。
 「採用試験対策の指導として、採用する自治体毎の試験内容に準じた対策を行っています。教員採用試験に合格するために必要な基礎学力を学ぶとともに、面接試験の模擬練習はもちろん、普段から服装や入退室の仕方なども厳しく指導しています」
 ここ数年は、『クリスタルプラン』という指導を行っている。「いかに専門知識を学んだとしても、実際の子どもたち一人ひとりと向き合わなければ真の力は養えません。教育実習の前段階として、田植えをしたり、運動会に参加したり、子どもたちと一緒にいる時間を増やしています」(竹本)
 ここ数年、団塊世代の退職を先取りして教員採用が増え、ここにきて岐阜県など地方では教員採用が厳しくなっているという。東京、神奈川や大阪といった大都市圏では教員が足りず、地方の教員養成の大学にリクルート活動しているのとは対照的だ。
 同大は、02年、教育学部に学校心理学科、外国語学部に外国語学科を増設、同学部の英米語学科、中国語学科、日本語学科の学生募集停止というように学科増設・募集停止といった改革を推し進めてきた。
 教育学部では、今年度4月から、これまでの初等教育課程と中等教育課程を「学校教育課程」に一本化した。これにより、国語・社会・数学・音楽の四つの専攻だったのが、理科、体育、英語、保育が加わり八専修となった。
 「これによって、取得できる免許状の教科が増えますが、実はこの改編により、免許取得のための単位取得に係る学生の負担は軽減されました。教員採用減に対しては、岐阜や愛知といった中部圏だけでなく大阪や神奈川なども視野に入れたほうがいいと助言しています」(柏木)
 改革は教育学部だけではない。4月から外国語学部は「英米語コース」「中国語コース」を、経済情報学部は、興味や進路に合わせて選べる四つのモデルコースを設置した。「外国語、経済情報学部も教育学部に引っ張られるような形で頑張っています。就職率は同規模の大学に引けを取りません」(竹本)
 地域連携も盛んだ。ここにも教育養成学部を持つ大学らしい特色がある。県内の岐阜市・羽島市・大垣市など七市九町の教育委員会と連携協定(小学校・中学校合わせて約230校)を締結。一年生から四年生が教育現場で実習が可能だ。
 また、不登校に悩む家庭に学生を派遣している。竹本が説明する。「羽島郡二町の教育委員会と提携し、学生をフレンドリーカウンセラーとして問題を抱えた児童・生徒の家庭へ派遣しています。触れ合いを通して、子どもたちを精神的に支えています。現在、毎年20人前後の子どもが利用しています」
 経済情報学部の学生は、08年に岐阜駅前の繊維問屋街とタイアップ、インターネット販売総合サイト「アパレル問屋ドットコム」を開設。学生ベンチャーによる繊維問屋街の本格的なネットモールは全国初で注目された。
 「学生がアパレル問屋の経営者らと一緒に仕事をすることで、実践的なビジネスマナーやスキルを身につける狙いもあります。09年からは、学生たちは岐阜の特産品から日用品まで買い物が出来る『ぎふ楽市楽座』というショッピング総合ポータルサイトを立ち上げました」(竹本)
 最後に大学広報について聞いた。まず、大学の認知度。柏木は「岐阜県や近隣では知られていますが、全国的にはまだまだです。全国から来てもらわないと先細りになります。全国展開できる大学が理想です。広報の力が必要なことはわかっています。小さな大学ですから、予算的な限界はありますが…」
 今後については、こう語った。「これまで、新聞や雑誌などへの広告宣伝のほうも入試をからめて入試部が行ってきました。高校訪問や模擬授業など少ない教職員では大変です。附属を含めた法人全体を束ねる広報セクションを検討中です」
 地方の小さな大学のこれから、も尋ねた。「学生は北海道から沖縄まで全国から来ています。教員になりたい人はもちろん、国際コミュニケーション力・国際感覚を磨きたい人、経済・情報化社会の可能性開拓に挑戦したい人は、一人でも二人でも来て欲しい。うちに来れば、必ず、お返しができます」(柏木)
 お返し、とは?「個別指導によって、学生の希望する仕事につかせる、ということです。これは小さな大学でないとできません」。柏木はきっぱりといった。実績を誇る小さな大学の矜持のようにみえた。