特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<209>明治薬科大学
最新の医療薬学教育を施す
国家試験現役健闘 7つの独自研修Pで養成
「ソフィア(純粋知)とフロネシス(実践知)を兼ね備えた人材を育成する」を理念に掲げる。明治薬科大学(石井啓太郎学長、東京都清瀬市)は、6年制の薬学科と4年制の生命創薬科学科の2学科で、実践的な医療薬学教育から研究まで幅広く網羅した薬科大学である。創立116年の伝統を誇り、多くの人材を輩出、これからの医療を担う薬剤師・創薬研究者を育てている。約4ヶ月の実習・演習を行う薬学科の「七つの独自研修プログラム」や大学院と一体化したカリキュラムにより、最新の医療薬学教育を施している。薬剤師国家試験の現役合格率の高さや卒業生のサポートなどによる就職の強さが特長。「薬学教育のflagship university としてリードし続けるとともに、医療人として、質の高い真に力量ある薬剤師、あるいは、創薬や生命科学の優れた研究者・技術者など、医療・薬学の様々な分野でリーダーたる人材を育成したい」と語る学長に、大学のあゆみ、改革、これからなどを聞いた。
(文中敬称略)
創立116年の伝統を誇る
明治薬科大学は、創学者の恩田重信が、1902年、神田区三崎町(現千代田区三崎町)に開校した「東京薬学専門学校」が淵源である。「開校当時は大成学館の一室を借り受け、学生14人からの出発でした」と学長の石井。
「恩田先生は東京帝国大学医学部製薬学科を卒業後、『薬学の普及と社会に有用な薬剤師を養成し、医薬分業を実施し、もって国民の保健衛生へ貢献する』を建学の精神として、東京薬学専門学校を設立。その精神は百十余年を数える明治薬科大学の歴史に脈々と受け継がれてきています」
1906年、明治薬学校と改称し、学生数も200人を越えるまでになった。07年、日本最初の女子薬学校の東京女子薬学校が設置された。同年、二つの学校共に麹町区紀尾井町(現千代田区)に移転。
大正の関東大震災や昭和の東京空襲で校舎を焼失、世田谷区や田無町(現西東京市)などに移転。戦後の1949年、新制大学の明治薬科大学となる。50年、東京女子薬学専門学校は明治薬科大学・田無校となる。
57年、製薬学科(世田谷)、厚生薬学科(田無)をそれぞれ設置。64年、厚生薬学科を薬剤学科に改称、衛生薬学科を設置。75年、大学院薬学研究科修士課程、77年、大学院薬学研究科博士課程を設置。
98年、キャンパスを世田谷及び田無から現在の清瀬に移転する。2006年、薬学教育6年制移行により、薬学部薬学科を6年制に移行、4年制学科の生命創薬科学科を併設。
現在、2223人(薬学科1951人、生命創薬科学科272人)の学生が学ぶ。男女比は男子4、女子6の割合で、女子の比率が高く、出身地は、東京、神奈川、埼玉など首都圏が8割を占める。
二つの学科の学び。薬学科は、基礎教育からコミュニケーション能力の育成、充実した実習病院など、6年間の教育課程を通して、医療人としての薬剤師を育成する。
「医療の最前線で活躍する新時代の薬剤師の育成を目指して質の高い薬剤師を養成。将来、専門知識を生かしてチーム医療・訪問医療・治験などに携わる薬剤師として病院・薬局・治験機関などを中心に活躍します」
同大独自の「7コースの独自研修プログラム」。5年次に、試験受験資格に必須な病院・薬局での22週間の実習に加えて、学生の多様な進路に即した経験と実践力を養成でき、実務能力を身につけることができる7種類の特別コースがある。
「病院薬学コースは、病院実習を通して臨床教育が充実、臨床において薬物治療に積極的に貢献する臨床薬剤師を養成。地域医療コースは、保険薬局や高齢化社会でニーズの高まる在宅医療を担う薬剤師を育成します」
臨床開発コースは、製薬企業、CRO(臨床開発受託機関)、SMO(治験施設支援機関)で新薬の臨床開発に携わる薬剤師を、健康薬学コースは、環境衛生、食品衛生、疾病の予防、薬事行政等の分野で活躍する薬剤師をそれぞれ養成。
「伝統医療薬学コースは、漢方医療や代替医療等、疾病の予防に重点を置く伝統医療や医食・薬食同源に立った教育を施し、薬学研究コースは、学内での臨床研究医療実習の中で学んだテーマに、学内でじっくりと研究に取り組みます」
「海外医療研修コースは、グローバル化対応として提携校への短期留学を目指します。カナダのアルバータ大学やイギリスのハートフォードシャー大学、タイのチュラロンコーン大学、マヒドン大学等の提携校に留学します」
生命創薬科学科は、生命科学と創薬化学の確かな基礎学力と研究能力を身につけ、問題提起及び解決を図ることのできる人材を育成。学部在籍時から大学院と連携したカリキュラムを実施、スムーズに大学院に進学できる体制がある。
「学部卒業後においては、製薬企業のMR、開発や品質管理の技術者、公務員など様々な職業などに、大学院修了後においては、製薬・化学・バイオ関連企業の技術・研究職、公的機関の研究員などの仕事にそれぞれ就きます」
薬剤師国家試験への取り組み。きめ細やかな試験対策と徹底したサポートにより、毎年安定した高い合格率を維持している。薬剤師養成教育6年制移行後の第1期生(2012年)~第7期生(18年)の7年間の卒業生における薬剤師国家試験合格率は、96.89%と高い数値を残している。
高い就職率。2018年3月卒業の就職率では、98%(薬学科100%、生命創薬科学科97.0%)と高水準を維持。2018年の雑誌の「全国240大学実就職率ランキング」では、薬系大学で2番目の順位で、7年連続95%以上の就職率を達成した。
各学年に応じた様々な就職支援プログラムを組み、入学時より就職活動をサポート。4年制の学科では3年次に、6年制の学科では4年次に全員が研究室に配属されるので、研究室所属の教員、大学院生、研究室のOB・OG等、多方面から就職関連情報の収集とサポートが受けられる。
「本学の特長は、大学と同窓会の明薬会が連携して在校生の就職活動をサポートしていることです。さらに、各業界で指導的立場に立って活躍している多くの卒業生とのネットワークが本学の高い就職率につながっています」
地域貢献活動は薬大らしさがある。市民向けでは、「ジェネリック医薬品の現状」といった公開講座を実施。「今年で12年目になる高校生のための『夏の学校』では、『くすりの科学』や『生き物がつくる薬の世界』などの講義と実習を行ない、参加した生徒には修了証を渡します」
同大が清瀬市に移転して20周年を迎え、今年6月に記念イベントを行った。「健康をテーマにした記念講演のほか、薬の相談やミニ講演会、学内見学ツアーも行いました。地域の住民ら300人が参加してくださいました」
今年7月、同大と星薬科大学、京都薬科大学の3大学は、薬学生の教育や社会で働く薬剤師の教育、研究面で幅広く連携する包括協定を結んだ。創立100年以上の歴史を持つ3大学が、ノウハウを持ち寄り、より良い教育体制を構築する。となった
大学のこれから。「3大学連携は、近年、薬剤師の活躍するフィールドは拡がっており、薬学教育の重要性が高まっています。本学としては、教育、そして研究の質を高め、社会の期待に応えるに、改革を一歩一歩、着実に進めていくのが大事だと思います」
こう結んだ。「近年の高度化した医療技術や医薬分業の進展など、刻々と変化する医療環境に応えるため、100年を超える歴史と伝統を活かし、これからも薬学の幅広い分野にリーダーとなる優秀な人材を育成していきたい」。石井は、歴史と伝統も基にさらなる飛躍をめざす、ことを誓った。