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教育改革

<上>ラーニング・ポートフォリオ活用授業

弘前大学21世紀教育センター高等教育研究開発室教授 土持ゲーリー法一

 学習者中心の大学づくりの実践として、「ラーニング・ポートフォリオ」を用いた授業の設計が注目されている。弘前大学21世紀教育センター高等教育研究開発室の土持ゲーリー法一教授は、「単位制度の実質化」には、能動的学習にもとづくラーニング・ポートフォリオ(学習実践記録)作成が効果的であり、これらは学習成果をどのように応用して、次に繋げるかに重きが置かれているので、成績評価も従来とは異なる評価方法を用いることになる、と述べる。土持教授のユニークな取組について寄稿してもらった。

 2009年7月、京都大学で『大学生研究フォーラム2009』が開催され、「大学生の何が成長しているか、その中身を考える」と題して重要な問題が提起された。これは中央教育審議会『学士課程教育の構築に向けて(答申)』(2008年12月24日)において(教員が)「何を教えるか」よりも、(学生が)「何ができるようになるか」を重視する視点とも共通するもので、現在の大学教育改善の重要な課題となっている。
 学生に「何が育っていて、何が育っていないのか」は、「単位制度の実質化」とも密接に関わる問題である。戦後日本の大学は、アメリカの大学をモデルに単位制度を採用した。すなわち、1時間の講義に対して2時間の教室外学習を合わせた3時間で1単位と規定されている。しかし、現状を見れば、講義のみで単位が与えられている。換言すれば、教室内授業による「知識」は育っているが、教室外学習が不十分なため、深い学びである「理解」にまで到達していない。
 同『答申』では、第2章「学士課程教育における方針の明確化」第2節「教育課程編成・実施の方針について~学生が本気で学び、社会で通用する力を身に付けるよう、きめ細かな指導と厳格な成績評価を~」が必要であるとして、国際的に通用する授業シラバスの留意点として、「準備学習の内容を具体的に指示すること」「成績評価の方法・基準を明示すること」などをあげている。
 これは授業形態の抜本的な見直しを促すもので、「一方的に知識・技能を教え込むのではなく、豊かな人間性や課題探求能力等の育成に配慮した教育課程を編成・実施する」ことを求めている。原因の一つに、授業シラバスと単位制度が連携していないことがあげられる。たとえば、授業シラバスに、2/3の教室外学習にあたる「準備学習等についての具体的な指示」を盛り込んでいる大学は約半数に過ぎず、学生が必要な準備学習等を行ったり、教員がこれを前提とした授業を実施したりする環境にないと同『答申』は批判的に分析している。
 私の授業では、2/3の教室外学習時間を1/3の講義に繋げるための授業を実践し、学生にラーニング・ポートフォリオを書かせている。私の授業実践を図式で示せば、図表「評価方法と分類目標との関係」からも、ポートフォリオが四つのすべてを網羅し、測定範囲も広範であることがわかる。
 授業では、可動式机と椅子を備えた教室でグループ活動を中心とする授業形態を取り、学生によるグループ活動を促すためにウェブ版シラバスとは別に、履修学生のために約19頁の授業シラバスを作成して配布している。私は、シラバスを授業のシミュレーションであると位置づけ、準備学習から各単元の到達目標まで明確にして、教員がいなくても「自学自習」できるように配慮している。
 学生は、授業前に指定された図書を読んで、「指定図書課題・講義フィードバック」(用紙)にまとめ、図書館カウンターで「図書印」を押して授業に臨む。すなわち、「ソクラテス・メソッド」にもとづき、「予習しないで授業を受けてはならない」を原則している。準備学習は、予習・復習のためだけであってはならない。授業内容と密接に繋がっている必要がある。たとえば、指定図書課題(2問)は、授業への導入のための「スクラッチ・クイズ」に活用され、「遊び」から授業がはじまり、自然にグループ討論に入り、指定図書課題を討議して意見をまとめて、他のグループと議論しながら理解を深め、同時にコミュニケーション能力も高めるようになっている。グループ討論での意見などは、翌週の「指定図書課題・講義フィードバック」にまとめさせることで、授業を「省察(振り返る)」させる時間を与え、自分の言葉にパラフレーズして書くように指導している。なぜなら、学生がまとめる「指定図書課題・講義フィードバック」は、ラーニング・ポートフォリオのファイルに綴じられ、15回の学習過程をラーニング・ポートフォリオとしてまとめる一連の作業に連なっているからである。
(つづく)

 (備考:能動的学習などの授業改善は、拙著『ティーチング・ポートフォリオ~授業改善の秘訣』(東信堂、2007年)を参照)