特集・連載
大学は往く 新しい学園像を求めて
<199>昭和薬科大学
総合力ある薬の専門家育成
チーム医療にも傾注 研究成果を教育に還元
「独立と融和」が建学の精神で、「薬を通して人類に貢献」が理念である。昭和薬科大学(山本恵子学長、東京都町田市)は、1930年に設立された昭和女子薬学専門学校(東京府目黒区)が淵源で、88年の歴史を誇る薬学教育の伝統校。6年間を通したトータルサポートにより安定した薬剤師国家試験合格実績を積み重ねている。①先生に疑問を投げかけることのできる学修支援室など学生サポート②録画授業をインターネットで学習可能なe―ラーニングシステム③学ぶ姿勢を養うSGD(スモール・グループ・ディスカッション)教育などが特長。国家プロジェクトや薬学の先端的研究に取り組む研究力を誇る。「社会の要請に応えていくため、薬剤師は薬の専門家として、今まで以上に知識・技能・人間性をしっかり身につけなければなりません。社会は総合力のある薬の専門家を求めています」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)
「薬を通して人類に貢献」が建学の理念
緑豊かで清々しい空気に包まれたキャンパス。東京ドーム3.7個分の広さで、オオタカやカッコウ、狸までいるという。正門から本館、講義棟、実習・研究棟などが整然と並ぶ。薬用植物園は、全国の薬科系大学でも屈指の規模を有する。
1930年に設立された昭和女子薬学専門学校は、1945年、戦災で校舎が焼失、世田谷区弦巻に移転。49年、新制大学として昭和女子薬科大学が設立。50年、昭和薬科大学と改称、男女共学となる。
「昭和女子薬学専門学校は、教員と篤志家の助力を得て創設されました。いわゆるオーナーが存在せず、在学生、卒業生、教職員、父母らが協力して学びの場を築き上げてきました。今もなお、家庭的で自由闊達な校風を育んでいます」
65年、長野県白樺湖畔に諏訪校舎(2001年に廃止)を設置、生物薬学科を増設。69年、大学院薬学研究科修士課程を設置。90年、キャンパスが世田谷区から町田市に移転。91年、大学院薬学研究科博士課程、98年、大学院薬学研究科修士課程に医療薬学専攻を設置。
2006年、学校教育法等の改正に基づき6年制に移行。12年、6年制薬学部を基礎とする大学院薬学研究科博士課程薬学専攻を設置。現在、薬学部薬学科に1511人の学生が学ぶ。男女比は男子3.5、女子6.5と女子がやや多い。
学長の山本は、医薬品化学が専門で、平成30年度日本薬学会学術貢献賞を受賞するなど研究活動に実績がある。この4月、副学長から学長に就任したばかり。最初に同大の特長である「四つの"近い"」について説明した。
①は、「薬剤師国家試験合格に」近い。2017年は89.17%(全国平均は85.06%)。「入学時から教育課程の節目ごとに学力を確認、サポートの必要な学生には集中講義や補講を行っています。また、国家試験に出る基礎薬学を中心に統合薬学教育研究室が学力の底上げを行っています」
②は、「教授や仲間とのココロの距離が」近い。6年間をサポートするアドバイザー制度が支える。「1人の教員が15人程度の学生を担当。学習指導から学生生活の悩み、4年次からの所属研究室の選択、将来の進路などについて指導や助言をします。4~6年次は、所属研究室の教員がアドバイザーになります」
③は、「医療人としての夢の実現に」近い。CSS(キャリア・サポート・センター)が多様な進路をサポート。「CSSによる学生一人ひとりに対する親身のサポートで、就職率も99.5%。病院、薬局のほか、製薬企業の研究職、CRO(治験開発)、公務員など、進路は多岐にわたっています」
④は、「キャンパスが緑豊かで自然に」近い。これは、冒頭で紹介した通りである。緑地率は40%もあり、自然豊かな教育環境で学ぶことができる。
学びは、充実した実習と最新の施設・設備が支える。「学生は4年次から研究室に所属し、卒業実習教育に取り組んでいます」。e―ラーニングは、10年以上前から導入、ほとんどの科目で取り入れている。
6年制教育に高いレベルで対応する最新の教育施設。「事前実習のためのモデル薬局、モデル病室には、実際の病院薬局、保険薬局のような受付カウンター、調剤ルームなどが導入されて薬学に専念できる教育環境が整えられています」
誇る研究力。医療薬学、生命薬学、創薬科学、社会薬学などの研究室がある。「教育と研究は車の両輪です。各研究室が連携し、独自の研究に加え、学際的な共同研究を展開しています。若手研究者の育成にも努めるとともに、研究成果を教育の場に還元しています」
2014~16年の毎年8月には、将来を担う若手研究者育成の一環として、アジア圏の優れた研究者を本学に招き、「第1~3回国際シンポジウム」を開催し、学内外から多くの参加者があったという。
文部科学省が国家プロジェクトとして推進する「創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業」に制御拠点・合成領域として参画、同省の「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」にも採択された。
前者は、全国の大学や研究機関の高度な技術基盤を活用し、創薬研究やライフサイエンスに関わる研究者を支援し、先端的な研究の振興に寄与するのが目的。「本学は、合成領域の支援機関として東京大学をはじめとする研究機関のヒット化合物と周辺化合物の合成を支援し、サンプルを提供しました」
後者の私立大学戦略的研究基盤形成支援事業。「生体分子のコバレント修飾をキーワードに、複数の研究室が参加し、学内共同研究や若手研究者の育成を推進してきました」
チーム医療に力を入れる。昨今、医療現場においては、チーム医療の構成員である医師、看護師、薬剤師等、多職種のスタッフが連携して積極的に医療に参画し、医療上の問題を解決することが求められている。
医科大学などと協定を結び、多職種連携授業を展開する。「連携のために必要な医療の流れ、医療の構成員、チーム医療に関する基礎知識、技能、態度を習得します。そのため、関連する学科の学生でグループを形成し、医療チームで取り組むべき課題、目指すべき方向、多職種の役割を学びます」
聖マリアンナ医科大学に続き、3月に東海大学と学術交流協定を締結。「それぞれが専門とする分野の特色を活かして、医療における分野の教育水準の向上と高度専門職業人の養成および地域貢献を図っていきたい」
地域貢献は、薬科大学らしさがある。公開講座は、教員が地域の高齢者向けに薬の利用法などの講演を行う。「寄附講座では地域の薬局と連携して市民向けの講演や薬剤師の生涯教育も行っています」
薬用植物園は、地域の住民に解放されている。「薬用植物や熱帯の有用植物が身近に観察できます。春から秋にかけて、本学の教員がガイドをつとめ『薬草教室』を開催しています」
大学のこれから。「医薬分業が進む中、病院薬剤師は医師・看護師等と連携したチーム医療で、患者さんの薬物治療により積極的な役割を果たすことが期待されています。一方で、地域医療・在宅医療に貢献する薬局は、従前にもまして地域に密着した『健康サポート薬局』としての機能を担っていく必要があります」と現状を説明。
「これからの薬剤師には『人』と向き合い、日常的な健康管理やセルフメディケーションの身近な相談相手となることが求められます。今後とも、そうした薬剤師を育てていきたい。そのためにも教育と研究の質を高めるともに、特待生制度や学生寮を充実させるなど学生支援を強化し、研究成果を教育に還元するなど薬学の魅力を発信して、昭和薬科大学のブランド力を高めていきたい」。こう結んだ。「教育と研究は車の両輪なんです」。研究者の顔をのぞかせた。