特集・連載
教育改革
<下>インターンシップとキャリア教育下
秀逸なインターンシップの展開に向けて―革新性がキーポイント
1.大学におけるインターンシップの展開方向
文部科学省の「大学等における平成19年度インターンシップ実施状況調査」によれば、1996年度にインターンシップを実施していた大学は104校、実施率18%であったが、以後一貫して増加を続け、2007七年度には504校、68%に達している。2007年度について、国公私立別実施率をみると、国立89%,公立46%,私立67%となっている。大学におけるインターンシップ体験学生数は、2007年度約5万人である。
ヒアリング調査や先行研究などから、最近、注目に値する傾向が浮かびあがってきている。すなわちグローバル化や経済のサービス化に対応するため、外国語、観光など一部の文系学部や理工系大学院修士・博士課程などが、専門的あるいは高度な人材養成の一環として、国際、PBL、職業人志向等の理論実践型や就業体験型インターンシップにより、エンプロイアビリティ向上をめざして、革新的で秀逸性をめざす動きを加速していることである。
2.インターンシップの直接的効果
インターンシップの効果や課題について、厚生労働省が2005年3月に公表した「インターンシップ推進のための調査研究委員会報告書」を中心に概観しておこう。
同調査対象はインターンシップへの参加目的が、「働くことがどういうものか体験したい」(80%)が最も多いことから、一般就業体験者中心であると思われる。
感想としては、「仕事における責任感を感じた」(92%)、「業種や仕事について知ることができた」(89%)、「社会人としてのイメージが明確になった」ほか、「自分の適性や興味がわかった」など、ほとんどの大学生が、直接的なキャリア開発面での体験として有益であったと指摘している。また、基礎学力や専門学力向上に関しても、「大学の勉強に力を入れようと思った」(67%)と向学心を高める効果があるほか、「社会に出る自信がついた」と自己効力感の向上を自覚する学生が半数以上に達していることがわかる。
3.社会人基礎力育成効果という長期効果がキーポイント
経済産業省からの委託をうけて関東地域インターンシップ推進協会が実施した調査によれば、インターンシップは、学生の実習体験による直接的な意識上の効果だけではなく、社会人基礎力を高め、エンプロイアビリティを向上させるいわば具体的な長期効果をもたらす。インターンシップの事前半年前と事後半年後に、20名の学生について、経済産業省が開発した社会人キャリア力育成アセスメントにより、筆者が効果測定を試みた結果を報告する。比較は、社会人基礎力としての①前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力の3項目と、②日本語力、時事問題の二項目を加えて合計五項目を対象とした。5項目合計点の前年度比をみると、インターンシップ経験有のグループは、経験無のそれに対し3%の得点差をつける効果を示した。インターンシップ実習が、社会人基礎力や日本語力、時事問題の回答率を高めキャリア教育として有効であることが確認された。これは、聖徳大学の島田薫教授がインターンシップ実習者について、事前と事後の自己評価を比較したところ、マナー、パソコン能力、英語、社会常識(時事、日本語、数学、経済、経営など)など全ての分野で上昇が認められたことと符合する。ちなみに、文京学院大学の千葉隆一教授の研究において、国際インターンシップ実習者は、国内インターンシップ実習者に比べ、英語力の上昇、マナーの面で効果が高くなっていると報告されている。このようにインターンシップ実習者は、社会人基礎力ばかりでなく、英語、社会常識の上昇率も、非実習者にくらべ顕著な伸びを示す。それは、立命館大学楠奥繁則先生らによる研究が指摘する通り、実習者が「やればできる」という自己効力感を強めるためでもあろう。これこそがインターンシップのキャリア教育に対する高い貢献度を解くキーである。
4.学生と企業間の意識ギャップは革新的・秀逸なインターンシップで対応
インターンシップはキャリア教育にかなり有効と教育機関が判断した場合でも、企業など受入れ機関の需要や協力がなければ推進できない。従って、インターンシップの拡大には、企業が実習生からのメリットを十分にうけられ、実習生への需要が高まる革新的・秀逸なプログラムを、産学連携で開発することが要請される。実際には、そうした革新的で秀逸なインターンシップは、最近しだいに増加しつつある。
一方、学生のインターンシップについて最も多い要望は「希望職種で実習できるための受入先企業数増加」であり、ついで「プログラムの充実」、「実習中、アルバイトができないので交通費をバックアップしてほしい」等があげられている。
企業側の要請としては、「明確な目的意識をもつこと」が最多で、以下「やる気」、「ビジネスマナー」などをあげている。実習目的を持たない場合、業務に消極的になり企業に迷惑をかける懸念があるからである。
インターンシップにおいて学生が効果をあげる最大の決め手は、プログラム開発に際して、課題達成のために業務遂行時のチーム制や自律性を尊重するシステムを取り込んだ革新的内容を採択したうえで、具体的な目標・達成水準を設定し、PDCAサイクルを組み込み、事前学習時にその意味を十分に周知徹底することである。理論実践型、就業体験型いずれであろうと、革新的内容やシステムを採用し、PDCAサイクルの実践により持続することができ、それが学生の社会人基礎力、専門能力や自己効力感の大幅な向上もたらしエンプロイアビリティを高める場合、秀逸なインターンシップと評価されることになろう。
革新性・秀逸性の高い、たとえば国際型インターンシップについては、交通費貸付け等の支援策の検討を提案したい。国家ベースでの投資効果は、グローバル化に対応できる人材育成効果を考慮すれば、コストをはるかに上回るリターンが見込めるからである。
5.インターンシップを持続的・整合的に機能させるための組織対応
インターンシップを本格的に導入した教育機関が、優位に立った事例は米国やカナダで見られる。その、インターンシップ推進には、インターンシップを全学的なシステムの中に取りこむことが重要であることは論をまたない。