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高めよ 深めよ 大学広報力

〈31〉高めよ 深めよ 大学広報力
  こうやって変革した 28

理念に結びつく広報
ロボットなど先端研究盛ん 玉川大学

 キャンパスのあまりの広さに気圧された。玉川大学(小原芳明学長、東京都町田市)の「大学案内」では、小田急線の玉川学園前駅から徒歩5分とあったので、そのつもりで訪れた。たしかに、正門までは5分程度だったが、目的の事務棟までは坂道を喘ぎながら10分以上かかった。「玉川の丘」と呼ぶキャンパスは約59万平方メートル、東京ドーム40個分以上あるそうだ。大学だけでなく、付属の幼稚園から小・中・高校まで、ここにある。ここで、約10,000人(大学は約7,500人)が学ぶ。玉川学園は、創立者、小原國芳の「全人教育」で知られる。近年は、教育とともに量子、ロボット、宇宙、ミツバチといった学際的な研究がマスコミ等に多く取り上げられる。こうした話題を発信するさい、小原國芳の求めた教育理念に結びつくような広報にすべく腐心しているという。どちらかというと、“玄人受け”するイメージの玉川大学の広報を尋ねた。
 (文中敬称略)

教育理念は「全人教育」
 玉川大学は、1929年に小原國芳が「全人教育」を掲げて開校した玉川学園が母体。47年に旧制玉川大学が開学、49年に新制大学となり文学部と農学部、62年に工学部を設置した。
 2002年に経営学部を設け、03年に文学部から教育学部と芸術学部が独立し六学部になり、07年にリベラルアーツ学部を開設。現在、法学、医療系の学部はないが、七学部からなる総合大学になった。
 同大には「教育の玉川」という伝統がある。教職に就く学生が多い。1950年にできた通信教育部が当時、全国の小学校に多くいた代用教員ら正規の教員免許を持たない教員に「小学校教員免許」が取得できる課程を設けた。
 いまでは、在学中に小学校と中高の教員免許が同時に取得できる。教育企画部課長の山崎克也が説明する。「ダブル免許プログラムといっています。4年間の通学課程で中高の教員免許を取得、三年次から通信教育課程で小学校の免許を取ります。ただし、一定の成績をクリアし、学部の選抜を経るのが条件です」
 教員免許ダブル取得
 02年に文部科学省が推進する「21世紀COEプログラム」に「全人的人間科学プログラム」、05年には文部科学省の「教員養成GP」(大学・大学院における教員養成推進プログラム)に教育プロジェクトが、それぞれ採択された。
 山崎が語る。「三学部から七学部体制への改組や新学科の設置など時代の変化をとらえた大学改革を進めています。文科省のGPなどに多く採択されるのは、研究、教育両面の活動に対する評価だと思います」
 先端研究も盛んだ。教師研究センター、生物機能開発研究センター、ミツバチ科学研究センター など学術研究所が九つ。別に、脳科学研究所があり、傘下に脳科学研究、知能ロボット研究、言語情報研究の各センターがある。
 こうしたセンターでの研究成果はマスコミにしばしば取り上げられる。山崎が説明する。「08年度のロボカップ世界大会でロボカップ@ホームリーグで世界一になりました。また、脳科学研究所を中心に行っている知能ロボットの研究では、岡田浩之・工学部教授の赤ちゃん研究を応用したユニークな試みが注目されています」
 ミツバチの研究も
 いま、ミツバチが足りない、と全国の園芸農家が心配しているそうだ。ミツバチには、果物や野菜のハウス栽培で花粉を交配する働きがある。ミツバチ科学研究センターの中村 純教授は引っ張りだこである。
 5月3日付の日経新聞は、中村教授が提供したミツバチの写真を掲載、同教授の「(ミツバチが減ったのは)女王バチの輸入がストップしたことが直接の原因。ミツバチが蜜や花粉を集める植物が減っていることも影響している可能性がある」というコメントが載った。
 地域貢献はアメーバ型だ。広大な学園の所在地は町田市のほか、横浜市、川崎市にまたがっている。このため、地域連携は数都市と一緒に取り組んでいる。
 「2000年には隣接する稲城市と、06年には町田市、横浜市と教育に関する協定を結びました。教育実習生や教育ボランティア、年間を通じたインターンシップの派遣など、双方がよりよい教育活動を展開するための取組みをしています」(同)
 大学スポーツでは、女子駅伝チームが頑張っている。「昨年10月に仙台市で行われた全日本大学女子駅伝では、昨年の順位を上回る5位になり、二年連続シード権も獲得しました。大会には同窓会から多数応援に駆けつけました。選手の活躍が報道されるのは学園全体の励みになります」と山崎の顔がほころんだ。
 そのほか、女子のダンスドリルチームが、全米チアダンス選手権や全日本チアダンス選手権などに出場して上位に食い込んでいるという。スポーツでは、女性の活躍が目立っている。
 同大は出版部を抱えている。教育関係の出版では定評がある。日本初の児童向け百科事典や一般書、学術専門書まで幅広い分野を手掛けている。玄人受けする出版、といえる。これも大学の広報活動の一翼を担う。
 日々の広報活動で力を入れていることについて、山崎が話した。「最近の学生もそうだし、受験生も活字というか文章を読むのが苦手になっているようです。入試広報ではウェブに力を入れています。映像を入れてみたり、ウェブパンフをめざし、広く浸透させることに力を注いでいます」
 入試広報部長の黒木康之が同席したので、入試広報の現状を聞いた。「受験者数は、今年は盛り返しましたが、ここ数年は減少傾向にありました。社会が求める能力の向上をめざす『コア科目』の充実や入学時から有意義な大学生活を送れるようバックアップする一年次教育『FYE』といった教育活動の見直しが浸透した、とみています」
 黒木は「うちは、併願する大学が見えないのです」と、こう続けた。「どの大学を受験するにも、併願する大学があります。うちは、それが学部単位なのです。教育学部は立教、経営は青山、成城、農学部は東京農大、明大というように。大学案内も学部単位で作っているのです」
 優位性示せる広報へ
 あるべき入試広報について黒木は、こう語った。「役目のひとつに、入学志願者を増やすことがあります。短期的には、入試制度を変えるとか、新しい学部、学科をつくるとか。これは、受験生を増やした大学が参考になります。
 中長期的に考えると、教育力や研究力を高め、それを伝えていくことが肝要です。同規模な大学の中で、優位性をどう出していくか、だと思います。さっき言ったように、学部の優位性をうまく出せれば…」
 最後に、「創立者・小原國芳の求めた教育理念に結びつくような広報」について山崎に尋ねた。
 「全人教育が教育理念の中心にあります。教育や学術研究、イベント・行事やカリキュラムなど伝える材料は多い。これらを広報するさい、教育理念に行き着くような発表ができたらと考えています。発表するとき、国際教育、通信教育といった玉川のよさ、強さとコラボするのも、そのひとつですね」
 私立大学のレーゾンデートルである建学の精神を守りながら、新しいものに挑戦する気持ちが伝わってきた。玉川大学広報のチャレンジは果てしない。