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高等教育の明日 われら大学人

<68>ヘルシー・ダイエットを指導 女子栄養大栄養クリニック教授 蒲池 桂子さん

正しい栄養と食事を啓蒙
高齢化社会の過ごし方 健康・食事・運動を意識する

女子栄養大学栄養クリニックは、女子栄養大学の創立者である香川 綾が1968年に設立。生活習慣病予防、肥満治療、メタボリックシンドローム対策に関する研究とともに、講習会や料理教室の開催、栄養士の支援などを行っている。 「ヘルシーダイエットコース」は、一般の人に対する栄養指導講座。生活習慣病の予防と改善について学び、正しい食生活を身につける。全12回、6か月間のコース。受講料は15万円、定員は15人。 ヘルシーダイエットについて報告する前に、この指導に当たる蒲池桂子さんの人となりから入りたい。 「蒲池姓は九州に多いですが?」と尋ねると、「夫の姓で、私は横浜生まれです」。1962年、東横線で横浜駅から3駅の白楽駅近くで生まれた。住宅地と商店街、工業地帯が混在したところだった。 「坂が多く、高低差のあるところを駆け回っていました。友達は、港もあって船員の子や商店街の子ら様々で学校の校庭などに集まっては遊んでいました。勉強のほうはあんまり...」 地元の小・中学校から神奈川県立港北高校に進んだ。「中学、高校とブラスバンドをやっていました。中学はクラリネット、高校ではファゴットで、実力は県大会レベルでしたが、中高と部活三昧でした」 「好きな科目は、中学では社会、高校では地学」というから、現在の栄養学との結びつきは見当たらない。料理や栄養に興味をもったのは、いつごろですか? 「中学時代の友だちのお母さんが栄養士の資格を持っていて、彼女の家に遊びに行くと美味しい料理をいただき、本棚にあった『栄養と料理』(女子栄養大学出版部発行)を読んだのを覚えています。栄養士が魅力的な仕事だと思いました」 さらに続けた。「両親からは、戦時中や戦後の食糧難の時代の話をよく聞かされ、食事や栄養の大事なことを知りました」 大学は、女子栄養大学に進んだ。「当時、哲学に興味があって哲学を学ぼうと思ったのですが、それでは食べていけないと考え、食品系の水産、農学部を志望。しかし、競争率が高いのであきらめ、推薦枠のあった女子栄養大学に決めました」 埼玉・坂戸キャンパスに2時間近くかけて通った。一番印象に残っているのは、「メタボリック・ユニット」という代謝実験棟で行っていた研究で、そのボランティアで参加した。 「実験棟に寝泊まりして、食事をつくって食べて血液や尿を調べ、コレステロールの値を調べるということを繰り返しました。食べるものによってコレステロール値が変わるということを知り、たいへん勉強になりました」 大学卒業後は、波乱万丈だった。管理栄養士の資格を取り、外食産業に勤めたが1年で退職。その後の2年間は、東京都立大で聴講生として哲学を学びながら実家の仕事の手伝いや栄養士の専門学校で栄養学などを教えた。 そのあと、当時流行りの語学留学でアメリカ・コーネル大学へ。「中国やイスラエルなど世界中から学生が来ていた。ここで、自分はちっぽけな存在だとわかり、世界を相手にするのは無理で、日本で何かやらないと駄目だと思いました」 帰国した1990年、東京慈恵医科大学糖尿病内科の教室補助員(研究に必要なアルバイト)の仕事に就いた。「慈恵医大では、肥満の行動修正療法や糖尿病患者の食事などを学び、学会で論文発表もさせてもらいました」 その一方で、女子栄養大学大学院の研究生となり2000年に博士号(栄養学)を取得。03年から栄養クリニック講師となった。当時、「食事と運動による生活習慣の改善が、長期にわたり糖尿病を予防する」とする研究が米国で発表された。 「この研究発表は衝撃的でした。医師による治療も大事ですが、保健師や栄養士らの助言を受けて生活改善したほうが糖尿病を発症しにくいことを改めて研究として実証したのです。やっと栄養士の活躍の場が今まで以上に増えると思いました」 現在、取り組んでいるのは、こうした糖尿病など生活習慣病の研究活動と予防の啓蒙活動。そして、一般の人に対する栄養指導講座で、「ヘルシーダイエットコース」もそのひとつ。「なにを、どれだけ」に加えて「いつ食べるか」を考慮した新しい栄養学である「時間栄養学」に基づいている。 「管理栄養士を中心に、医師、看護師、運動指導員、料理研究家ら専門家が一丸となって健康をサポートします。一般的な尿・血液検査だけでなく、遺伝子検査、安静時代謝測定、骨密度測定など各種検査を実施します」 さらに、担当の管理栄養士が個別に栄養相談を行い、医師やクリニック教授による食事の正しい知識などの講座、料理研究家の減塩・低カロリーな食事レシピと昼食づくり、「正しい立ち姿」などの運動指導と6か月間サポートする。 受講生は、40歳から70歳で女性が大半。その効果は?「6か月間の受講で、体重は平均3キロ減ですが10キロ落ちる方もいます。体脂肪率も平均2.5%減少した。95%の方が血糖値やコレストロール値が改善されます」 このコースは、「肥満の人への栄養指導の効果の実証」という研究目的も兼ねている。「過去の講座履修者を追跡したところ、70歳以上でも良好な健康状態を保っていました。栄養とバランスの良い食事をすれば、ダイエットについて回るリバウンドの心配も激減します」

学生は真面目で優秀

こうした研究や講座を行うなかで、学生と接する機会もある。自身の学生時代と比べて、いまの学生の気質は? 「管理栄養士をめざすという目的意識があるから真面目に授業に取り組むし、優秀です。卒業後のことをよく考えている学生が多い。私の時代は、がむしゃらに先生の研究のお手伝いに熱中したり、あまり先のことは考えていなかった」 最後に、これからを尋ねた。「高齢化社会、いかに高齢者が元気で過ごせるかが大事だと思う。高齢化時代、栄養と食事はどうあるべきか」と話し出した。

「ロコモ」が大きな問題

「介護予防の面からいくと、かつてはメタボ、"痩せよう"という人が多かったが、いまは足腰が弱くなった人が多い。ロコモティブシンドローム(運動器症候群)が大きな問題です。筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、『立つ』『歩く』といった機能が低下している状態で、進行すると日常生活にも支障が生じてきます」 どうすればいいのでしょうか?「20、30代から、ロコモを意識して、食事・栄養を考え、認知症や鬱についても考えておくことです。高齢になっても自分で食事をつくれば元気でいられるし、ボケもせず健康を保てます。健康、食事、運動、この3つを意識し、続ければ、みんな元気で過ごせるはずです」 蒲池さんは、この道に入るきっかけとなった友人の母親の料理、両親から聞いた話などをいまも忘れていない。高齢化社会を迎え、さらに進化させているように思えた。

かまち・けいこ

女子栄養大学栄養クリニック教授。管理栄養士、栄養学博士、日本病態栄養専門士。女子栄養大学栄養学部栄養学科栄養科学専攻卒業。東京慈恵医科大学内科学講座勤務を経て2000年、博士号(栄養学)取得。03年4月、女子栄養大学栄養クリニック主任に赴任。栄養クリニック営業管理、生活習慣病栄養相談、企業向け栄養コンサルティングを行っている。主な著書に「女子栄養大学栄養クリニック ダイエット物語」(メディカルトリビューン)、「糖尿病性腎症の病態に基づいた栄養管理・指導のコツ」(宇都宮一典との共著:診断と治療社)、「美肌美人栄養学」(エクスナレッジ)ほか多数。