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高等教育の明日 われら大学人

<82>ボードゲームで英語授業
東京電機大学講師 J・ヨークさん

英語でコミュ力を磨く
学生の主体的自習に繋がる

 「ボードゲーム(board game)」をご存じだろうか。ボード(盤)上にコマやカードを置いたり、動かしたり、取り除いたりして遊ぶゲームで、盤上ゲームとも呼ばれる。東京電機大学(安田浩学長、東京都足立区)理工学部講師のジェームズ・ヨークさん(35)は、ボードゲームを活用した英語授業を行っている。同大学では、アクティブ・ラーニングに関するさまざまな取り組みを展開。そのひとつが、このボードゲームを活用したユニークな英語授業。 ねらいは、
①学生が授業に楽しく主体的に関わる(アクティブ・ラーニングの実践)
②実践的なコミュニケーションで英会話能力を修得
③グループワークにより積極性・協調性・21世紀型スキル・デジタルリテラシーを育成。
「教科書を使う授業より、英語でコミュニケーションが取れるようになった」などと学生にも好評。ヨークさんに、自身の歩み、ボードゲームとの出会い、英語授業に導入したきっかけ・成果などを聞いた。

 ヨークさんは、1983年、イギリスのレスター市で生まれた。ロンドンまで車で約2時間の街。サッカー・プレミアリーグのレスター・シティFCの本拠地。「日本代表の岡崎慎司選手が所属、母親が岡崎選手のファンです」
 自身も8歳の時から町のサッカーチームに入った。「イギリスでは、男の子は誰でもサッカーをやります。私は17歳まで続けました。父親が趣味でパソコンのゲームを作っていたので、高校まではサッカーとゲームに夢中でした」
 音楽にも親しんだ。「父親がバンドでギターをやっていたこともあって、小さいころからホルンやドラムに熱中しました。大学では、電子音楽をつくる音楽技術を専攻。卒論では、シンセサイザーの楽曲を作りました。いまも、ゲーム機で音楽を作ったり、東京で音楽イベントを開催しています」
 日本に来たのは?「大学を卒業して就職もできずに悩んでいたとき、相撲を通じて日本を知り、イギリスから逃げるように日本に来ました」。2005年8月、22歳の時だった。
 「そのころ、言語理論に興味が湧き、3年間、好きな音楽をやめて日本語の勉強。日本語能力試験1級を取りました。欧米人では珍しいと言われました。友人から日本に残るなら大学院へ行ったほうがいいと助言されました」
 そこで、通信制の英レスター大学の修士課程で学ぶことにした。「専攻は、人間はどのように言語を学ぶか、という応用言語学で、言語の教え方、教授法、学習法を勉強しました」
 修士課程を修了したとき、東京電機大学で語学の教員を募集しているのを知って応募。2010年、理工学部共通教育群(担当科目:英語Ⅱ・Ⅳ他)に採用された。講義は、埼玉鳩山キャンパス(埼玉県比企郡鳩山町)だった。
 「鳩山キャンパスに来てみて、教えるだけでなく研究をしないといけないと思いました。日本語を勉強していた時期を振り返ると、ゲームが役に立ったことに気づきました。そこで、ゲームと言語学習に関する研究をすることにしました」
 この研究のテーマのひとつが、ゲームを使った学習法で、ボードゲームを活用した英語授業だった。まず、ボードゲームとの出会いについて尋ねた。
 「5年位前、ボードゲームがクラウドファンディングのウェブサイトの開発とともに日本でも人気になってきた頃です。ビデオゲームは、ひとりでやるゲームですが、ボードゲームは2人から10人でやれて、人と人の触れ合いがあるのに強く魅かれました」
 そもそもボードゲームとは?「プレーヤーが実際に盤を囲んで楽しむゲームで、歴史は、紀元前数千年前まで遡るといわれています。近代のボードゲームは協力型・推理型・会話型など多種多様な商品(主に英語版)が販売されています。日本の『人生ゲーム』というボードゲームは、海外でも人気があります」
 なぜ、ボードゲームを英語授業に使おうと考えたのか?「理工系大学は、英語に苦手意識が強いのは否めません。そこで、スピーキングスキルと自習のモチベーションの不足が課題と考え、ボードゲームを活用した英語授業を発案しました」
 ボードゲームは、プレーヤー同士が会話し、協力しながら進める必要があり、コミュニケーションツールとしても最適。「楽しみながらプレーできるため、学生の関心も高かった。ゲームを行うには、ルールを事前に理解しておくこと(予習)が必要で、学生の主体的な学習につながると考えました」
 2015年度の前期授業から導入。1~2年次の必須の英語科目「英語ⅡとⅣ」で、学生も関心を持ちやすいボードゲーム(英語版)を教材にした。「英会話でプレーすることで実践的な英語のスピーキングスキルを体験。ゲームの様子を録音し、疑問文や仮定法など文法や表現法、会話の書き起こしなど、振り返り学習を行います」

1ゲームにつき、5つの授業のサイクルで行い、宿題もある。
①Learn=説明書を読む。役立つ英単語を記録。ルールに関する質問を作って他の学生の理解度を確認する。プレー動画を視聴。
②Play=ルールの質疑応答。ゲームをプレー。会話を録音。〈宿題①=録音を書き起こす〉
③Analyze=書き起こしを分析。教員が文法を指導。
④Replay=日本語禁止ルールを追加する(グループで決める)。ゲームを再度プレー。会話を録音。〈宿題②=録音を書き起こす〉
⑤Reanalyze&Report=宿題①と②の書き起こしを比較。
他のグループにゲームを紹介。授業は、1つのボードゲームにつき、"5回ワンセット"で実施。

授業で使用した主なボードゲームは
①『Pandemic(パンデミック)』(協力型)=医療研究チームの一員となって、感染症の世界的流行(パンデミック)に立ち向かう。
②『One Night Ultimate Werewolf(究極のワンナイト人狼)』(正体隠匿型)=人間チームと人狼チームに分かれて戦う、人気ゲーム「人狼ゲーム」の一夜完結版。
③『CODENAMES(コードネーム)』(ワード・推理ゲーム)=味方と敵に分かれ、進行役のヒント(コードネーム)から味方を見つけ出す。

 学生の反応はどうか?「英語のスピーチやプレゼンテーション等は緊張するが、ゲームだと気軽に話せる点が良い」、「ゲームに勝つためには必然的に会話が必要なため、英語を積極的に話す姿勢がとれた」、「教科書を使う授業より、ボードゲームを使った授業のほうが英語でコミュニケーションが取れた」―などと好評だった。
 教える側の反応。「理工系大学の学生は、総じてコミュニケーションを取るのが上手ではない。コミュニケーションを取りながらゲームをすることで対話が生まれます。『ヨーク先生のお陰でゲームが好きになり、英語でコミュニケーションが取れるようになった』と言われたときはうれしかった」
 「ボードゲームを使った授業を通じて、学生が初めて、英語をコミュニケーションの道具として認識します。それまで英語は入試のための科目のひとつで、教科として学ばねばならない存在でした。課題だった英語のスピーキングスキルとリスニングスキルの育成には役に立ったと思います。何より、学生の主体的な自習につながったのが成果と言えます」
 こう付け加えた。「内気だった女子学生が、ボードゲームのスパイ役になってハイテンションになりました。素の自分でなく役を演じることで上手にコミュニケーションを取れるようになったケースもありました」
 大学の先生の生活はいかがですか?「子どもの頃は、大学の先生になるつもりはありませんでしたが、教えるのは楽しい。知識が要求されますが、面白い授業、パッションを伝えるのも必要だと思います。ゲームを通じてパッションを伝えていきたい」
 これからを聞いた。「先輩の教授と研究しているVR(ヴァーチャル・リアリティー)を使った英語の授業の導入を実現したい。また、ゲームを使った英語学習の論文を発表したい」。終始、流暢な日本語で丁寧に答えてくれた。ヨーク先生の人柄が表れていた。

ジェームズ・ヨーク

1983年、イギリスのレスター市生まれ。東京電機大学理工学部共通教育群(担当科目:英語Ⅱ、Ⅳ他)で講師を務める。言語学におけるゲームの応用をテーマにした研究を続ける。2013年、全国語学教育学会「最高発表賞」、2016年、「英語コミュニケーション能力と 学生中心指導の推進:ボードゲームを用いた教授法の予備実験と学生へ の影響」で東京電機大学学術振興基金教育賞を受賞。全国語学教育学会に所属。2009年に日本人女性と結婚、小学校1年の女の子、幼稚園年中の男の子の4人家族。