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特集・連載

高等教育の明日 われら大学人

<12>数々の改革を次々、断行財政を改革UIも確立
  志願者を5年で2倍に
  大学改革のフロントランナー
  橋場文昭さん(64)

 伝説の大学人といわれる。大学間競争の厳しい時代の中で、次々と改革を行ってきた。5年間で入学志願者3万5000人を7万2000人にした。これだけではない。教養科目の改革、キャンパスの再開発、大学財政の改革、UI(ユニバーシティ・アイデンティティ)の確立などを展開。さらに、10年間で5学部を10学部に拡大し、社会人向け大学院や団塊の世代向けの立教セカンドステージ大学を設立した。この大学改革のフロンティアたる学校法人立教学院総務部主幹の橋場文昭さんの講演を聞く機会があった。講演を聞いて、「われら大学人」にふさわしいと思い、橋場さんの許しを得て、この講演を基に記事をまとめた。どのような視点で大学改革を考えるべきか、財政改革はどうするか、改革は、どのような体制や組織で進めたらよいのか、理事会や教授会を説得する方法は…。大学が抱える様ざまな問題を、20年以上にわたって大学改革を推し進めてきた大学人から学ぶ。

 5月上旬、フジサンケイグループの一員であるエフシージー総合研究所(本社:東京都品川区)が開催した「大学広報セミナー」。橋場さんは、「大学改革のポイントとは何か」をテーマに講演。「動かなければ変わらない」と話し出した。
 ◆35年間の立教勤務
 1975年、立教学院用度課に就職。以来、いろんな仕事をしてきた。総務部用度課では、「UIプロジェクト」に取り組みブランディングの大事さを学んだ。総長室企画課では、新キャンパス開発計画に携わり、教育の中身を変えていくためには、それと一体となった環境の整備・充実が不可欠であることを知った。
 学務部学務課と設置準備室では、教育の改革に取組んだ。それまで、立教大学は『キリスト教、長嶋茂雄、赤レンガ』のイメージが強かった。これを変えるべく、教養科目の改革や学部学科の新設再編を行ってきた。
 5年間で入学志願者を3万人台から7万人台にした入試戦略の話だが、これは「受験生を2倍にしよう」と単純な発想で始めた。センター入試を採用し、学部を二度受けられる試験制度を取り入れたのが嚆矢だった。
 高校訪問では人海戦術を使った。最重点高校、重点高校などと色分けして、立教の学費、教育内容、就職などが一目でわかる手帳をつくり、それを持って進路指導の先生を訪問。職員全員がセールスマンという気概が漲っていた。
 その後、神奈川県からの志願者を増やそうと行ったのが「エリア戦略プロジェクトK(神奈川)」。同県内の高校の校長と本学総長の食事する場を設け、そのあと、職員が高校を訪れた。同時に、県内の主要駅や電車内にポスターを貼り、大学主催のイベントも企画した。「プロジェクトK」は大きな成果をあげた。
 ◆いま大学は再構築期
 我が国の大学の創設期は、家族的な私塾で、エリートが集まった。法、文といった一文字学部だった。戦後の高度成長と重なる拡張期になると、大学の大衆化が進みマスプロ教育で、経営、理工といった二文字学部が増えた。
 いまは、再構築期にある。共存から競争へ、量から質へという流れだ。その中でも、国際何とか学部とか多文字の学部をつくれば受験生は増える、なんていわれもした。マンモス化が進み、上位20%の大学が市場の80%を押さえている。
 立教大学はどう動いたか。いい教育をするには、いい施設が必要。いい施設をつくるには財政的裏づけがないとだめだ。取り組んだのは①学士課程の見直し②少人数教育の実現③語学教育の充実の三つで、「英語力の立教の復活」をねらった。
 語学力強化に伴う少人数授業は、大勢は20人だったが、8人にまで下げた。 
 ◆財政情報の公開を
 財政改革の前に行うべきは、財政情報の公開だ。大学改革のはじめの一歩は財政開示といってもいい。とにかく、パンフレットなどでわかりやすく、教職員全員で大学の財政状況を共有化することが肝要だ。
 学長や財務担当理事は、繰り返し、何度も財政状況を伝え、「ない袖は振れない」ということを学内に向けて明確にすることだ。財政改善だけが目的ではないことを伝え、将来計画の策定と中長期財政改革を提示すること。
 職員は、単年度収支だけでなく、中長期財政計画の財務比率の徹底理解が求められる。「基本金・資産はどうなっているのか」、「補助金はどのような傾向にあるのか」、人件費の見直し(多様な雇用)に関しては、「業務の外注・委託化の可能性は」、「職員の非選任化は」などを検討する必要がある。
 ◆教学改革のポイント
 これからの大学の教育改革のポイントは、①学士課程教育の再構築(入口から出口まで)②少人数教育、③自校教育(自分の大学に愛着を持たせる仕掛けをつくる)、④語学教育、⑤品質保証のひとつとしてのキャリア教育―の五つ。
 これらを実現するためには、教学改革は点でなく、面でとらえて、同時に大胆に行う必要がある。目的は、利益代表のためでなく、大学の将来のためであることを忘れてはいけない。手法としては、学内の英知の結集と人的資源の有効活用、再配置が求められる。四年たったら見直すのを原則にすべきだ。
 教学改革では、教員の働き方を再考する必要がある。既得権を廃し、数字でルール化を図るべき。大学設置基準を確認し、それぞれの大学にあった算出方法で行うべき。専任教員数▽学部別の展開コマ上限▽専任教員一人当りの担当コマ上限を設定し、学部管轄人件費によって学部の自由裁量による任期制教員の配置も考慮したほうがいい。
 ◆大事なブランド力
 ブランディングについて話そう。かつて、つぶれる大学三条件といわれたのが、地方の大学、女子短大、ミッション系大学だった。それぞれ、マーケット、四年制志向、学生のニーズなどが要因とされた。
 こうしたなか、ブランド作りで成功したのが上智大学と立命館大学。上智大は戦前はパッとしなかったが、四谷という場所、語学教育強化で女子学生の就職率を上げ、それに男子学生が引っ張られた。立命館大は職員自らが、アカイ、ダサイ、クライと言っていた。それを職員出身の理事長が危機感を持って改革に取り組み、キャンパス移転、学部新設などで西の大学の雄に。二つの大学からは学ぶべきことが多い。
 ◆あるべき大学広報
 これからの大学広報については、六つのことをあげたい。①伝えるのはひとつで、繰り返し伝える、でないと浸透しない。②選択と集中。ある学部を取り上げると、他の学部も、となる。そうなると、話題が薄まってしまう。とんがることが大事だ。
 ③優先するのはニーズかシーズか。客(受験生)が何を求めているか、調査してから実施するのでは遅い。仮説を立てて、もしかしたら売れる、と判断すべき。ソニーのウオークマンが売れたのは、このシーズだった。
 ④新聞広告など広告費は人集めに使うべき。創立100周年のみの訴求では効果はない。連続記念講演とかイベントをからませるのが肝要。⑤大学の評判をどう作るか。マスコミの教育担当記者や大学の専門紙などに取材してもらうのも一案。大学担当の記者らに自分の大学を知ってもらうと、そこから、大学の姿がじわじわと浸透する。
 ⑥パートナー(代理店)選び。その代理店は、大学に理解があり、成功事例があるか。提案し、ライバル会社を意識しているか、営業マンは顔が見えるか、などから決めるべき。
 ◆大切な三つのワーク
 最後に、大学広報マンとして、大事なことを話したい。それは、三つのワークである。それは、チームワーク、フットワーク、ネットワーク。私は、企画課長の頃、5時から仕事をした。学部再編で学部長らと飲みながら喧嘩して話をまとめたものだ。
 大学職員の仕事は、机の上だけではないことを知ってほしい。仕事を通して人間を磨き、人間を豊かにすることを忘れてはいけない。改革は一朝一夕にはできない。三つのワークで長期戦覚悟でやってほしい。

はしば・ふみあき

 1949年、東京生まれ。立教大学経済学部経営学科卒。大学院文学研究科で学び、その後、米国で組織開発・地域開発・戦略立案方法の研究およびプロジェクトに従事。75年、立教学院に勤務。企画課長・広報渉外部長・総長室事務部長・企画部長を経て、07年から10年3月まで立教学院常務理事兼総長補佐。現在、学校法人立教学院総務部主幹。これまで、UIプロジェクト・新学部設置・社会人向け大学院の設置・キャンパス整備計画・長期財政計画・ブランディング戦略などを担当するとともに、大学および法人各校の経営戦略の立案を手掛けた。