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高めよ 深めよ 大学広報力
〈21〉高めよ 深めよ 大学広報力
東京理科大 「マドンナ作戦」が結実
神奈川大 高校生俳句大賞が定着
こうやって変革した(18)
東京理科大は、一八八一年、東京物理学講習所として創立。二年後には東京物理学校と改称、そして一九四九年(昭和二十四年)の学制改革により東京理科大学となった。現在、八学部三三学科の理工系総合大学である。
「坊っちゃん」と因縁
神楽坂キャンパスに理学部、工学部など四学部と理学専攻科、千葉県野田キャンパスに薬学部、理工学部、基礎工学部、埼玉県久喜キャンパスに経営学部がある。基礎工学部一年生は北海道の長万部キャンパスで学ぶ。
夏目漱石の『坊っちゃん』に登場する「物理学校」は、東京物理学校を指している。二〇〇六年の創立一二五周年の際、イメージキャラクターとして、「坊っちゃん」のイラストを作成、「坊っちゃん選書」シリーズも刊行した。
現在、同大広報が力を入れているのは、坊っちゃんと因縁浅からぬマドンナ。〇八年度から、「科学のマドンナ」プロジェクトをスタートさせた。広報課長の柴崎伸明が説明する。
「理工学が発展する為に、もっと女性に理系に進んで欲しいと本学では期待しています。女子中高生が、将来の進路を考えるときの参考になるように、〇六年度から『ウーマンサイエンティスト体験講座』を実施してきました。
この講座を通じて、多くの女子中高生から『理系って?』という疑問や、『もっと様々なイベントに参加したい』、『もっといろいろな理系の人たちと話をしたい』という声が届きました。こうした女子中高生の意見を取り入れ、名前を変えて始めたのが『科学のマドンナ』です」
昨年度は、神楽坂キャンパスで、iモードを開発した松永真理さんらの講演会、野田では研究室での実験、長万部では宿泊しての天体観測など様々なイベントを実施した。企画や運営も女性の教職員が中心になり、定員オーバーになるイベントも多かった。
ネーミングの効果大
「マドンナというネーミングもよかった」と柴崎が、こう振り返る。「これほど、多くの女子中高生が来てくれるとは思いませんでした。若者の理系離れを食い止めるのに少しは貢献できたかな、と自負しています。イベントが成功したせいか、学内から“なぜ、女性だけなのか”という意見も出ました。来年度は、男子を絡ませたり、長期的なプログラムも考えたい」
「マドンナばかりではありません」と柴崎が示したのは、学生が企画する「サイエンスフェア」。三年前から東京・日本科学未来館で行なっている。「実験を通して科学や技術、ものづくりの楽しさを伝える」催し。昨年度は「未来研究室 科学のトビラ」というテーマで実施、一日二~三〇〇〇人もが詰め掛けたという。
また、昨年暮れ、神楽坂キャンパスの葛飾区への移転が明らかにされた。「長年の課題だった狭隘問題の解消が期待されていますが、(一部に反対もあって)学内のコンセンサスはとれていません」。柴崎は苦渋の表情で語った。
理系大学の広報について、最後に柴崎は、こういう。「うちは学生数二万人と理科系では総合大学より多いのですが、早慶やMARCHなどの大学と(マスコミには)同列に扱われていません。また、教授の研究成果を発表する際、特許の関係があって教授の関係する団体などで発表するケースが多く、これは理系大学に共通する悩みです」
「それでも」、と気を取り直すかのように述べた。「理学の普及、進級の難しい大学、といった理科大らしさをしっかり持って、他の大学との違い、を訴求(広報)していきたい」。理系らしく律儀にまとめた。
高校生らに表現の場
神奈川大は、一九二八年、横浜学院として創立、翌年に旧制の専門学校に移行・昇格した横浜専門学校を母体としている。一九四九年、戦後の学制改革により、新制の神奈川大学に移行した。
現在、〇六年度に新設した人間科学部人間科学科、外国語学部に増設した国際文化交流学科など一〇学部二三学科、さらに大学院として法務研究科(法科大学院)を含む八研究科一五専攻を擁する総合大学。
神奈川大の主催する「全国高校生俳句大賞」は、すっかり全国の高校生の間に定着した。同俳句大賞は、九八年、創立七〇周年を記念して創設された。同大広報部長の水上 晃が説明する。
「日本の伝統的な短詩型文学『俳句』を通して、高校生・受験生に独自の感性で表現する機会を提供し、高校生文化発信への寄与を目指しています。毎年十一月に最優秀賞、団体優秀賞などを決め、一般の方々も参加できるシンポジウム・授賞式も開催します。昨年度は七五〇〇人(一人三句)から二二五〇〇句の応募がありました」
選考委員には、金子兜太(俳誌「海程」主宰)、黛まどか(俳人)、復本一郎・神奈川大学教授らが就いている。入賞作品は『17音の青春』として出版され、一般の人たちにも広く読まれている。
似たような試みに、「全国高校生 理科・科学論文大賞」がある。「若者の理系離れがいわれるなか、高校生の理科教育支援が目的です。理科に対する興味、学習意欲を持ってもらいたい、と七年前に始めました。理科の実験、観察、調査の論文を募集しています」(水上)
今年度は、全国から八〇の論文が集まった。受賞作品を収録して「未来の科学者の対話」を出版している。出版といえば、本紙前号の「新刊紹介」で取り上げた「神奈川大学評論」は二〇年も続く伝統ある評論誌。一般総合誌に伍して洛陽の紙価を高めている。
地域連携にも熱心に取り組む。「研究の成果を地域社会に還元するために、大学のキャンパスとみなとみらい21地区に開設された『神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター』で各種の公開講座を開いて、市民や社会人の生涯学習の場を提供しています」(水上)
箱根駅伝で総合優勝も
スポーツでは、「プラウドブルーの襷」で知られる駅伝の活躍が白眉だ。箱根駅伝には、〇九年現在、連続一八回・通算四一回出場。一九九七年と九八年に総合優勝、二〇〇二年に往路優勝しているが、近年は、いまひとつである。
水上は「うーん、総合優勝は一〇年以上前になるんですね」と、こう続けた。「強い神大駅伝はマスコミにも大きく取り上げられ、学生やOB、地元に元気を与えてくれました。もう一度、プラウドブルーの襷の大活躍をみたい。いま、女子が頑張っています。北京五輪には水泳とサッカーで二選手が出場しました」
さらに「吹奏楽部は一九六三年以降、全日本吹奏楽コンクール大学の部で金賞を二〇回受賞、CDも発売する活躍です」とPR。最後に、同大の広報のあるべき姿を聞いた。
「建学の理念と、いま、神奈川大は何をしているか、を出し続けていくことだと思います。学生が主人公であることを忘れず、他大学との差別化をはかり、ブランド力を高めていきたい。卒業生との距離感を近づけるためホームページの活用も考えています」。休むことのない神大広報は駅伝に似ている。