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高めよ 深めよ 大学広報力

〈10〉高めよ 深めよ 大学広報力
  スポーツ広報は特に行わず 強い指導者の存在 マスコミが独自に取材

 こうやって変革した(7)

 スポーツの強い大学の広報は忙しいだろうが、楽しそうだ。そんなイメージが湧く。東北福祉大学(萩野浩基学長、宮城県仙台市)は野球、ゴルフで名をはせ、流通経済大学(野尻俊明学長、茨城県龍ヶ崎市・千葉県松戸市)はサッカー、ラグビーで全国に名前が通っている。多くのプロ選手を輩出した二つの大学に共通していたのは、「スポーツが大学の知名度を上げたのは事実だが、スポーツの広報は特別に行っていない」ということだった。二つの大学とも受験生の集まりも就職のほうでも評判はいい。では、日常、どんな広報活動を行っているのだろうか、二つの大学広報の現場を訪れた。各大学の広報にとって、何か、参考になる材料が、ころがっているのではないか―と。(文中敬称略)

スポーツの強い大学

 東北福祉大は一八七五年に設立された曹洞宗専門学支校が前身で、駒澤大学、愛知学院大学と姉妹校。大学関連の老人福祉施設「せんだんの杜」や「せんだんの丘」などを運営、福祉の教育・研究だけでなく実践にも力を入れている。
 野球、ゴルフなど体育部の活動が盛んで、プロ野球選手を多数輩出。佐々木主浩(横浜、マリナーズ)、金本知憲(阪神)、斉藤隆(ドジャース)、和田一浩(中日)、矢野輝弘(阪神)らがいる。プロゴルファーでは、星野英正、谷原秀人、宮里優作、佐伯三貴らも卒業生だ。
 東北福祉大の総務部広報課長の榎本 等が語る。
 「こうしたOBの活躍は学生、卒業生のお手本、そして大きな励みになります。彼らが大学の知名度を上げたのは事実で、有り難いことですが、あくまで卒業生のひとりと考えています。スポーツ大学と思われるのは心外です」
 野球部は全日本選手権制覇二回、ゴルフ部は男女合わせて日本一を二五回、女子のソフトボール、バレーボールも全国制覇している。「野球、ゴルフの躍進は、現在、両部の部長を務める大竹 榮・総務局長の力が大きい」と大学関係者の間でいわれている。
 榎本が語る。「大竹先生は、スポーツは人づくり、福祉の世界でやっていくには身も心も健康でなくては通用しない。健康にはスポーツが一番で、どうせやるなら日本一をめざそう、と普段からおっしゃっています」
 この野球部やゴルフ部などの活躍は、地元紙やスポーツ紙が独自にフォローして記事にしてくれる。広報課が動くのは、野球部の選手がプロ野球のドラフト会議にかかったときに記者会見を設営するくらいだそうだ。大学広報の担当者は実質、榎本一人、入試広報は八人いるという。
 「通常の大学広報は、大学主催の大掛かりなシンポジウムなどのさい、プレスリリースを作成して年数回、県庁の記者クラブなどに届ける程度です。あとは、大学のホームページに大学であった出来事などを載せることです」
 同大のホームページの「ニュース」欄には〈平成二十年度「質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)」に本学の取組が採択される(二〇〇八年十月三日)〉などのほか、スポーツ記事も目立つ。
 〈第四五回全国大学ゴルフ対抗戦と第三十一回全国女子大学ゴルフ対抗戦が六月十九、二十の両日、北海道安平町のオークウッドGCで行われ、本学男子が二年ぶり九度目の優勝を飾った。女子は健闘及ばず九位だった〉
 〈通信教育部三年に在籍するプロゴルファー原江里菜さんが八月十七日、女子ツアーのNEC軽井沢72でプロ初優勝を飾った〉
 榎本が最後に、こんな話を笑顔で語った。〇八年、大学附属病院として「東北福祉大学せんだんホスピタル」を設立。このニュースは地元紙「河北新報」の一面トップに掲載された。「これはうれしかった。それまで必死に売り込みを図りました。その成果が出ました」。
 広報担当としての至福の瞬間は、こんなところにあるのかもしれない。
   ◇
 流通経済大は、一九六五年、日本通運(日通)の寄付を元に、流通・物流・交通に関する教育・研究の振興を目的として開学、「実学主義」に基く教育の実践を理念として掲げている。インターンシップも積極的で、寄附講座も開講されている。
 近年は、サッカー・ラグビー・硬式野球などスポーツの活躍が目立っている。特に、サッカーは桁外れに多いJリーガーを輩出。J1所属では、阿部吉朗(FC東京)、塩田仁史(同)、栗澤遼一(同)、中島俊一(名古屋グランパスエイト)、杉本恵太(同)らがいる。
 サッカー部は一九六五年に創部。九八年、監督に中野雄二が就任、強化を開始した。〇二年、関東二部復帰を果たすと、関東大学選手権で二年連続準優勝。総理大臣杯全日本大学サッカートーナメントで〇二年はベスト八、〇三年に三位入賞、〇七年には優勝を飾った。
 いまや、コーチやトレーナーなどスタッフも合わせると二〇〇人を超す大組織になった。トップ、JFL所属の三チームと、一年生以外は六つのチームに振り分けられ、それぞれにコーチがつく。
 流通経済大の企画広報室室長の横澤啓二が語る。
 「サッカーなどスポーツが強い、というのは結果です。でも、サッカー部の活躍は喜んでいます。大学のブランドイメージ及び認知度も大いに高めてくれました」
 現在、サッカー部の総監督を務める中野は「プロを養成するために指導しているわけではない。“人間としていかに成長できるか”がテーマだ」と常々いっている。流通経済大の機動性ある組織的なサッカーに憧れて入部する学生も多い。
 サッカー部に関し、広報として特別なことをしていない。横澤が続ける。
 「優勝したとき等は、プレスリリースをつくって広報しますが、課外活動なので部の自主性にまかせています。サッカー部はHPを設けてニュースを発信しますが、広報にも連絡はきいてます」
 広報室は横澤をふくめて二人。別に入試広報がある。「大学としての力の入れ具合は入試広報七、大学広報三」(横澤)だそうだ。流通経済大では、新聞・雑誌関連媒体に関し一〇紙(誌)ほどリストアップして、そこへ向けてリリースを発信している。
 横澤は大手広告代理店の出身。「流通、IT、運輸、メーカー、金融といった業界には記者クラブがあって“ニュース”を会見、投げ込み等で発信できますが、大学はそれがない。このへんは遅れている。個別に発信するしかない。今後はプレス・カンファレンスを年に 一、二回やりたいと思っている」。
 横澤は「大学のマーケティング」についても熱く語った。これについては、別の回にもう一度、横澤に登場してもらい紹介したい。
 さて、冒頭に書いた「ほかの大学に何か参考になりそうなこと」について、最後にまとめないといけない。二つの大学に共通していたことを整理してみよう。何かヒントがあるかもしれない。
 ①スポーツが強くなったのは強力な指導者がいた(東北福祉大の大竹、流通経済大の中野)、②スポーツ部の活躍は特別な広報をしなくても、マスコミが取り上げてくれる。
 ということは、広報は、それ以外のことに力を傾注できる。東北福祉大の榎本が実践した“仕掛け”は、そんなひとつに思える。いずれにしろ、スポーツが大学の知名度、イメージを上げるのに役立っているのは間違いない。