特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<206>健康科学大学
学生の生涯をサポート
豊かな心を育む 医療・保健・福祉の専門家育成
豊かな心を持った医療・保健・福祉の専門家を育成する。健康科学大学(荒木力学長、山梨県南都留郡富士河口湖町)は、2003年に健康科学部(理学療法学科、作業療法学科、福祉心理学科)の1学部3学科で開校したフレッシュな大学。16年に看護学部(看護学科)を設置、現在、2学部4学科を擁する。今後、ますます高度化・多様化する我が国の医療・保健・福祉の分野で、国民のニーズに的確に対応しうる人材の育成をめざしている。06年、リハビリテーションクリニックを開院、地域の住民の診療とともに、学生の実習を行っている。入学から卒業後まで、学生の生涯をサポートする支援体制や高い就職率、それを支える充実した国家試験対策などが特長。「1年次からクラス制を導入し、医療・福祉等の現場で経験豊かな専任の教員が学生一人ひとりを親身に指導しています」と語る学長に大学の歩み、改革、これからなどを聞いた。
(文中敬称略)
国家試験合格・就職率100%めざす
豊かな自然に囲まれ、医療・保健・福祉・心理を学ぶにふさわしい教育環境がある。河口湖キャンパスは、雄大な富士山を正面に望み、四季を通じた自然に囲まれている。都留キャンパスも豊かな自然と教育環境が整った文化学園都市の山梨県都留市にあり、豊かな人間性を育む。 健康科学大学の淵源は、1903年、岩手県一関市に開校した裁縫修紅女学校。戦後の48年、一関修紅高等学校が開校、53年、修紅短期大学・家政科(現在、幼児教育学科と家政学科)が一関市に開学。
03年、健康科学大学(健康科学部理学療法学科、作業療法学科、福祉心理学科=社会福祉コース、精神保健福祉コース)が開学。「医療系専門職を育てる、健康を科学する4年制大学をつくろうと、富士河口湖町の協力もあって富士山麓に設置しました」と学長の荒木。
06年、リハビリテーションクリニックが開院。「本学の教員や卒業生などが地域住民らの診療を行っています。また、在学生の実習施設として活用、地域医療・保健・福祉の一端を担いながら、本学と地域をつなぐ大きな役割を果たしています」
08年、福祉心理学科に発達臨床心理コースを開設。16年、看護学部(看護学科)を設置。「山梨県東部富士五湖地域に看護系大学がないことから、都留市が誘致を行い、健康科学大学に看護学部設置が決まりました。私は、看護学部の設立準備室長として赴任しました」
荒木は、1973年、東京大学医学部医学科卒業、東京大学助教授(附属病院放射線部副部長)、山梨医科大学教授、山梨大学大学院教授などを歴任。日本の放射線医学の権威である。2013年、健康科学大学副学長に就任、17年から健康科学大学長を務める。
荒木が大学について語る。「本学は、これからの福祉社会の発展に寄与するために、様々な複合的問題に立ち向かうことができる問題解決能力を備えた人材の育成を目指しています。建学の精神・基本理念を要約すると、『豊かな人間力』、『専門的な知識・技術力』、『開かれた共創力』の三つを兼ね備えた人材を育成することが使命だと考えています」
現在、2学部に949人の学生が学ぶ。男女比は、男子3、女子2の比率で看護学部は女子が85%を占める。出身地は、山梨が60%で、隣接する長野と静岡の三県で90%になるという。
各学部・学科の学び。「専門職養成校として国家試験合格へ導くカリキュラムを基盤としながら、学生が自ら学ぼうとするアクティブラーニングを活発化させ、確固とした知識・技術の定着を図ります」
全学部・全学科で国家試験受験資格を得ることができ、国家試験合格率100%、就職率100%をめざしている。就職率(16年度)は99%。学生一人当たりの有効求人件数は37.7件。
健康科学部理学療法学科は、卒業すると、理学療法士国家試験の受験資格を取得できる。「理学療法士は、病気やケガなどで身体が不自由になった患者に対して、身体機能の回復をサポートし、一日も早く社会復帰できるように支援。本格的な高齢社会を迎え、その重要性はますます高まっています」
同作業療法学科は、作業療法士国家試験の受験資格が得られる。「身体や心の障害のために、必要な活動がうまくできない人(生活障害)に対して治療や訓練、援助を行い、その人らしい生活を送れるように支援、患者の精神面や心のケアまで行います」
こう付け加えた。「第3の医療と呼ばれるリハビリテーション医療は、少子高齢化社会の中で重要な役割を果たしつつあります。リハビリテーション医療を担うスペシャリストとして、理学療法学科は理学療法士、作業療法学科は作業療法士を養成します」
同福祉心理学科は、社会福祉士(国家資格)精神保健福祉士(同)認定心理士(認定資格)などをめざす。「社会福祉士、精神保健福祉士は、医療施設や福祉施設等で専門家として就業し、心身に障害のある人、子ども、高齢者などの福祉に関する相談、助言、指導、訓練などを行い、他領域との連携・調整を図ります」
社会環境の変化に対応
看護学部(看護学科)は、看護師(国家資格)と保健師(同)をめざす。「主に医療機関で、医師の診療・治療を行う際の補助や入院している患者の生活をサポートするのが看護師の仕事。地域や企業などで、専門的知識をもとに病気の予防や健康維持のサポートをするのが保健師の仕事です。
医療技術の進歩による医療の高度化、急速な少子高齢化、医療に対する国民ニーズの多様化、在宅医療ニーズの高まり、さらには医療の安全確保やチーム医療の推進など、看護職員に求められる能力は年々複雑化・高度化しています。このような社会環境の変化に対応しうる看護師と保健師を養成しています」
「地域福祉」に貢献
地域貢献。「高齢者や子供、障がい者という分け方ではなく、地域で皆で支え合おうという『地域福祉』の考え方が広がりつつあります。地域と密着した活動は、地域社会の重要性を理解することにつながっていきます」と持論を述べる。
具体的には、災害や救急医療をテーマにした「出前講義」を県内の小中高校で実施。都留市では、「防災に関する市民アンケート」を行い、結果を分析して報告するとともに地域住民主体の「避難所運営訓練」に参加するなどの活動を展開した。
大学のこれから。「学年ごとに取得する単位数を決めて、クリアできないと次の学年に進級できないという制度を設けました。また、資格取得、国家試験合格を重視する大学として、1、2年次はクラス担任制を設け、2、3年次は基礎・臨床医学を学び、3、4年次はゼミで学修というように国家試験対策から生活指導まで教員がきめ細かくサポートする改革を行ってきました」と振り返った後、続けた。
「外に向けては、国家試験合格率、就職率、学生の満足度の三つとも100%にするのが使命です。内に対しては、これまで以上に学生をきめ細かく面倒をみること、卒業後も支援し、背中を押していきたい。地域との良い関係も揺ぎ無いものにしたい。健康科学部の就職先は圧倒的に県内だし、再来年に卒業生を出す看護学部の卒業生も県内に就職させたい」
学生ファースト中心に
医学博士らしく、穏やかながらも力強く結んだ。「団塊の世代が大量に高齢化していく問題に、社会全体はもちろん、医療・保健・福祉の世界も直面しています。"学生ファースト"を中心に据えた大学改革を推し進め、豊かな人間性と高い倫理性に立脚した高度な専門性を備え、他の専門領域についても横断的・融合的に理解・研究・実践しうる人材を、これからも社会に送り出していきたい」