特集・連載
教育改革
-2-KITポートフォリオシステムを活用した目標づくり
自己成長型教育プログラム「アクロノール・プログラム」
金沢工業大学(石川憲一学長)は、学生が「自ら考え行動する技術者」として成長することを支援するため、「KIT自己成長型教育プログラム―アクロノール・プログラム―」を導入している。同プログラムの中核をなすのが「KITポートフォリオシステム」で、個々の学生の学習プロセスと成果を見える形で学生と教員とが相互に検証するために開発されたものである。同取り組みについて、同大学の藤本元啓学生部長に執筆して頂いた。
2. 修学ポートフォリオ
本科目の教育手段としての特異性の一つに、「修学ポートフォリオ」を活用した「一週間の行動履歴」と「各学期の達成度自己評価」とがある。
「一週間の行動履歴」は、毎日、①欠席・遅刻科目とその理由、②課外学習内容(課題・資格取得学習など)と所要時間数、③課外活動(利用した教育施設・クラブ活動・ボランティア・アルバイト・それらの時間帯など)、および④一週間で満足したこと、努力したこと、反省点、日常生活で困ったこと(二〇〇文字程度)の四項目を入力するシステムである。肝心なことは、学生はこれを入力保管するだけではなく、プリントアウトして修学アドバイザーに提出し、修学アドバイザーはコメントを記述して翌週返却する往復作業を一年間徹底的に行うことである。これによって自学自習の姿勢を身に付けるとともに、生活スタイルを確立し自己の目的指向を高めることができることになる。
「各期の達成度自己評価」(十八年度までは「各期の回顧と展望」)は、まず本科目の「学生の行動目標」に関する自己評価を作成する。例えば「修学基礎Ⅰ」では以下の設問を行う。
(1)左記「修学基礎Ⅰ」①~⑥の「学生の行動目標」(本学で開講されるすべての科目に設定されるもので、受講することによって「~ができる」という学生からみた目標)の達成度(〇%、二〇%、四〇%、六〇%、八〇%、一〇〇%)を選択し、その理由を各項目一〇〇文字程度で入力しなさい。
①「一週間の行動履歴」の作成を通して自己管理能力を高め、次学期での対応を文章で報告することができる。( %)
②講話の内容を整理し、それに対する自己の見解を文章で作成することができる。( %)
③グループ討議を通して問題点を見出し、自己の見解を口頭および文章で表現することができる。( %)
④学習・生活スタイルを認識した上で学習計画を立案し、履修計画書を作成することができる。( %)
⑤規則正しい生活をし、授業には欠かさず出席し、提出物の締め切りを守るなど積極的に学ぶ姿勢を確立できる。( %)
⑥本科目における学生の達成すべき行動目標を自己評価できる。( %)
(2)一期の全履修科目の修学状況(成績・課題提出・出席など)について満足していること、感想、反省やその改善方法について、三〇〇文字程度で入力しなさい。
(3)一期の日常生活状況全般(課外活動・アルバイト・病気・怪我など)について満足していること、感想、反省やその改善方法について、三〇〇文字程度で入力しなさい。
この「修学ポートフォリオ」は学生自身が作成する、いわば「第二の学籍簿」である。これに一年間取り組むことによって、学生は修学・生活の自己管理能力を身に付け、結果として「いま何を省き、何に取り組むか」を考えることになる。また自己表現力が苦手な学生にとって、短文であっても繰り返し自己点検としての文章作成を続け、それに教員のコメントや添削が施されることによって、その能力の向上が期待できる。同時に学生と教員との距離が一層近くなり、両者のコミュニケーションが深まり、さらに全員個人面談の実施をも伴うため、修学指導を要する学生の早期発見にも有効である。そして保護者面談における教員側の手元資料としても活用できる。しかし何よりも、学生が自分の夢や目標に近づくための一助、すなわち自己実現につながることを期待している。
なお、進級した学生が一年次の修学アドバイザーとのコミュニケーションを継続して保ち、一部では上級生が新入生を自主的に指導する「勉強会」を設けるという、思わぬ成果を生み出していることを付記しておきたい。
3. 学生の評価
各学期最終回の授業(自己点検授業)で授業アンケートを実施している。アンケートは全科目共通部分と本科目独自部分とからなり、学生自身の達成度や満足度に加えて、担当教員への要望・苦情などを自由記述形式で回答するものである。また短時間で整理集計して早期にFD活動に資するために、学生はイントラネット上で回答し、その結果を学生に公開している。さらに、要望・苦情などに対して修学基礎ワーキンググループが各教員のコメントをまとめた形で回答する「フィードバックコメント・システム」を平成十七年度から導入しているが、十九年度から各担当教員が個別に回答するシステムに改めた。
毎学期、学生一七〇〇~一八〇〇名を対象とした「修学ポートフォリオ」作成に関する評価は次の通りである。「大変有益」「有益」と回答した学生の割合は、平成十六年度二期(六四・九%)、三期(七七・八%)、十七年度一期(九〇・七%)、二期(八六・三%)、三期(八七・四%)、十八年度一期(九〇・一%)、二期(七八・二%)、三期(八八・八%)と高い評価を得ており、多くの学生がその有益性を認め、基本的には本科目の学習目標と「修学ポートフォリオ」作成の意義を理解しているものと判断できる。自己の行動を振り返り、次学期の行動に対する決意や改善する能力の育成は、自己実現に向かう学生への支援の一つになるものと考えている。
次に授業アンケートの設問「自学自習の姿勢は身に付きましたか」に対する回答結果を紹介しておきたい。「充分身に付いた」「やや身に付いた」の合計割合は、十六年一期(七九・九%)、二期(六九・三%)、三期(八〇・〇%)、十七年度一期(八五・二%)、二期(八一・四%)、三期(八六・〇%)、十八年度一期(八四・二%)、二期(七六・九%)、三期(八六・六%)と、各年度とも夏休み明けの二期に低下しているが、全体的には高い達成度を示している。
しかし、学生の指導は授業だけでは不十分で、個々の学生に適切且つ柔軟な対応をとるための個別指導が不可欠である。そのため全学生を対象とする個人面談を年に二回、希望者と教員が指名する学生を対象とし実施している。また、週最低二時間以上のオフィスアワーでの質問や相談、返却する課題に記すコメントなど、様々なコミュニケーション機会を通して可能な限りの指導を行っている。この担当教員とのコミュニケーションが、本科目の学習目標を達成する上で重要な要素となっているのである。
そこで、授業アンケート質問項目「担当教員(修学アドバイザー)とのコミュニケーションはとれましたか」に対して、「とれた」学生と「とれなかった」学生とが、「自学自習の姿勢は身に付きましたか」に、それぞれどのような回答をしているかを集計すると次のような結果が得られた。自学自習の態度が「充分身に付いた」「やや身に付いた」と回答した学生は、担当教員とのコミュニケーションがとれている場合が比較的多い。これとは逆に、自学自習の態度が「あまり身に付いていない」「全く身に付いていない」と回答した学生は、担当教員とのコミュニケーションが不充分であった傾向が比較的高くなっている。すなわち、学生にとって担当教員とのコミュニケーションが良好であることが、自学自習の態度を身に付ける上でプラスの影響となることが分かったのである。
(つづく)