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高めよ 深めよ 大学広報力
〈34〉高めよ 深めよ 大学広報力
こうやって変革した 31
日本福祉大学
「ふくし」の総合大学へ
全国の七都市 地域事務所も大きな力
大学経営をめぐる課題が高度化、複雑化するなか、大学職員の職能開発(SD/スタッフ・ディベロップメント)がますます重要になっている。「2010年版大学ランキング」(朝日新聞出版)の大学の職員力(経営戦略や進路・キャリア教育面)で、大規模伝統私立大学と並んで上位に入った規模の小さな私立大学がいくつかあった。そのひとつが「ふくし」の総合大学、日本福祉大学(加藤幸雄学長、愛知県知多郡美浜町)で、職員の経営戦略面で通信教育の導入により厳しかった大学経営から脱した点などが高く評価された。地域事務所を拠点とした地域貢献も積極的で、自治体などとの折衝は教員より職員が先頭に立って行っているという。「教職員一人が動くには限界がある。広報は大学全体を把握し、束ねるのが役目、大学全体が広報」という広報担当者。職員力は広報力、と言いたげな元気あふれる大学を訪ねた。(文中敬称略)
大学を支える「職員力」
日本福祉大学は、1953年、名古屋に設立された中部社会事業短期大学が前身。57年、同短大を四年制の日本福祉大学社会福祉学部に改組。76年に経済学部を設置。83年、名古屋市昭和区から美浜町に全面移転して美浜キャンパスを開設。
95年、情報社会科学部、01年 通信教育部を新設。03年、経済学部経営開発学科を改組し、福祉経営学部を新設。08年、情報社会科学部などを募集停止して健康科学部に、保健福祉学科の一部と心理臨床学科が子ども発達学部に、国際福祉開発マネジメント学科が国際福祉開発学部に、それぞれ再編成した。
大学のキャッチフレーズは「『ふくし』の総合大学」。美浜キャンパスのほか、半田キャンパス(愛知県半田市)、名古屋キャンパス(名古屋市中区)がある。全国の自治体や社会福祉施設などと連携による教育・研究が盛んだ。専務理事の黒川道男が説明する。
「全国の6市町村と友好協力宣言を結び、福祉の町づくりのための調査など教員・学生がお手伝いしています。また、全国の主だった社会福祉法人と提携して経営問題の検討や実習生の派遣受け入れなどを通して交流を深めています」
これらを支えているのが、地域ブロックセンター(地域事務所)。現在、最上町(山形県)▽富山市▽松本市(長野県)▽豊橋市(愛知県)▽福岡市の六都市に設置、別に東京事務所がある。同大卒業生ら二人から三人が常駐する。この地域事務所の役割を黒川が説明する。
「これまで地域と取り組んできた福祉介護の研究・教育そして実践は、ここが拠点になります。全国に6万人いる卒業生、そして学生の保護者、通信教育で学ぶ学生たちの支援・連携はもちろん、福祉や介護の情報を地域のリーダーたちに届けるのは本学の責任だと思っています」
この地域事務所は、学生募集にも大きな力となっている。同大の広報は、学園広報が3人、入試広報が7人。執行役員(広報担当)の千賀威昌が語る。「地域事務所は、高校訪問など入試広報のお手伝いもしています。福岡に事務所を開設した直後、九州・沖縄からの受験生が増えました」
受験者動向について、千賀が続ける。「かつては全国各地から学生を集めていましたが、90年代後半から愛知県を含めた全国に福祉系大学・学部が急増。この影響もあって、現在では東海3県出身の学生比率が高くなっています」
もっとも、在学生は47都道府県全てそろっている。県外からの学生は主にキャンパス付近の指定下宿や寮に住んでいる。この指定下宿がおもしろい。
「下宿はいくつかの地区に固まっています。南知多町の内海地区では家主組合が『私らしく。僕らしく』というタイトルの冊子をつくって入居者募集をしています。地域の地図、学生がよく利用する店の案内はもちろん、どの下宿も家主ファミリーの写真を載せています」(千賀)
冊子をみせてもらったが、「1K家賃2万9000円、共益費2000円」というのから「家賃3万円、共益費2000円、家賃より通学定期代4000円支給・月」などなど。ユニークさはもとより家賃は首都圏に比べ超格安だ。
同大は、社会福祉士国家試験合格者数では全国トップだ。6万人に及ぶ卒業生は、全国各地の社会福祉協議会や社会福祉施設などの社会福祉分野をはじめ、行政や企業等、幅広い分野で活躍している。
平成19年度の社会福祉士合格率は通学制で1137人中469人合格(合格率41.2%)、通信制では受験者655人中273(41.7%)で、全国の大学における最多の合格者を出した。01年設置の通信教育部は全国各地に約7000人の学生が在籍している。
ここ数年、卒業生の就職先では、社会福祉以外の分野への進出が目立っている。自治体や金融、メーカーなどに就職する学生が少なくない。千賀が語る。
「高齢者関連の仕事が多様化して増えているのが背景にあると思います。住宅産業はバリアフリー設計、銀行などは高齢者向けの資産運用などを手掛けています。高齢者らの海外旅行向けの添乗員の需要も増えているそうです。そうした分野に本学の卒業生が参入しているのは確かです」
冒頭の「職員力」について、黒川に聞いた。「うちの大学では、かつて『事務局統治』という言葉を使っていました。”大学職員は、大学の中で、どういう役割を果たすべきか”について研修や実際の取組みのなかで試行錯誤を繰り返してきました。そして、いまがあるのだと思います」
現在、大学事務局には職員会議(会議議長は公選)があり、全学協議会にも参画。大学評議会と大学運営会議の構成員(総合企画室長と大学事務局長)にもなっている。学内理事は7人いるが、うち5人は職員出身だそうだ。こうした人事面からも強い職員力が浮かび上がってくる。
また、同大は障害学生を多数受け入れており、08年度の障害学生数は114人。98年に障害学生支援センターを設置。講義の内容をノートに書き取るテークノート、講義レジメの点訳、手話通訳などの学習支援のほか、点字サインや障害者用トイレ、スロープなども完備させた。
現在、同大は4年後の2013年の創立60周年に向けて、新たな計画を策定中だ。黒川が説明する。
「教育・研究・研修を三位一体として、総合的な『ふくし』の大学・学園としての地歩を固めたいと思っています。生涯学習型のネットワークキャンパスの構築をめざす21世紀学園ビジョンの具体的計画を策定しているところです」
これには、広報も関わってくる。千賀が続けた。「少子高齢化時代を迎え、福祉・介護は避けて通れません。介護問題では担当者の処遇、人材養成などの課題を抱えています。広報も創立60周年に向けて、総合的な『ふくし』の大学・学園めざし、全学一丸となって取り組んでいきたい」
黒川の、そして、千賀の発言は「『ふくし』の大学・学園」のフレーズにひときわ力がこもった。