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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<200>尚絅学院大学
多難な時代、生き抜く実力養う
来年度から学群制に  「多様な学び」を実現へ

 「キリスト教の精神を土台として、自己を深め、他者と共に生きる」が建学の精神である。尚絅学院大学(合田隆史学長、宮城県名取市)は、明治以来120年余にわたり、一貫してキリスト教精神を土台とする人間教育を行ってきた尚絅学院が淵源である。尚絅学院大学は、2003年に男女共学の四年制大学(総合人間科学部一学部)として開学した若い大学。学生一人ひとりに配慮が行き届く、中規模の大学ならではの多様性ときめ細やかさを兼ね備えた教育を施す。2015年度の環境構想学科の設置を機に、全学的な教育課程改革を行うなど改革を続け、2019年には既存の1学部6学科から「多様な学び」の実現に向けた3学群5学類に再編成する計画。「学生一人ひとりがかけがえのない存在であることをふまえ、学生の個性を尊重し、内面性の豊かな人間の育成をめざしています」と語る学長に学園の歩み、3学群5学類への再編、これからを聞いた。
  (文中敬称略)

キリスト教精神が土台 「人間教育」を施す

  2019年4月から、人文社会学、心理・教育学、健康栄養学の3群に再編成する狙いから尋ねた。学長の合田は、時代背景から説明した。
  「経済的格差や地域間格差の拡大、人口減少と少子高齢化、産業構造の変化への対応、震災からの復興など、日本社会が抱える問題は山積みです。グローバル化は、そうした問題の解決をより複雑かつ困難なものにしています。学生には、このような時代を生き抜く『実力』を身につけさせようと考えました」
  2年前から、若手の准教授らを中心に検討に入った。「それまでの総合人間科学部の理念を大切に将来に向けて、時代のニーズや学生の関心がある学生本位のプログラムを創ろうと検討。学群制を導入して柔軟なカリキュラム編成をし、教員の壁をなくして新しいプログラムに移ることにしました」
  どう変わるのですか?「これまでの学部・学科制では、学生に何を教えるかを重視した教育を行ってきました。学群制では、学生自身が自分の夢や関心にあわせて、社会的課題の解決に焦点を当てて、将来に役立つ『実力』を身につけるための学びを主体的に選択します。現場へ出て現場から学ぶ総合実践演習と卒論が必須になります」
  人文社会学群は、人文社会学類(現代社会、地域実践、都市生活、国際文化、メディア表現の五領域)、心理・教育学群は、心理学類、子ども学類、学校教育学類(小・中学校(国語)、同(保健体育)、小・特別支援学校の3領域)の3学類、健康栄養学群は、健康栄養学類と、3学群5学類8領域となる。
  「教員・保育士、認定心理士、管理栄養士といった資格取得を志す学生には、実績ある養成課程で合格まで寄り添います。将来の可能性を模索している学生には、幅広い学問分野と現場体験の中から自分の将来を最適化する場を提供します」
  1892年、仙台市に開校の尚絅女学会が尚絅学院大学の前身であり、米国バプテスト派婦人外国伝道協会から派遣されたミス・ミードら女性宣教師たちの伝道活動の中で開校。「キリスト教の信仰と女性の教養を授ける普通科と伝道婦人養成のための聖書科をそなえ、生徒数9名での出発でした」
  学校名は、中国の古典『中庸』の一節「衣錦尚絅」(錦を衣て絅を尚ふ)に由来する。「表面を飾らず内面の充実に努めるという、人としての心構えです。初代校長のミス・ブゼルも新約聖書に通じる言葉と言っていたそうです」
  1899年、校名が尚絅女学校となる。1920年、3年制高等科(英文科・家事科)を設置。36年、高等科を専攻部と改称。40年、英文科、商科を廃止、専攻部選科を家事選科と改称。
  46年、専攻部に英文科を設置。48年、体育科を設置。50年、尚絅女学院短期大学(家政科・英語科)が開学。55年、保育科、67年、英文科を設置。89年、人間関係科設置。名取市にキャンパス移転。
  2003年、男女共学の尚絅学院大学が開学。総合人間科学部(人間心理学科、健康栄養学科)が開学。07年、表現文化学科、現代社会学科、生活環境学科、10年、子ども学科を新設。15年、生活環境学科を環境構想学科と名称変更。
  現在、総合人間科学部(表現文化学科、人間心理学科、子ども学科、現代社会学科、環境構想学科、健康栄養学科)に2007人の学生が学ぶ。男女比は男子4、女子6と女子が若干多い。出身地は、宮城を中心に東北6県が大勢を占める。
  学群制に移るが、尚絅学院大学の学びのレゾンデートルは変わらない。教員との距離は近く、きめ細かいサポートが受けられる少人数教育。教員1人当たりの学生数は24.0人。ゼミナール形式の授業は学生数が10人以下に設定。
  「少人数クラスによる実験や実習、ゼミナールを通し、学生と教員がお互いを理解し合い、学びを深める実践的な教育を展開。一人ひとりの学生に担当のアドバイザーがつき、学生の『学び』をナビゲートしていきます」
  卒業生の就職率(2017年3月、進学・就職を希望した学生に対し進学・就職が決まった学生の割合)は97.8%と高い。東北地方を中心に幅広い業界へ卒業生を送り出している。その原動力は、学生一人ひとりに寄り添う就職支援体制。
  「個別面談を通して、学生個別の『カルテ』を作成し、就職に関する希望や悩み、活動状況などを詳細に把握。教員とも綿密に情報共有を図り、それぞれの状況に応じて支援。進路就職課のスタッフ7名中4名がキャリアカウンセラーの国家資格を持っています」
  地域貢献は、キリスト教の精神がみられる。「地域の人々の思いを汲み取り、他者とともに活動する態度とスキルを身につけようと、学外の人との交流が盛んです」とくに東日本大震災では、地元の名取市閖上(ゆりあげ)地区が大きな被害を受け、被災地支援には大学挙げて取り組んだ。
  「3・11以降、学生が中心となって被災地に行き、名取市のボランティアセンターの切り盛りをするなどの活動を展開。その後、学内にボランティアセンターを立ち上げ、全国の大学のボランティアを受け入れ、仮設住宅で支援。現在も、復興住宅を訪問、コミュニティーづくりなどのお手伝いをしています」
  どの学科の学生も参加できる教育プログラムに地域実践コースがある。「名取市や川崎町と連携した地域の振興のイベントなどを開催しています。この実績を活かして3学群5学類になっても、地域貢献はプログラムに組み入れたい」
  グローバル化にも傾注する。総合人間科学部の各学科を横断する国際教養コースは、グローバル化が進む社会で必要な知識とコミュニケーション力を身につける。研修や短期留学を通じて海外で学ぶ。海外からの留学生は、海外協定校との交換留学などで18人が学ぶ。
  今後、グローバル化は、人文社会学類国際文化領域が主導するという。「英語だけでなく、国際的視野に立って地域の経済社会、ひいては文化の向上と人類の福祉に貢献できる人材を育てたい。そうした面に関心のある学生がターゲットになります」
  学生サークルも活発。「ヒトノワ」は、生涯学習や地域を学ぶ学生による有志団体。5月10日に「尚絅語らいマルシェ」を開催。「会話の弾むマルシェ~お店とお客のプロムナード~」と題し、名取市内の生産者を中心に12団体が出展した。
  大学のこれから。「宮城県を含め東北6県の大学進学率は全国平均(54%)より低い。地元の大学がもっと魅力ある大学となり、東北の高校生が地元で学べる機会を増やす必要がある。東京に行かなくても学べる、ダムの機能を果たすべきではないでしょうか」
  18歳人口の激減で「2018年問題」がいわれるなか、どうすればいいのか?「社会人、留学生をどう惹きつけるか。教員や栄養士などの学び直しだけでなく、人生を豊かに生きようと歴史や文学などを勉強したい中高年をターゲットにして、大学院レベルの魅力的なプログラムをつくりたい。外国で日本語や日本文化に興味を持っている学生は多い。彼ら彼女らに日本語としっかりした高等教育を教え、母国に帰って学んだことを教えるという循環もいいと思う。そのためにも教員の共同研究などを通して提携校を増やしていきたい」。合田は、ダイナミックな改革を絶やすことなく続ける。