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高めよ 深めよ 大学広報力

〈番外編〉高めよ 深めよ 大学広報力

偏差値ではない選択も
 サポート体制強化を 大学は特色を鮮明に

 「小さな大学の大きな挑戦」というタイトルで本連載の第一三回で紹介した共愛学園前橋国際大学(平田郁美学長、群馬県前橋市)の入試広報・就職センター長、岩田雅明。彼がこのほど、「未来が輝く 大学の正しい選び方」(エール出版社)を出版した。「長年、高校生に接してきて、彼らに偏差値ではない大学選びがあるのではないか、ということを伝えたかった」というのが動機。裏返せば、少子化や大学全入問題で呻吟する大学に対するシグナルだ。岩田は「大学は社会のニーズを見据え、学生のサポート体制の強化を図るなど特色を鮮明にすべき。それは、受験生からみれば大学を多様化させること。もっと高校生の大学選択を適切なものにする必要がある」と力説する。岩田に、出版のねらいなどを聞いた。本の概要を別項で掲載した。「大学広報力」の番外編として伝えたい。
(文中敬称略)

前橋国際大の岩田さん「大学選び」を出版

 前回(08年12月17日付号)、前橋国際大学を、このように取り上げた。〈1999年の開学から3年間ずるずると志願者、入学者が減少。何とかしなければ、と生き残り戦略を練った。英検二級などの資格があれば授業料全額免除といった画期的な戦略を策定、それらに沿って改革を遂行。翌年から志願者・入学者とも増え、就職状況も好転した。この立役者が岩田だった〉
 前回の取材で印象に残ったのは、次の岩田の言葉だった。
 「様々な事情から地方の大学に入学したい、あるいは入学せざるを得ないという高校生は必ず存在している。地方の小さな大学も生き残っていかなければならない。それぞれの地方にあって、それぞれの大学の存続の必要性は必ずある」
 この視座は、今回出版した本にも通奏低音のように流れている。岩田は、まず、出版の動機を、前回の取材のときと同じように丁寧に語った。
 「長年、高校の先生や高校生、保護者らと接してきました。私が話すのは、自分の大学の説明が主ですが、最近は『大学進学全般、どのように大学を選んだらいいのか』という声が多くなっています。そのように悩んでいる高校生に伝えたいことを本にしました」
 大学進学に悩む高校生の具体的な悩みとは、また、高校生は具体的にどうすればいいのですか?
 「高校の先生は、どうしても偏差値の高い大学を薦めます。地元の大学に残りたいという生徒に対しても『もっと偏差値のいい大学にしたほうがいい』『東京の大学を受験だけはしてみたら』などと諭すようです。
 偏差値は重要な指標ですが、もっと多様な考え方があってもいいのではないでしょうか。偏差値の高い大学を出たからといって社会に出て活躍できる保証はないし、偏差値が高くなくても、充実した教育環境のなかで勉強ができ、社会で高く評価される大学もあります。こういう大学を視野に入れて大学選びをしたほうがいいと言いたい」
 それは、どういう大学になりますか?
 「学生の力を伸ばす大学、個々の学生の力をうまくみつけ、工夫して伸ばしてくれる大学ということになります。そうした大学については、本(第八章)に書いたので、読んでください。
 大学はまだ、力を出し切っていないと思います。とくに、伝統ある中堅大学に多くみられます。うちの大学は教員が事務も兼務していることを話すと、『そんなに、(仕事を)やるんですか』と答えたのを聞いて驚いたことがあります。
 教員も他の大学と兼務の先生が結構いますが、一般の会社ではありえないことで、自らの大学に全力を注ぐべきです。また、国などからの補助金を獲得するのに熱心な先生が評価されるのでなく、学生の教育に熱心な先生に光をあてるべきではないでしょうか」
 第四章の「五つの視点で大学を選ぼう」では、多くの視点が出てきます。翻って、大学が、これら全てをクリアするのは大変だと思いますが…。
 「確かに、全部を実現するには、経営資源の問題もあり難しいと思います。それに、それぞれの大学の伝統、役割、機能などによって制約があります。企業で言えば、選択と集中というか、自分の大学の強みを発揮するということではないでしょうか。
 一方で、経営が厳しい地方の大学は、一つの大学だけが強みを発揮したら、他の大学の生き残りは、より厳しい状況になります。それこそ弱いところから干上がってしまいます」
 そうした地方の大学の生き残りについては、前回の取材では「適度な競争環境での調和の取れた存続」を主張していましたが?
 「その考えは今も変わっていません。前回も言いましたが、私は、かつてライバルの大学を蹴落としても、自分の大学の生き残りを模索しました。しかし、厳しい環境の地方の大学は、潰しあうのではなく、共存をめざした競争を行っていくべきではないでしょうか」
 本では、独自のランキングづくりなど苦心の跡もみえますが?
 「受験雑誌などに分散していたデータを集めてまとめたランキングは時間がかかったものもあります。でも、(私が)大学職員ということで受験産業、受験雑誌の方々が協力的で、データなど基本的にオープンに使えたのは助かりました」
 書き足りなかったことはありますか?
 「データはそれなりに掲載できたのですが、現場の先生や生徒らに、詳しく取材ができませんでした。もう少し、現場の声や事例が紹介できたらよかった、と思っています」
 最後に、今年の前橋国際大学の受験者数などは、いかがでしたか?
 「おかげ様で、昨年より合格ラインを上げたにもかかわらず、受験生、入学者とも一割近く上回りました。経済環境もあるかと思いますが、地元に残って勉強したいという学生が増えたようです。本学の場合は、女子に目立ちました」

5つの視点で大学選ぼう(本の概要)

 「はじめに」で、〈偏差値はそれほどでない大学でも、優れたサポート体制があり、注目すべき実績を挙げているケースもある。その大学に入ったことによって、それまで発揮できない能力が開花したということも少なくないはずだ。
 それを偏差値の高い大学に入ったものは「勝ち組」、そうでないものは「負け組」というレッテルを貼る風潮は、伸びる芽を摘んでしまう余計なお節介である〉。温厚な岩田にしては珍しく、怒りのこもった小気味よい書き出し。
 八章からなる。一章の「大学選びを始める前に」は、①大学に入る目的をしっかり持つこと②目標を持つことのメリット③人生の目的を持つには―という心構えで、「どの大学なら合格できそうか、は高校で教えてくれるが、どう生きたら幸せか、は教えてくれない。皆さん自身で、じっくり考えて欲しい」と説く。
 二章の「偏差値(難易度ランク)決定の仕組み」では、代表的な三予備校のランク付けの特色を概観しながら、受験者数、合否結果のサンプル数の多寡などで実際の難易度とブレがでるケースがあると指摘する。
 三章の「大学に関するランキングを考える」では、受験誌、経済誌の大学ランクを紹介しながら、「面倒見が良い大学」が焦点。「面倒見の良さ」ではランキングは参考にして、志望する大学が①電話で大学案内など資料を請求した際、どんな対応したか②資料請求後に、どんな資料が送られてくるか③大学のパンフに、どれだけの比率で学生が登場しているか―で推測は可能だという。
 四章の「五つの視点で大学を選ぼう」が本の核心だ。一つ目の視点を「大学組織自体」に向け、リクルートがまとめた大学の機能価値と感性価値を表す様々なイメージ項目のランクを載せ、参考にしたらどうかと助言。独自に作成した「入学定員確保私大リスト」(地域別)は力業。残りの四つの視点は「教育内容・取得資格」、「学費・学生生活」、「就職サポート・就職実績」、「入学試験・入試難易度」。
 五章の「これが大学の選び方だ」では、「オープンキャンパスで大学を選ぶな」と忠告、六章の「社会のニーズに対応する大学とは」では、各種国家試験の合格ランクを掲載、体験型プログラムや資格サポート授業の実例を披露する。
 七章の「進学とお金」では、初年度納付金の安いランクを掲載、さらに奨学金、教育ローン、特待生制度を詳しく説明。八章の「社会のニーズに合った取り組みをしている大学」では、大学名を挙げている。
 七章は、冒頭に〈昨今の景気で、経済的な事情で進学を断念するケースが増えることも考えられる。学費サポート制度は正確に理解できるよう配慮したつもりだ。一人でも多くの高校生が進学の道を見出すことができれば幸いである〉と書いているように、高校生への熱いエール。
 「終わりに」は〈偏差値が60あるのに、敢えて55の大学に入学する。そのような選択が、これからの社会で生き抜く力をつけていくには必要な時代。そのような選択をしていくことが調和と共生が求められる社会を創っていく人材を生み出していくことになる〉と結ぶ。思い切りの良さがいい。岩田の高校生に向ける優しい眼差しが行間に漂っている。