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高めよ 深めよ 大学広報力

〈4〉高めよ 深めよ 大学広報力
  教育理念を学内外にPR  明治学院大学 著名ディレクター起用

こうやって変革した(1)

 少子高齢化・大学全入時代を迎え、どうすれば大学の存在を広く理解してもらい、よりよい学生を集めることができるか。それにはUI(University Identity)の確立が急務で広報体制の強化にかかっているといってもよい。本号からの第一部のタイトルは「こうやって変革した」。特色のある、充実した広報を抱える国公私立大学の広報活動と、それらによって変革した(しつつある)大学にフォーカスを合わせた。第一回は圧巻のブランディング戦略で賞賛を浴びた明治学院大学を取り上げた。明学ブランド創生の意義と広報の役割などを聞いた。
(文中敬称略)

 巧みなブランド戦略
 明治学院大のブランディング戦略は大学関係者の間で、ある種の伝説にさえなっている。アートディレクター、佐藤可士和を起用してロゴマーク、スクールカラーを決め、大掛かりな広報・宣伝力を使って学内外で訴求。MG(明治学院)のロゴとイエローの“明学ブランド”をあっという間に世の中に浸透させた。
 明学の「ブランド革命」に対しては、都内の大学の広報担当者からは怨嗟の声さえ起きた。「気鋭のアートディレクター、佐藤可士和を使ったのに驚いた。うちの大学ではとても無理」「わずか半年で決めたスピード、かけた予算も半端ではなさそうだ」「学内やOBに反発はなかったのだろうか」―などなど。
 「教育理念を学内外に伝える」という目的で〇四年十月、ブランディングプロジェクトがスタート。翌〇五年一月のロゴ選定委員会で、佐藤可士和がMGのロゴマーク、スクールカラーをプレゼーテーション、それは委員全員の賛成で承認された。同年四月の入学式では早くもロゴ入りの学生証、学生手帳が配られた。
 ロゴと黄色が席巻
 電光石火だった。白金校舎のパレットゾーンの大きな垂れ幕、学内レストランのトレー、運動部のユニフォーム、学生証や学生手帳…キャンパスはMGのロゴマークとイエローのスクールカラーが席巻した。
 それは学外でも展開された。東急全線と都営三田線でも月三回、「MG NEWS」というお知らせの車内広告が出された。黄、黒、白を散りばめた、目を奪われる社内広告は、乗客らに強烈なインパクトを与えた。
 明治学院大のホームページには「ブランディングプロジェクト」というページがあり、こう書いてある。
 〈大学のブランドの場合、サービスを提供する大学と需要する学生の関係のなかだけでブランドが成立するのではない。社会というモーメントも考慮しなければならない。大学の使命は、研究と教育を通じた社会貢献にあるからだ。
 大学のブランディングにとって最も重要な契機はアイデンティティ。創設者、ヘボンの信念である“Do for Others”こそが、明治学院大学の学生、教職員、保証人、卒業生の心をひとつにできるアイデンティティの役割を担うことができる〉
 このロゴとスクールカラーをデザインした佐藤可士和は既成のメディア観や広告のあり方にとらわれない斬新な仕掛けで、日本の広告界をリードしてきた。人気グループ「スマップ」の一連のキャンペーン展開を始め、キリンの発泡酒「極生」などの商品開発なども手掛けた。
 〇七年四月から明治学院大学客員教授に就任。佐藤は大学のブランド力について、雑誌のインタビューでこう語っている。
 「学校にデザインが足りない、以前から教育の現場でデザインが活用されていないと感じていた。受験生にこびる必要はないが、大学がどういう教育理念を持ち、どういう学校運営のビジョンを持っているかを学生や社会にアピールしていくことは大学の当然の義務であり、それが大学のブランディングにつながる」
 佐藤がデザインした「明学グッズ」はネクタイ、Tシャツ、パーカー、ボールペン、マグカップ、絵皿…多種多彩。売り上げも好調で〇七年度は一千万円を超えた。売り上げの一〇%が明学ボランティアファンドに積み立てられる。ここにも“Do for Others”の精神がある。
 ブランド梃子に変革
 「このブランディングを梃子に広報を変えていった」。そう語るのは、広報室長の齊藤一誠。齊藤は七九年、ICU卒業後にソニーに入社。主に宣伝畑を歩み、八九年から四年間はソニーアメリカへ赴任。帰国後、DVD規格策定にも関わった。〇五年にソニーを退職して翌年から明学に転職した。
 明学のブランディングについて、こう語っている。
 「黄色は衝撃も大きかったが三年間で定着した。好まれる色だったら世の中で(これほど早く)認識されない。落ちつきがない、ととる向きもあるが戦略としては成功した。これから黄色の旗の下で、どうパフォーマンスしていくか。大学の歴史に結びつき、風雪に耐えうるものにしたい」
 「黄色は明学のイメージではない」といった声がOBからあった。ロゴやスクールカラーの効果測定を行った。「認知度は受験生、在校生、OBとも九七~九八%と高かった。しかし、好感度は受験生には抵抗感なく受け止められたが、本学関係者は二分された」(齊藤)という。
 民間企業から来た齊藤だけに、大学では戸惑うことが多かった。
 「民間、メーカーでいうと、会社の社会的な価値は製品によって評価される。大学はどうか、というと、この製品にあたるものがない。研究論文や教育は教授の個人的な成果になるので…。大学の社会的価値を高めるのは、大学の理念、建学の精神を発信していくことではないだろうか。これも大学広報の役割のひとつだと思う」
 大学広報の役割を語る。「少子化・全入時代を迎え、大学の個性を際立たせないと学生(受験生)が振り向かなくなった。個性を際立たせることは、企業は常にライバルがあるので意識してきたが大学は、これまでやってこなかった。
 建学精神、大学の理念をはっきりさせ、大学の個性に応じた改革が必ず必要になるだろう。大学の個性を際立たせるのは広告でもできるが長続きしない。ここに大学広報の役割がある。
 大学競争時代、大学広報もしのぎをけずることになる。大事なのは大学の個性を外さない。それぞれの大学が立脚しているところ(地平)をわかりやすく伝えていくことではないか」
 MGとイエローで満艦飾の明治学院大のウェブサイトをのぞくと、こんな記事が目に止った。
 建学精神を発信せよ
 〈地域連携 川上副学長が岐阜県中津川市を表敬訪問 七月四日(金)、本学の川上和久副学長が、明治学院卒業生・島崎藤村の生誕地である岐阜県中津川市を表敬訪問し、中津川市の加藤晴郎副市長、加藤 出市議会議長や職員の方々と懇談し、今後の連携の可能性について話し合いました〉
 そうそう、島崎藤村は一八九一年、明学の第一回卒業生。齊藤に問うた。藤村は今回の明学のブランディングを、どう思っているでしょうか?
 「藤村は新体詩の運動など新しいことに挑戦してきた文学者。喜んだとは言えませんが、新しい試みをされた方ですから…」。最後は口を濁したが、こう続けていいのではないか。「藤村は母校・明学のブランディング戦略を好ましく見守っている」―と。