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特集・連載

教育改革

-11-学士課程教育構築の方法論になるか
企業のインストラクショナルデザイン活用(下)

放送大学ICT活用・遠隔教育センター特定特任教授 内田 実

  三、活用例
 インストラクショナル・デザイン(ID)を活用してコンピュータシステムの保守員教育を企画したときの日程を図に示す。
 ニーズが発生したところ(この場合は新規のシステム導入が決定したとき)でニーズ等について詳細を調査分析する。この中では、タスク分析や学習目標分析、コスト分析等も実施される。新規システムであるので、それに対応したインストラクタの養成が必要であり、まずそれを決定する。また、インストラクタ養成と同期して教材開発計画も立てる。この教材開発計画はインストラクタも一緒に計画する。
 大事なことは図の中の▲で示すレビューである。関係者全員を集めて分析した結果や教育企画内容、教育結果等をレビューし、その結果を反映させることである。通常、IDを実施したというだけで、このレビューを適宜実施しなければ、実際の効果は少ない。全員のコンセンサスを得ると共に、内容の不備や誤りがないことを適宜確認しながら実施するということである。
 四、これからの企業でのID活用
 まずは大学との関係で考えてみよう。
 大学卒業生の能力に対する企業の要求はあるのだが、その企業の要求を正しく大学に伝えられていないのが現状である。企業がID手法により、必要なコンピテンシーを明確に伝えることができることが必要だと考える。大学の出力として卒業生の持つコンピテンシーが明確に提示され、それが、企業の新人教育の受講者前提条件と明確に比較することができるようになれば、大学教育と企業活動が連続させることができると考える。欧州などでは、大学の卒業証明としてそのような詳細で明確な卒業証を標準化することを検討しているという話も聞く。今後、日本でもIDを利用した、このような産学連携が必要だと考える。
 現在、経済の悪化から、ワークシェアリングなどが検討されている。また、派遣社員の途中解雇における新規業務斡旋義務なども言われている。各自が持つコンピテンシーが明確に測定定義されていたらどうだろうか。ワークシェアリングを行う時に、同じコンピテンシーの人ならばうまくシェアが行われる可能性が高いと考えられるし、途中解雇派遣社員を新しい仕事に斡旋する場合でも、コンピテンシーが明確になっていれば、斡旋がしやすいのではないかと考える。コンピテンシーを明確にするためにはID手法により、明確にタスク分析、学習目標分析等が実施されていなければならない。
 今後ますます海外企業等との関係が深まっていくと考えられる。仕事が共同で実施されるような場面がより増えていく。そのようなときに、共通的な定義としてのコンピテンシーが、共通的な手法で定義されていることが重要になってくる。その共通的な手法としてIDが重要になってくると考える。
 例えば、飛行機のパイロットライセンスを考えてみよう。国際線のパイロットは相互に色々な国に飛んでいく。パイロットライセンス取得のための訓練に関し、国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization)から「Training Doc 9868」という文書が出ている。その中ではパイロットの養成においては、Competency Based Trainingを実施するとなっている。そのCompetency Based Trainingの開発にはIDを活用するとなっている。つまり、コンピテンシーをどこの国の人が見てもわかるように明確に定義して、それに基づいてパイロットの養成をすることを求められているのである。
 今後、日本だけでなく、すべての国でIDに基づく、パイロットの養成訓練が要求されるようになってくると考える。このようなことは、航空業界だけでなく、すべての産業において発生してくるであろう。日本の企業も今のうちから、このような状況に備えておくことが必要である。